表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/66

第8話 悠斗の忠告

 放課後の体育館裏。

 冷たい風が、フェンスの間を抜けていく。

 空はもう薄暗く、校庭の端に伸びた影が長くたなびいていた。


「……お前、最近おかしいぞ」


 静寂を破ったのは、悠斗の低い声だった。

 彼の目はまっすぐ、迷いがない。

 いつもの飄々とした笑顔は消えている。


 直哉は無理に笑ってみせた。

「何が?」

「何が、じゃねぇよ。授業中も上の空。ノートには数字だらけ。

 あれ、何なんだ?」


 一瞬、胸の奥がざわついた。

 美咲のときと同じ。

 見られてはいけないものを、見られてしまった。


「ただのメモだよ」

「嘘つけ」


 即答だった。

 悠斗の目が、まるで見透かすように細められる。


「……お前、何か隠してるだろ」

 直哉は口を閉ざした。


 風が二人の間を抜ける。

 乾いた落ち葉が転がり、フェンスの向こうでカサカサと鳴った。


「なあ直哉、俺たち友達だよな?」

 悠斗の声は、さっきよりも少しだけ柔らかかった。

「だったら、頼れよ。

 全部ひとりで背負うなって。そんな顔してる奴、見たくねぇ」


 その言葉に、胸の奥が熱くなる。

 だけど、言えない。

 “兄の寿命が見える”なんて言ったら、誰も信じない。


「……大丈夫。ほんとに」

「お前の“大丈夫”は、信用ならねぇ」


 悠斗は苦笑し、ポケットに手を突っ込んだ。

「まあいい。

 でも、何があっても俺はお前の味方だ。

 それだけは忘れるな」


 そう言って、踵を返す。

 その背中に、直哉は思わず声をかけた。


「悠斗!」


 振り返った彼の顔に、迷いのない笑みが浮かぶ。

「……ありがとな」


 それだけを言って、直哉は下を向いた。

 頬を伝う冷たい風が、涙の代わりのように感じた。


 ひとりじゃない。

 けれど――

 それでも言えない秘密が、心の奥で重く沈む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ