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第3話 友の励まし

 夜風が頬を撫でる。

 病院の外は、ひんやりとした空気が漂っていた。

 吐く息が白く、街灯の下で揺れている。


 その光の中に、美咲の姿があった。

 制服のまま、両手を胸の前で組み、何度も小さく息を吐いていた。


「……ごめんね、こんな時間に」

 直哉が声をかけると、美咲は小さく首を振った。

「ううん。和也くん、大丈夫?」

「熱は下がったみたい。でも……」


 言葉が続かない。

 “でも”の先にある現実を、どう言えばいいのか分からなかった。


 美咲は一歩近づき、じっと直哉を見上げる。

「……顔、すごく疲れてる。全部背負ってるみたい」

「……そんなこと、ないよ」

「嘘。目がそう言ってる」


 その一言に、直哉の喉が詰まった。

 彼女の瞳には、何かを見透かすような強さがある。

 隠してきたものが、今にも崩れ落ちそうだった。


「俺さ……」

 言いかけて、唇を噛む。

 “寿命が見える”なんて言ったら、信じてもらえるはずがない。

 ただの同情でさえ、彼を壊してしまう気がした。


 美咲はそんな直哉の迷いを察したのか、そっと言った。

「無理に言わなくていいよ。話したくなったときでいい」


 その声は、驚くほど優しかった。

 押しつけも、詮索もない。ただ“待っている”という意思だけがそこにあった。


「ありがとう」

 その言葉を口にした瞬間、胸の奥が少し軽くなった。

 久しぶりに息を吸い込むことができたような気がした。


 美咲は笑った。

「和也くん、すぐ元気になるよ。あの子、昔から負けず嫌いだし」

 その笑顔は、まるで春の光のように柔らかかった。


「……そうだな」

 無理にでも笑顔を作り、直哉は答える。

 その笑顔が、ほんの一瞬だけ本物になった。


 しばらく沈黙が流れた。

 風が木々を揺らし、遠くの街の明かりが滲む。

 美咲が小さく息を吸い、言った。


「ねえ、直哉。もし何かあっても、一人で抱え込まないでね」

「……うん」

「約束だよ」


 指先を軽く伸ばしてくる。

 直哉も迷いながら、指を重ねた。

 小さなその接触に、言葉よりも確かな温度があった。


 誰にも話せない秘密。

 でも、今この瞬間だけは――孤独じゃない気がした。


 美咲の瞳が、夜の光を反射して優しく輝いていた。

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