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第4章  揺らぐ日常 ― 嘘と優しさのあいだで ― 第1話 異変の兆し

 秋の風が校舎の廊下を吹き抜けていく。

 朝の光はどこか冷たく、夏とは違う静けさを帯びていた。


 直哉は、教室の窓際で和也を見つめていた。

 笑顔は変わらない。いつも通り、友人たちと他愛のない話をしている。

 けれど――彼の頭上に浮かぶ数字は、昨日まで『10』だったのに、今朝は『9』になっていた。


 たった一晩で、一日分が消えた。

 まるで、時計の針が狂ったかのように。


(そんな……まだ何もしていないのに)


 焦燥が胸を締めつける。

 助けたいのに、どうすればいいのか分からない。

 「数字の減少」を止める方法なんて、どこにもないのだから。


 授業が始まっても、黒板の文字は頭に入らなかった。

 先生の声が遠く響く。

 ノートにペンを走らせながら、直哉はずっと考えていた。


(この力が、ただの“見えるだけ”のものなら……俺は、傍観者のままなのか?)


 放課後、昇降口で靴を履き替えようとしたときだった。

「おーい、直哉!」

 軽い声が飛んでくる。振り返ると、悠斗がサッカーボールを片手に笑っていた。


「部活、今日オフなんだよ。久々に寄り道でもしね?」

「……ごめん、今日はいいや」

「またかよ。最近、お前ほんと元気ねぇな」


 悠斗は眉をひそめる。

 直哉は答えられない。代わりに、目を伏せて小さくつぶやいた。


「……ちょっと、考えたいことがあるんだ」


 悠斗は何か言いかけたが、やめたように肩をすくめた。

「ま、無理すんなよ。俺ら、味方だからさ」


 その言葉が、胸に少しだけ温かく響いた。


 家に帰ると、玄関には母の声が響いていた。

「直哉、今日早かったのね。夕飯、すぐできるわよ」

「うん……ありがとう」


 食卓には湯気の立つ味噌汁と、煮物の匂い。

 いつもと変わらない、穏やかな夜のはずだった。


 だが、スマホに届いた一通のメッセージが、その平穏を壊す。


【和也が、倒れた】


 送信者は美咲だった。

 その文字を見た瞬間、直哉の心臓が凍りつく。

 視界の端で、まるで幻のように『9』の数字が赤く点滅した気がした。


(やっぱり、始まってる……)


 手が震え、スマホを握る指先に力が入らない。

 直哉は椅子を蹴るように立ち上がり、玄関へと走り出した。

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