第9話 和也の異変
昼休み。
教室の空気は、いつも通りの賑やかさに包まれていた。
誰かの笑い声や、机を囲む人だかり。
その中で和也も、友人たちとふざけ合いながら大きな声で笑っていた。
――そのはずだった。
「……あれ?」
和也が箸を持つ手を止め、眉をひそめた。
「どうした?」と隣の友人が声をかける。
「いや……ちょっと、目がチカチカして」
笑ってごまかそうとするが、直哉には見えてしまった。
頭上の数字が――『11』から『10』へと、音もなく減った瞬間を。
心臓が強く跳ねた。
ついに、この時が来たのだ。
「大丈夫か、和也」
直哉は駆け寄り、肩を支えた。
だが和也は「平気、平気」と笑って立ち上がろうとする。
その笑顔が余計に痛々しかった。
「無理すんなって!」
思わず声が荒くなる。
周りのクラスメイトたちもざわめき始めた。
「和也、保健室行ったほうがいいんじゃね?」
「顔、ちょっと青いよ」
しかし和也は、笑顔を崩さない。
「大げさだって。ただ寝不足なだけだから」
そう言って手を振るが、その手がわずかに震えていた。
直哉は何も言えず、ただその背中を見送ることしかできなかった。
数字は確かに減った。
これは単なる体調不良なんかじゃない。
(どうすれば……どうすれば助けられるんだ……!)
胸の中で叫びながら、直哉は拳を握りしめた。
昼下がりの明るい光が、かえって残酷に感じられた。




