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第8話 悠斗の支え

 中庭のベンチに腰を下ろした直哉は、ぼんやりとグラウンドを眺めていた。

 夕方の空は茜色に染まり、部活に励む生徒たちの掛け声が響いている。

 その声を聞いているはずなのに、頭の中は和也のことばかりで埋め尽くされていた。


(……『11』。変わってない。でも、いつ減るかわからないんだ)


 時間が止まってくれればいいと、何度願っただろう。

 しかし、寿命という数字は容赦なく刻まれていく。


 そのとき、視界の端に背の高い影が差した。

「お前、ここにいたのか」


 悠斗だった。

 サッカー部の練習帰りらしく、額には汗が光っている。

 だがその表情には、どこか柔らかいものがあった。


「最近のお前、どうも元気ねえな」

「……別に」

「またそれかよ。美咲にも言われてんだろ?」


 図星を突かれ、直哉は言葉に詰まる。

 悠斗はベンチに腰を下ろし、スポーツドリンクを一口飲んだ。


「俺さ、昔から思ってたんだ。お前って一人で抱え込みすぎなんだよ」

「……そうかな」

「そうだって。小学校のときも、ケンカした俺らの仲裁とか一人でやってただろ」


 懐かしい記憶が蘇る。

 あの頃から直哉は、人のトラブルを自分で解決しようと無理をしていた。

 悠斗はそんな直哉をよく見ていたのだ。


「なあ直哉。俺ら、友達だろ」

「……ああ」

「だったらさ、もっと頼れよ。何があってもさ」


 その言葉は、不意に胸に突き刺さった。

 「頼れ」と言ってくれる友がここにいる。

 けれど、打ち明けることができない現実が、直哉を縛りつける。


「……ありがとう」

 結局、それしか言えなかった。


 悠斗はそれ以上追及せず、立ち上がった。

「よし、んじゃ帰るか。暗くなんぞ。美咲も心配すんぞ」


 背中を軽く叩かれたとき、直哉はほんの少し肩の力が抜けた気がした。

 誰にも言えない苦しみは変わらない。

 けれど、自分の隣には支えてくれる仲間がいる――その事実が、孤独に沈む心をかすかに温めてくれた。


 空を見上げると、夕陽が暮れ、群青色が広がっていく。

 その美しさの裏で、数字は無情に光り続けていた。

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