第7話 美咲の問いかけ
放課後の教室には、夕陽が差し込み、机の影を長く伸ばしていた。
部活へ向かう生徒たちのざわめきが遠ざかると、静けさが訪れる。
直哉は帰り支度をしながら、無意識に和也の席を見た。
そこにはもう彼の姿はなく、残っているのは体温を失った椅子と机だけ。
頭上に浮かんでいた『11』の数字が、脳裏に焼き付いて離れない。
そんな直哉の背後から声がかかった。
「ねえ、直哉くん」
振り返ると、美咲が立っていた。
窓から差し込む光に照らされ、彼女の髪が淡く輝いて見える。
「最近、元気ないよね」
「……別に」
「嘘。目を見たらわかるよ」
美咲は真剣な眼差しで、じっと直哉を見つめてきた。
その視線は鋭いようでいて、どこか優しい。
直哉は思わず目を逸らした。
「和也くんのこと、心配なんでしょ」
「……なんでそう思う」
「だって、いつも見てるもん。和也くんのこと」
心臓が一瞬跳ねる。
まさか「数字が見える」とまで勘付いているわけじゃない。
けれど、美咲の言葉は核心を突いていた。
「直哉くん、もし何か知ってるなら……私にも話してほしい」
「……」
喉まで言葉が込み上げる。
「和也の寿命が減ってるんだ」――そう言ってしまえたらどれだけ楽か。
けれど、理解してもらえるはずがない。
もし打ち明けてしまったら、美咲にまで距離を置かれるかもしれない。
「……なんでもない」
結局、それしか言えなかった。
美咲は少し寂しそうに目を伏せたが、それでも微笑みを崩さなかった。
「うん。じゃあさ、困ったら言ってね。私、直哉くんの味方だから」
その言葉に、直哉の胸が熱くなった。
誰にも言えない孤独の中で、ただ「味方」と言ってくれる存在がいる。
それだけで、ほんの少しだけ救われる気がした。
しかし同時に、心の奥底では焦りが募る。
数字は待ってはくれない。
美咲の優しさに甘えている時間さえ、残り少ないかもしれないのだから。




