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第6話 和也の笑顔

 翌日の昼休み。

 直哉は教室の片隅で弁当を開きながら、無意識に和也を探していた。


 頭上の数字は『11』のまま。

 昨日から変化はない。

 それだけで、少しだけ胸をなで下ろす自分がいた。


 そんな直哉の視線に気づいたのか、和也が手を振りながら近づいてきた。

「おーい、直哉! 一緒に食おうぜ!」


 和也の弁当は、母親が作ったらしい彩りの良いおかずで埋まっていた。

 から揚げを嬉しそうに頬張る姿は、いつもの元気な少年そのものだ。


「なあ、直哉。俺さ、退院したらやりたいこといっぱいあるんだ」

「退院……? 入院するのか?」

 思わず問い返した直哉に、和也は「しまった」という顔をした。


「……あ、いや。ちょっと検査入院な。母さんがうるさいんだよ。心配性だから」

 軽く笑い飛ばすが、その一瞬の沈黙が嘘を隠しきれなかった。


 だが和也はすぐに明るい笑顔を取り戻す。

「ほら、バスケ部の試合とか出たいしさ。体育も全力でやりたい。俺、夢あるんだよ」

「夢?」

「うん。高校に行ったら絶対、レギュラーとってさ。県大会まで勝ち上がる! で、プロになれたら最高だろ?」


 その目は希望に満ちていた。

 未来を語る言葉に、直哉は胸が痛む。

 寿命の数字が無情に刻まれる現実を、自分だけが知っている。


「……絶対、叶えろよ」

 直哉は思わず口にした。

「ははっ、もちろん! お前も応援してくれよな」


 笑顔。

 それは眩しいほど純粋で、直哉の不安を一瞬だけ忘れさせた。


 だが、その頭上には変わらず『11』が浮かんでいる。

 笑顔と数字、そのギャップが直哉を苦しめ続けた。

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