第3話 悠斗の支え
その日の昼休み。
直哉は教室の隅で、弁当を開いたもののほとんど手をつけられずにいた。
和也の頭上に浮かぶ『12』という数字が、視界の端から離れない。
たとえ視線を逸らしても、意識はそこに縛り付けられる。
「おーい、直哉」
元気な声に顔を上げると、悠斗が弁当を片手にやってきた。
「お前、また食ってねーじゃん。腹でも壊したのか?」
「いや……大丈夫」
曖昧に笑ってごまかす。
けれど悠斗は、すぐには引き下がらない。
「大丈夫って顔じゃねーよ。ほら、口開けろ」
無理やり箸で唐揚げをつまみ、直哉の口に押し込んでくる。
不意を突かれ、むせながらも噛みしめると、しょっぱい味が広がった。
「……どうだ、うまいだろ?」
悠斗は満足そうに笑う。
その無邪気な態度に、直哉の胸の奥が少しだけ軽くなった。
悠斗は、昔からこうだった。
相手の事情を深く詮索せず、ただ隣にいてくれる。
それだけで救われる時がある。
「なあ、直哉」
ふと悠斗が真面目な声で言った。
「最近、元気ねーよな。俺に言えないことか?」
直哉は箸を止め、言葉を失う。
美咲の時と同じように、「話したいけど言えない」気持ちが喉元まで込み上げる。
「……別に。大したことじゃないよ」
それでも、同じ言葉を繰り返してしまう。
悠斗はしばらく直哉を見つめて、それから笑った。
「ま、直哉が言わねーなら無理に聞かねーけどさ。でも覚えとけよ。お前が困ってたら、俺はいつでも助けるから」
その言葉は、冗談めかしていたのに、不思議と胸に響いた。
――助ける。
簡単な言葉。けれど、直哉がずっと欲しかった言葉でもあった。
「ありがと、悠斗」
小さく呟くと、悠斗は「おう!」と笑い飛ばす。
和也の数字が減っていく現実は変わらない。
それでも、この笑顔がある限り、自分はまだ折れない。
直哉はそう思った。




