第2話 美咲の気づき
翌日の放課後。
教室のざわめきが徐々に小さくなり、帰り支度をする生徒たちの声が廊下に流れていく。
直哉は机に突っ伏していた。
授業中も、放課後も、気がつけば和也の方を見てしまう。
――数字が減っていないかを、確認せずにはいられない。
今日も『12』。昨日と変わらない。
それでも、心臓が締めつけられるように痛んでいた。
「直哉くん」
不意に肩を叩かれて顔を上げると、美咲が立っていた。
彼女の表情はいつになく真剣だった。
「ちょっと、いい?」
連れ出されたのは校舎裏のベンチ。
夕暮れの空が赤く染まり、風に揺れる木の葉がさらさらと音を立てている。
人気はなく、二人だけの空間だった。
「ねえ、直哉くん……」
美咲は言葉を探すように視線を彷徨わせ、それからまっすぐ見つめてきた。
「最近の直哉くん、変だよ」
直哉は息を呑む。
心臓が跳ねる音が耳の奥まで響いた。
「授業中も和也くんをずっと見てたり、急に顔色が悪くなったり……。あのね、私、直哉くんが何かを隠してるって、ずっと感じてるの」
その言葉に、胸の奥を鋭く刺された気がした。
隠している。確かにそうだ。
けれど、それは決して話せることではない。
「……なんでもないよ」
絞り出すように言った直哉の声は、頼りなく震えていた。
「なんでもなくない!」
美咲の声が少しだけ強くなる。
「私ね、友達だから。直哉くんが苦しそうなの、見てるの辛いの」
目に涙を浮かべながら、美咲は続けた。
「だからお願い。ひとりで抱え込まないで」
その真剣な眼差しに、直哉の心は揺さぶられる。
話したい。全部打ち明けてしまいたい。
けれど――もし信じてもらえなかったら?
「寿命が見える」なんて、ただの妄想だと笑われてしまったら?
喉まで出かかった言葉を、直哉は飲み込んだ。
「……ごめん。本当に、大丈夫だから」
その一言に、美咲の表情が曇った。
それでも彼女は無理に笑顔を作り、言った。
「わかった。でも……もし辛くなったら、私に言ってね」
直哉は小さく頷いた。
ありがとう、と言いたかった。
けれど声にならず、夕暮れの風に飲み込まれていった。
その背中を見送りながら、美咲は小さく呟く。
「……やっぱり、何かある」
風が木々を揺らし、落ち葉が二人の足元に舞い落ちる。
静かな夕暮れに、不穏な影だけがじわりと広がっていった。




