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第3章 もう一人の目 ― 影の中の視線 ― 第1話 不安の兆し

 その日は、朝からどこか落ち着かなかった。

 教室に入ると、和也が机に突っ伏すようにしてノートを眺めていた。

 いつもの明るい笑顔がない。


「おはよう、和也」

 直哉が声をかけると、和也は顔を上げ、かすかに笑った。

「おはよ……ちょっと寝不足でさ」


 声はいつもより少し掠れている。

 周囲の友人たちは気にも留めず、普段通りに話しかけていた。

 でも、直哉には違和感があった。

 そして――数字。


 頭上に浮かぶ数字は『12』。

 つい先日まで『13』だったのに。

 わずか数日の間に、確かに一つ減っていた。


 直哉の胸に冷たいものが走る。

(……また減った。やっぱり、これは夢でも錯覚でもないんだ)


 授業が始まっても、直哉の心は波立ったままだった。

 黒板に書かれる公式よりも、隣の席でペンを走らせる和也の姿が気になって仕方ない。

 笑ってはいる。冗談も言う。

 けれど、その笑顔の奥に、どこか小さな影が見え隠れするように思えた。


 休み時間、美咲がやってきた。

「直哉くん、大丈夫? なんか顔色悪いよ」

「えっ……あ、いや、大丈夫」

 とっさに笑顔を作るが、美咲は疑わしそうに首をかしげる。


「この前からずっと思ってたけど……隠しごとしてない?」

 その言葉に胸が詰まる。

 答えられない。

 秘密を打ち明ければ、きっと理解されない。

 だけど、誰にも話せないこの孤独が直哉を蝕んでいく。


「ほんとに何もないならいいんだけど……。でも、辛い時は無理しないでね」

 美咲はそれだけ言って去っていった。

 残された直哉は、小さくため息をついた。


 放課後。

 グラウンドの隅で和也がボールを蹴って遊んでいるのを見つけた。

 見た目はいつも通り元気そうだ。

 でも、直哉の目にははっきりと数字が見える。『12』。


「和也」

 呼びかけると、彼は振り向き、いつもの笑顔を見せた。

「なんだよ、直哉。心配そうな顔して」

「……別に。ただ、無理するなよ」

「大丈夫、大丈夫。俺、元気だから」


 そう言って笑う和也。

 その笑顔がまぶしくて、同時に残酷に思えた。

 元気そうに見えるのに、確実に「残り時間」は減っている。


(……俺が守らなきゃ。誰にも言えないとしても。たとえ独りでも)


 夕暮れの光の中で、直哉は改めて誓った。

 和也の笑顔を守るために、どんな不安も抱えて歩いていく、と。

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