第9話 揺れる心
翌日、放課後。
直哉は教室の窓際で机に向かっていたが、まったく勉強に集中できなかった。
頭の中を巡るのは、和也のこと、美咲のこと、そして数字――『13』――のことばかりだった。
突然、背後から声がかかった。
「直哉、隠してることがあるんでしょ?」
振り返ると、美咲が真剣な顔で立っていた。
直哉は一瞬、息を呑む。
美咲の目は、いつもの柔らかい色ではなく、真剣そのものだ。
「……な、何のこと?」
答える声は、自然と小さく震えてしまった。
「嘘つかなくていいよ。私、直哉くんが何か隠してるの、わかるんだから」
胸の奥で何かが重くのしかかる。
話したい――話せるなら話したい。
でも、この秘密を話したら、きっと信じてもらえない。
「寿命が見える」なんて、普通の人には理解できるはずがないのだ。
「ごめん、今は言えない」
直哉は首を横に振り、目をそらした。
美咲は一瞬、悲しそうに微笑む。
「……そうだよね。無理に聞くつもりはないけど、信じてもらえないのは辛いよね」
その言葉に、直哉の胸が締めつけられる。
孤独は、誰かに分かってほしいのに、理解されない。
それでも、直哉には守らなければならない現実がある。
夕陽が差し込む教室。
影が長く伸び、二人の間に微かな距離を作る。
直哉は窓の外を見つめ、深呼吸をした。
(揺れていても、迷っていても、俺にはやらなきゃいけないことがある)
その瞬間、心の中で小さな炎がまた燃え上がる。
――和也の笑顔を、絶対に守る。
誰も知らない秘密を抱えながら、直哉の決意はさらに強くなる。
教室に静寂が戻り、風がカーテンを揺らす。
直哉はそっとノートを閉じ、鞄を肩にかけた。
歩き出す足取りは、まだ迷いがあるけれど、どこか力強さを帯びていた。
数字が減り続ける現実。
誰も知らない秘密。
それでも、揺れる心の奥で、直哉は確かに決意を固めていた。




