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第8話 和也の夢

 放課後、校庭には誰もいない。

 夕暮れの光が長い影を地面に落とし、柔らかな風が髪を撫でる。

 直哉は少し遠くから、和也の姿を見つめていた。


 和也は一人でベンチに座り、遠くの空を眺めている。

 風に揺れる髪。柔らかく笑むその表情は、今日もどこか無邪気だ。


「ねえ、直哉くん」

 突然、和也が声をかける。

 直哉は少し驚きながらも、ベンチの横に腰を下ろした。


「俺さ、大人になったら世界を旅してみたいんだ」

 和也の声は真剣で、夢に満ちていた。

 「自由に、いろんな景色を見てみたい。知らない町、知らない海、見たことのない星……」


 直哉はその笑顔を見て、胸がぎゅっと締めつけられる。

 ――頭上の数字は『13』。

 笑顔の裏に、確かな現実がある。


「……素敵だね」

 直哉は精一杯の笑顔で答える。

 しかし内心では、胸の奥に恐怖が渦巻いていた。


(もしも……この夢を叶える前に、数字がゼロになったら……)


 和也は気づかず、目を輝かせて話を続ける。

 「旅先でいろんな人に出会って、その人たちの笑顔を見るのも楽しみなんだ」


 直哉は必死でその思いを受け止める。

 言葉にできない思いが胸に溢れる。

 ――この夢を、絶対に叶えさせたい。


 沈黙の中、二人は夕焼けに染まる校庭を見つめていた。

 直哉の心は静かに燃え上がる。

 守るべきものは、もう目の前にある。


 「……和也」

 声を低くして呼ぶ。

 和也が振り向く。


「俺……君の夢、叶えさせる」

 直哉の目は揺るがない決意で光っていた。

 数字が減る現実、誰も知らない秘密。

 それでも、直哉の中で、和也を守る意志は確かに強まっていた。


 風に揺れる髪と笑顔を前に、直哉は誓う。

 ――どんなことがあっても、この夢を奪わせはしない。


 夕焼けが二人の影を長く伸ばす。

 直哉の心に芽生えた決意の炎は、小さくても確かに、消えることのない光だった。

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