第7話 孤独な秘密
夜の静まり返った自室。
机の上には教科書やノートが散らかり、窓から差し込む月明かりが影を落としている。
直哉は椅子に座ったまま、ただ天井を見つめていた。
今日も一日、和也の笑顔を見て過ごした。
友人たちと遊ぶ姿、母親と手をつなぐ姿、授業中のふとした仕草――。
そのすべてが、頭上に浮かぶ数字とリンクして胸を締めつける。
――『14』。
今日、体育での小さな転倒で数字が大きく減ったことを思い返す。
もしも、何かあったら――。
想像するだけで、心臓が痛む。
直哉には、この現実を誰にも話せない。
もし話したとしても、信じてもらえるはずがない。
「寿命が見える」なんて言ったら、気味悪がられるか、笑われるか……。
だから、直哉は孤独だった。
誰にも理解してもらえない秘密を、ひとり抱え続ける孤独。
手元のノートにペンを走らせる。
文字を書くことで気持ちを整理しようとしても、頭の中に浮かぶのは数字と和也の笑顔だけだ。
ページいっぱいに書き連ねた文字も、胸の奥の不安を消すことはできなかった。
ふと窓の外を見る。
夜風に揺れる街路樹の影が、まるで自分の孤独を映しているかのように感じた。
(誰かに話したい……でも、話せない)
直哉は小さく息をつき、拳を握りしめた。
胸の奥で、まだ言葉にもならない決意が芽生える。
――この子を、絶対に守る。
数字が減る現実。
友人や家族の知らない秘密。
そのすべてを、自分だけが背負う。
孤独の中で、直哉の意志はより固く、そして静かに燃え始めた。
誰にも見えない戦い。
誰にも理解されない思い。
それでも、直哉は確信していた。
――この秘密を抱え続けるのは辛い。
でも、和也の笑顔を守るためなら、孤独も怖くはない。
夜の静寂に包まれながら、直哉の胸に小さな炎が灯った。
その炎は、まだ小さくても、消えることのない光になる予感がした。




