第5話 小さな事件
体育の時間。
グラウンドに広がる太陽の光は眩しく、風が頬を撫でる。
クラス全員が元気にボールを追いかける中、和也はいつも通り明るく笑っていた。
「おい、パス来い!」
声を張り上げる和也に、直哉は自然と視線を向けてしまう。
――『16』。
昨日からさらに減った数字。
直哉の胸はざわついたが、周囲には悟られないように平静を装う。
その瞬間、和也の足がボールに引っかかり、前に転んだ。
「大丈夫か!?」
クラスの男子たちが駆け寄る。
和也はすぐに立ち上がったが、膝には小さな擦り傷ができていた。
――数字が……!
直哉は目の前の光景に目を凝らす。
頭上の数字が『16』から一気に『14』に跳ね上がるのを、はっきりと見た。
理屈では理解できない。たった一瞬の転倒で、二つも数字が減るなんて――。
和也は笑いながら「大丈夫だよ!」と手を振った。
その笑顔はいつも通りだ。だが直哉の心は乱れていた。
(……何か起きるたびに、こんなに数字が減るのか)
胸が強く締めつけられる。
その恐怖と、守らなければという決意が、直哉の中で入り混じる。
体育の授業が終わり、シャワーを浴びて着替えると、教室に戻る時間になった。
直哉は目の前のノートに文字を走らせる手が震えているのを感じた。
放課後、帰り道。
和也は今日も友人たちと楽しそうに歩いている。
けれど直哉は、頭上の数字が減るのを想像するだけで胸が苦しくなった。
ふと、和也がボールを蹴って遊ぶ子どもたちを見つめる姿を見た。
無邪気な笑顔を向けるその目に、直哉は強い使命感を抱く。
(この笑顔を、絶対に守らなきゃ)
誰にも言えない秘密。
誰にも理解してもらえない現実。
それでも直哉は、胸の奥で決意を固めた。
――和也の笑顔を守るため、俺はどんなことでも行動する。
夕焼けの光が二人の影を長く伸ばす中、直哉の心に芽生えた思いは、揺るがないものだった。




