プロローグ② ー母の頭上に浮かぶ数字ー
病室のカーテン越しに、やわらかな朝の光が差し込んでいた。
まぶたを開けると、ぼんやりした視界の中に、泣きはらした目でこちらを見つめる母の姿があった。
「……直哉!」
声が震えている。母はすぐにベッドに駆け寄り、力いっぱい手を握った。
「目を覚ましてくれて……よかった、本当に……」
温かいぬくもり。胸の奥がじんわり熱くなる。けれど、その時――ふと、母の頭上に光るものが目に入った。
――『12432』。
数字だ。
空中に浮かんでいるように、はっきりと。
瞬きしても消えない。
「……え?」
声にならない声が漏れた。
「どうしたの、直哉? まだ痛む?」
母が心配そうに覗き込む。だが直哉の視線は、その頭上から離せなかった。
12432。
その数は、カウントダウンするようにじり……と減っていった。
12431。
背筋が凍る。
事故の衝撃で頭がおかしくなったのか。幻覚か。
――いや、違う。これは「現実」だ。
気づいてしまった。
あの数字は――母の「寿命」。
理解した瞬間、胸の奥に鋭い痛みが走った。
母は「大丈夫」と笑おうとしているのに、その笑顔の上に浮かぶ数字は、無情に減り続けている。
直哉は握られた手を強く握り返した。
もう二度と、何気ない時間を当たり前だと思ってはいけない。
そう、心の奥底で震えるように感じていた
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