第6話 気づく人
夜。
机の上に開いたノートの文字が、ぼやけて見えた。
鉛筆を持つ手は止まり、直哉の意識は昼間の光景に縛られている。
――総合病院に入っていった和也の背中。
寿命の数字は、もう『22』ではなく『21』に変わっていた。
(……何もできないまま、一日が過ぎていく)
焦りが胸を締めつける。
この力はただ、残酷なカウントダウンを突きつけるだけ。
どうすればいいのか答えはなく、孤独だけが膨らんでいく。
翌日。
授業が終わり、教室を出ようとした時、美咲が声をかけてきた。
「直哉、最近ちょっと元気ないよね」
不意の言葉に、心臓が跳ねた。
「え? そ、そうか?」
「うん。なんか、無理に笑ってる感じする」
直哉は思わず視線をそらす。
そのとおりだからこそ、誤魔化すことしかできなかった。
「……勉強とか、疲れてるだけだよ」
美咲は少し首をかしげ、しかし追及はしなかった。
ただ、柔らかな声で言う。
「何かあったら、私でよければ聞くから」
その一言に胸が熱くなった。
――誰にも言えない秘密を抱えているのに、気づいてくれる人がいる。
そのことが救いのようで、同時に余計に苦しくもあった。
(でも……言えるわけない。もし寿命が見えるなんて話をしたら、きっと……)
言葉にならない思いを押し込め、直哉はただ小さく頷いた。
「……ありがとう」
その瞬間、美咲の瞳がやわらかく揺れた。
まるで「気づいているよ」と告げるように。