第九話.医療部
春休みももう半分切りました。
これは果たして春休みまでに終わるのであろうか…。
「ーはい。これで退院です。」
医療部の看護婦にそう言われて、ユエはよしっ!と意気込んだ。
「…ありがとう、オトハ。」
レオンは看護婦にお礼を言った。
「…??レオン、この人知ってるのか???」
「バカヤロー。お前の手当を一から十まで全部してくれた
『ジース・オト・ハーフ』さんだよ。お前もお礼言っとけ!」
レオンはユエの頭をガッと下に倒した。
「『オトハ』と呼んでください。」
オトハはユエに軽く頭を下げた。
「じゃ、ユエ。とりあえず上に報告にいくか。」
「あー分かった。…オトハさん…だっけ?ありがとね?」
ユエはレオンに連れられながらオトハに礼を言った。
「ーというわけで、『グラメディウス・ユエル・アルフォリア』!
完治しました。今日から復帰します!」
ユエはリオルに報告した。
「…そうか、ありがとう。ところで、『特別クラス』の特筆事項を知ってるか?」
「…??何だっけ?レオン」
「……。確か、今回から、一チームに必ず一人は、
一般戦闘部に入っていた経験のある医療部員を配属するんでしたよね?」
レオンはあえてユエに語らず、リオルに話した。
「そうだ。お前らのチームだけ、それが遅れてる。」
(…ユエ…。お前のせいだぞ!!)
レオンはユエに耳打ちした。
「…で、一人配属するワケだが、その人選はもうとっくに決まっていてな…。
入ってくれ。」
リオルの合図で部屋に入ってきたのは、蒼髪の長い女性だった。
レオンとユエは目を疑った。それは「オトハ」だった。
白衣だったさっきとは変わって、和風の着物を着ている。
「医療部の『ジース・オト・ハーフ』さんだ。
たしかユエくんの治療を一から十までやってもらってるから、
面識はあるだろ?」
「はい…。」
「彼女は君たちと年も同じだ。仲良く、がんばってくれたまえ。
……では、早速最初の任務を頼もうか……。
君たちが落としてくれた『レイオル山脈』周辺に不穏な動きが見られる。
それを解決してくれ。」
「はい!」
「しっかし……森林には砦を築かないのは何でだろうな?」
ユエは森林の中でふと思い立ったようにそう言った。
「森林に砦を築くと、元々『巨大な力の塊』領だったレイオル山脈の山頂から、
陣形が丸見えになるからだと……聞いた事があります。」
オトハがペラペラと喋りだした。
その鮮やかさというか、威圧感に押されて、ユエは思わず唾を飲んだ。
「……へ…へぇ。詳しいんだね……。」
ユエは精一杯笑顔を作った。
「オトハ。俺らチームなんだし、敬語じゃなくてもいいぜ?俺らもそうするし。」
レオンが言った。
「…分かりました…。」
「だから!『分かった。』、だろ?」
「……分かったよ…ユエさん、レオンさん。」
(おい、レオン。お前もしかして……オトハに惚れたか?)
ユエがレオンに耳打ちした。それを聞いてレオンは顔を真っ赤にした。
「バッ……バカヤロー!!」
レオンは拳でユエをぶん殴った。
ユエはぶほっ!!と鼻から血を出した。3mくらい飛んだ。
「痛って……。」
「大丈夫?」
オトハがハンカチをユエに差し出した。
「あ……ありがと…。」
ユエはそう言ってハンカチを受け取ると、オトハはニッコリと笑った。
ユエは再びレオンの方に駆け出した。
「お前…図星だな?」
「う…うるせーよ…。」
(……それにオトハはお前の方に気があるみたいだしな…)
レオンはブツブツと呟いていた。
「あ、着いたよ。」
森林を抜けきると、レイオル山脈の谷間があった。
ここでレオンとエルメスとユエは「顎龍」を見事討伐したのだ。(第三話参照)
「なつかしいな……。」
一瞬エルメスの幻が見えたような気がした。
すると、レオンとユエは急に気を失ってしまった。
「…え!?…ちょ…レオン!?ユエ…さん…??どうしたの??」
オトハは二人を揺り動かした。
気がつくと、レオンとユエは光の道を歩いていた。
「レオン…俺ら…。」
「…分かんねー。」
とにかく歩き続けていた。
歩いていると、エルメスがいた。
「エルメス!!!」
二人はそう叫ぶと、すぐに駆け寄った。
「エルメス…。お前生きてたのか?」
エルメスは黙って首を横に振った。
「……という事は…ここは…あの世??」
エルメスはコクリと頷いた。
エルメスはスッと手を差し出した。
「…?お前…俺たちにも来てほしいのか…?」
エルメスはニヤリと笑った。
ユエとレオンは操られたようにエルメスの手に触れた。
「分かったよ…。エルメス…。一緒に行こう………。」
「待ちなさい!!!!」
ユエとレオンはハッとした。
振り向こうとすると、二人の間を小さい刀が横切った。
その刀を目で追って行くと、エルメスに突き刺さった。
「なっ!何てことするんだ!!オトハ!!!」
ユエはそう叫んだ。
しかし、エルメスは刀が当ると、粘土のように崩れて行ってしまった。
エルメスが消えると、あたりは闇に包まれた。
「!?」
レオンとユエは我に返った。
「うわ…飲み込まれる…!!」
気付くと、二人はレイオル山脈の麓で寝ていた。横にはオトハがいた。
「…?何があったんだ?」
「うっ……頭が痛てぇ…。」
「危なかった…。あれは『剣魔法、幻術生殺』よ。」
「『幻術…生殺』……?」
「相手の最も想っている者を見せ、相手を一生硬直状態に陥らせる技。
あのままあの光の道を歩ききっていたら、あなた達は死んでいたわ。」
「……しかし、なんでそんな事が…。」
「やっぱり、ここら辺に不穏な動きがあるのは本当みたいだな。」
森林の片隅に、黒い影が潜んでいた。