第七話.殉職
指をパキパキ鳴らしたりするのって、
何となく、ケンカ強そうなイメージが湧きますよね。
鳴らしてるとき、「俺は強いぜ」みたいに勝手に想像してしまいます。
まぁ、そこで本当に不良等に絡まれるとマジで負けますが(笑)
動かなくなったエルメスをその場において、ユエはある決断をした。
「レオン。俺は死ぬかもしれない。」
「…!バカ!何言ってんだ!」
「安心しろ。俺は刺し違えてでも、アイツを倒す!!」
ユエはそういうと『大刀カルバトロス』を地面に突き刺した。
『第一限界・解除!!!!!』
ユエが突き刺した『大刀カルバトロス』から、魔方陣のようなものが、
勝手に作られて行く。
「変な真似すんじゃねーよ!!!」
シルクが指をくいくいっ!と動かすと、
『大刀フロウズ』はシルクの元に返ってきた。
「この『大刀フロウズ』は俺の命令通りにきっちり動く。
俺が動かなくても勝手にお前らを殺してくれるんだ。」
シルクは動かなかったのではない。動けなかったのだ。
先ほどユエが、シルクの剣魔法『生命静止』を弾き返した。
通常の場合、術者が使用した術を別の力で制御不能にされた場合、
術者にも全ての衝撃が帰ってくるのである。
そのせいで、シルクは動けなくなっていたのだ。
「刺し違えなくても勝てるハズだ!!
俺たちの連携はあのシュウってヤツを簡単に倒せたんだぞ!?
シルクってヤツは、シュウってヤツよりも弱いって、本人が言ってたんだ!」
レオンは必死にユエに訴えた。しかしユエはいつになくクールにこう答えた。
「そりゃ、どんなすごい術者や怪物でも、
動きを止められている時に首をはねられたらどうする事もできねーよ。
あいつを倒せたのは、ある意味奇跡だ。」
ユエの作っている魔方陣はどんどん大きくなり、
魔方陣からは大きな魔力の気が湧き出ていた。
その気に押し出されて、レオンは徐々にユエから遠ざかって行った。
(第一限界・解除、使っちまったな……。)
ーーー5年前。
ユエの兄、ジュラが、まだ少年団に入りたてだったころ。
「ユエ、お前はもうこの『大刀カルバトロス』をほぼ使いこなしてる。」
「うん!両手で振り回せるようになったよ!!」
「ユエ…。これから教える技は、お前に授ける最期の技だ。
しかし使えば身を滅ぼす可能性がある危険な技だ。それを覚えておきなさい。」
ジュラが厳しくユエに言った。
「分かった!本当に使わなきゃ行けない時だけ使うよ!!!」
ーーー
(兄貴…!今がそれを使う時だ!!)
ボフーー!!!
激しい砂埃とともに現れたユエ。
それは今にも爆発しそうな魔力の気の塊をまとっていた。
目の色が真紅の瞳と化していた。まるで伝説の龍『カルバトロス』のように。
ユエは『大刀カルバトロス』を引き抜くと、その剣先をシルクに向けた。
「お前は徹底的に痛めつけて、ぶっころしてやる。」
「…ふっ。お前、まだ俺に勝つ気でいるのか??
…………いいかげん目ェ覚ませ!!!!!」
シルクは『大刀フロウズ』を操ってユエにめがけて突き刺そうとしてきた。
『……”捕われし真紅の瞳”』
ユエは目を閉じてそう呟いた。
『大刀フロウズ』がユエに突き刺さるその瞬間、ユエは姿を消した。
「!!!消えた!?…どっ、どこだ!!?」
「……後ろだ。」
その声の方向に惹かれて、とっさにシルクは振り返った。
そして、本来ならかなしばりをかける側のシルクの動きが止まった。
(…!
真紅の瞳…?
なんと美しい……。
…目がそらせない。
少しも動けない。
まるで伝説の桜龍に
睨みつけられたかのように………。)
『伝説剣戯、桜龍呪縛!!!!!!』
ユエの振りかざした『大刀カルバトロス』は
シルクを上から下へとまっ二つに切り裂いた。
「……終わった……。」
傍らでエルメスを抱いていたレオンがそう呟いた。
「…勝った!やった…勝ったんだ!!ユエ!勝ったんだぞ!俺ら、幹部に…!」
「………せえよ……。」
「え?」
「……おせえよ…。………バカヤロー。」
「…悪かった。幹部を倒すのに手間がかかった。」
現れたのはジュラだった。ギンタも横にいた。
「……しかしひでぇなぁ。何があったんだ?コレ。
あれ?あのエルメスとか言うガキは??」
ギンタがキョロキョロとあたりを見渡した。
「………殉職しました。ここで、幹部と刺し違えて………。」
レオンとユエの目からは、大粒の涙が次から次へと流れていた。
ここらで技について説明を付けときましょう。
ユエ (大刀カルバトロス)
・剣魔法、桜龍華斬=カルバトロス:金色の斬撃。
どんな相手にも地味にダメージを与える事が可能。
・剣魔法、蜃気楼の理:相手を蜃気楼の渦に閉じ込める。扱うのが難しい。
・伝説剣戯、桜龍呪縛:『第一限界・解除』したとき使える。
自らの瞳で相手の動きを縛り、
跡形も残らないように切り捨てる。
・魔飛斬撃:魔力を持った飛ぶ斬撃。
『限界・解除』については、後々本編で扱うので説明は控えさせていただきます。
レオン (双刃ギヴァセス)
・一族の一撃:双刃ギヴァセスに魔力を注ぎ、痛恨の一撃をする。
エルメス (樫の木)
・魔方陣:魔力を蓄積する事が出来るシールド。
・魔力解放:魔方陣内の魔力を全て解き放つ事を指す。
蓄積していた魔力が多ければ多いほどパワーも大きくなる。
・龍星の隕石:解放した魔力を魔力を持った石に変え、それを操る。
・魔法治療:魔力を治癒能力に変える。
こんなもんです。