閑話これはきっと悪夢だ
戦争による領地拡大をしたオフェンス王国は、他の周辺国からは偉大なる大国として恐れられ、郡を抜いて大陸の覇者と呼ばれている。
そのオフェンス王国の王太子であるカカオは、優秀で人望が厚く、慈愛の王妃チョコレーナの一人息子であり、自身も文武両道な人物で将来を期待されていた。
そう、カフスが辺境伯嫡男との婚約を破棄しなければ……。
……何も問題ない、シファさえ取り戻せば全て丸く収まる。
カフスが気に入らなければ、俺が再び女にしたシファを娶り王妃に据える。
……シファが最悪、呪いが掛からずシーファスだったら……表向きは謝罪し、とにかく刺激しないように穏便に物事を運ばせる。
……王国の力が、クリスタル一族の力を借りなくても自力で賄えるようになり、国力が回復したら頃合いを見て増長し権力をひけらかせた頭に乗るシーファスを消す。
ふふ、我ながら完璧の作戦だ。
愚弟や、雑兵は囮にして時間稼ぎにする。
とにかく俺はシーファスに会うことだけを考えれば良い。
そう思ってたのに。
貴族街で辺境伯家の王都屋敷を目前にした所で、俺達の前に現れたのは……
「王太子殿下、カフス第二王子殿下、そこまでですぞ」
元王国騎士団長フェリゲルスと……
「武器を捨て投降するなら手荒な真似はせずに捕縛しますが、……抵抗するなら容赦は致しませんよ?」
元近衛騎士団副団長アレクセスも、俺達から視線を反らさないまま言い放つ。
それだけじゃない、彼等は近衛騎士団と王国騎士団を率いていた。
元々、父上が最強を誇る辺境伯騎士団を無理矢理解体して王国騎士団や近衛騎士団にして引き込んでいたんだ。
シーファスが呪いを解かれ自由になった以上、もはや王国に忠義を尽くす理由はない。
「ごっ誤解だ。我々はシファ令嬢に大夜会での非礼を詫びに来たのだ」
「そっそうだ……悪い女に騙されてシファを傷付けてしまった。正式に詫びたくてこうして兄上と共に参った」
俺が先に言えば、カフスも慌て合わせる。
「後ろの兵や、見習い、衛兵達は武装してますよ?それで謝罪に来たと良くぬけぬけと言えたものですね?」
鈴を転がすようにアレクセスは微笑む。
……くっ……流石はシーファスの右腕か。だが、此処は持ちこたえなくては……
更に俺は歯を食い縛り、何とか言葉を述べようとする……が
「黙って聞いてれば、高々田舎貴族ごときが!!王族二人に向かって無礼だぞ!!」
下級貴族の者が、口を開いてクリスタル一族を馬鹿にし始めた。
……なっ何を言っておる!?田舎!?辺境伯一族を田舎だと!?
噂程度には知っていた、情報に疎い下級貴族がクリスタル一族を馬鹿にしていると。
上級貴族や王族ならば、クリスタル一族の強さや、権力を肌に染みて感じていると言うのに。
確か、あいつは男爵家の嫡男だったか?
慌てアレクセスとフェリゲルス達を見ると、殺気を迸らせていた。
当然だ、主君を馬鹿にされたのだから。
「対して何も実力も無いくせに、田舎が理由で浅ましくもカフス第二王子に取り入った尻軽女の身で、婚約破棄されたからと大夜会を抜け出すとは何事か!?」
やめろ……黙れ……やめてくれ。
更に男爵家の男は、アレクセスとフェリゲルスを煽り立てた。
「この恥さらしの田舎者が!!」
「恩を仇に返しやがって!!」
口々に周りの下級貴族の者達も暴言を吐く。
「どうやら、穏便とは行かなさそうですね。第二王子と王太子は捕縛。他の雑兵は……敵意ある者は要りません。ですが、その罪を償わせる必要は有ります。死なない程度に痛め付けて地下牢屋に」
冷めた瞳で、アレクセスは命じるとフェリゲルスに視線を向ける。
「身の程をわきまえさせなくてはならんな。雑兵には手加減は死なない程度に留め置いて行け」
フェリゲルスは部下達に命じた。
そこから先は、まさに蹂躙だった。
俺とカフスだけは捕縛のみに留まったが、他の雑兵達はそう行かなかった。
抵抗しない者達は捕縛され、抵抗する者達は痛め付けられた後に地下牢屋に運ばれていった。
「我々クリスタル一族の尊厳を侮辱したのですよ。彼等らにも尊厳を無くして貰わなくては……此方の苛立ちが収まりませんからね。幸い、彼等も貴族の出だから美しいです。ならば、利用価値も立場を分からせる為にも……ね」
アレクセスの言葉に、俺は青ざめ立ち竦む事しか出来なかった。
夢なら早く覚めて欲しい。
だが、現実は残酷で二度と王宮に戻れない予感がした。
そのまま俺達は、縄で両腕を縛られフェリゲルスに連れられていくのだった。




