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第六話 ミカ王子とシナリオ外の君

 ルシアスパパと侍女エマと別れ、入学式の行われる講堂へと向かう。中に入ると中央奥上部のステンドグラスに描かれたバイオレットのクレマチスの花々に目が行く。クレマチスは聖ロマネス学園のシンボルであり、花言葉は精神の美。この講堂はロマプリでもよく出てくる背景で、ヒロインとミカ王子によってリアン様の悪行が暴かれるのも……この場所だ。イラストが納品されたときもステンドグラスの描写には大満足だったのだが、こうして実際に目にすると神秘的な照り方が何とも美しい。当然と言えば当然なのだけれど、コラボカフェや展示会での再現度とは比べ物にならないほどのリアル感……。

「リアン嬢?」

「へ?」

 無意識のうちに口を少し開けてステンドグラスを見上げていた私は、間抜けな声を上げ振り返る。

「ミカ王子……!」

 目の前には微笑をたたえたロマネス王国の第一王子ミカが立っていた。

「どうしてこちらにいらっしゃるのですか? ミカ王子は一学年上のはず……。こちらにいるのは新入生のみかと思っていましたのに」

「在校生代表挨拶を僕がすることになりまして。急なことだったので少々戸惑っていたのですが、リアン嬢に久々にお会いできたので引き受けてよかったです」

 にこりと笑うミカ王子。う、美しすぎる……。心臓に悪い。

「えっと……久々……? 以前どこかでお会いしましたでしょうか……?」

「リアン嬢が覚えていらっしゃらないのは当然です。改めてこれから、よろしくお願いしますね」

 右手を差し出すミカ王子に応えつつ、記憶の中のミカ王子の過去エピソードを辿る私。うーん、ミカ王子とリアン様が実は幼馴染だなんて設定、つくった覚えないんだけどなぁ……。

「では、また会いに伺います」

 再度にこりと笑みを浮かべ、ミカ王子は在校生代表の席と思しき場所へと歩いていった。


 新入生の席順は特に決まっていないようだったので、空いていた席に座る。その直後、私の隣に男の子が座った。タッパのある身体を少し縮こまらせ、小さなメモ用紙のようなものを真剣に読み込んでいる。もしかして、新入生代表挨拶をする子なのかな。

 男の子が顔を上げこちらを向いた。まずい、じっと見すぎだったかも!

「あの、不躾にすみません! ……新入生代表の方ですか?」

 私の問いにその男の子はきょとんとした顔をした後、自身の持っていた紙に目をやり納得したような表情を浮かべ

「いや、新入生代表だなんてとんでもない! オレ、生まれも育ちもゼルニア国で、ロマネス王国に来たのは今日が初めてなんです。だからこの国のことはあんまり詳しくなくて……。失礼があっちゃいけないと思って、ロマネス王国の貴族の方たちの名前をメモしてきたんです。一通り覚えられたとは思うんだけど、いざ学園に来たら緊張しちゃって……」

「ここは社交場ではなく学び舎ですから、そこまで肩肘を張らなくとも大丈夫だと思いますよ」

 まぁ、そんな学園に社交界のしきたりを持ち込んだのはリアン様なんだけどね。私は持ち込まないから安心して! 誰がどの爵位とか多分私の方が分かってないと思う……!

「ほんと? ならよかったー! オレの国だとやっぱりルシアス・サマエル様が有名なんだけどさー、ほら、ここだけの話、ルシアス様ってめちゃくちゃ怖いじゃない? 特に男に対しては。それにその娘さんもルシアス様に甘やかされて好き勝手してるって聞くからさ、ちょっとビビってたんだよ。確かオレたちと同学年って話だったよね」

 ……打ち解けてくれたのは嬉しいけれど、いくら今は亡きミリお母さまがゼルニア国出身だからって、リアン様の噂が隣国にまで広まってるとは……。ここはしっかりイメージを払拭して仲良くなりたいところ…!

「あー、この流れで言うのも何なんだけど……。ご挨拶遅れました、私、リアン・サマエルと申します。えっと……これからよろしくね……?」

「あ、え? サマエル……? え? オレ、サマエル様にとんでもないこと言っちゃった……な……? 暗記メモの名前の横に似顔絵とか描いておくんだった、会ったこともないから描きようもないんだけどさ……」

 続けて膝に両手をつき勢いよく頭を下げ

「たいっへん申し訳ございませんでした! あなた様がどなたかを存じ上げず……いや、そうでなくとも知りもしないレディのことを悪く言うなんて男としてサイテーです! 何とお詫びしたらよいか……」

 こちらを見上げる彼の鋭い目はきゅるきゅると潤みだし、ちょっと柴犬っぽいなと思った。つい、からかいたくなる。

「……名前を教えてもらえる?」

「――! ……ご挨拶遅れ申し訳ありません! オレ、あ、いや、私、カイト・ベイリーと申します! ……この罪はしっかり償いますからどうか家族には……!」

「カイト・ベイリーね……。うん、覚えたわ。」

 両手を組み祈るように見つめるカイトに私は続ける。

「カイト、私と友だちになってくれる?」

「へ?」

「私今までずっとサマエル家のお屋敷にいたから友だちがいないのよ。もしよかったらカイトに最初の友だちになってほしいなと思って」

「……怒らないんですか?」

「怒るも何もそれもひとつの見え方だもの! でも、私にとってルシアスパパは、いつも私のことを一番に考えてくれるとっても素敵なお父さまだし、私も最近は心を入れ替えてあんまりワガママは言わなくなったのよ?」

 呆気に取られたカイトの手を私の手でそっと覆う。

「これから同級生として接する中で、貴方の目に映る私を信じてくれたら嬉しいわ」

 カイトは耳を真っ赤にしながら

「滅相もございません! 友だち……! はい、ぜひ……!リアン様はオレにとってロマネス王国でできた初めての友だちです! これからどうぞよろしくお願いしますっ!」

 と答えた。

「友だちになったのだから敬語はよして? それにリアン様っていう呼び名は距離が遠すぎるわ。……私もカイト様って呼んだ方がいいのかしら」

「いえ! あ、いや! オレのことは是非カイトと呼び捨てで! でもさすがにリアンとは呼べないですよ! あだ名とかあったりしますか……?」

「もう、敬語はやめてって言ってるのに! お屋敷ではアニーって呼ばれてたわ」

「アニー! 素敵なニックネームですねっ! オレもアニーって呼びます!」

「ねぇ敬語」

「はっ! あっ、アニーって呼ぶね!」

「ふふ、うん! よろしくね、カイト」


 カイト・ベイリー……初めて聞いた名だ。キャラ設定の存在しない彼なら、きっと私の本当の仲間に……。

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