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第二十話 ペア探し難航中?

 舞踏会の開催まで一月ほどになると、ペアを申し込む光景をよく目にするようになった。かくいう私も……。

「ごめんなさい。もう相手が決まっていて……」

「そりゃそうだよね! ごめん、変なこと言って。気にしないで!」

「誘ってくれて嬉しかったわ。明日また学校でね」

「…………アニー、これで何人目だ?」

 生徒会室に向かう道中、クラスメイトからペアの申し込みを受けた私。カトリーヌに正直に人数を言うべきか濁すべきかを躊躇っていると、ナディアが代わりに答える。

「今ので17人目よ~。アニーファンクラブの存在は知っていたけれど、こんなに身の程知らずが多いとはね」

「まぁまぁ、記念告白というか、本気で言ってないヤツも多いだろうしな」

「それが余計に許せないのよ~! そっちは一回分の勇気なんでしょうけれど、断る方は何倍も神経使うのよ~! それも何回も!」

「ナディア、怒ってくれてありがとう。でも私は平気だから安心して? 全部に答えられないのは心苦しいけれど」

 アニーファンクラブなるものの存在には気づいていた。でも無理もない。リアン様の容姿は、ヒロインのような透明感はないけれど、艶やかで目を惹く。本来のリアン様みたく近寄りがたいオーラがあれば、ファンクラブも本人には気づかれないように運営されるんだろうけれど、私にはそんな威厳もないからね。

「アタシたちはどうするさ? ふたりで出られたらいいけど、そうもいかないしよ~」

「あの~、実はね?」

「ハニー!」

 突然後ろから声がして振り返ると、見覚えのない男子生徒が立っていた。目をキラキラさせてナディアを見つめている。

「ウィル、どうしたの~?」

「今日は生徒会室に行くんだよね? その前に一目会っておきたくて……」

「うふふ、今日はそんなに遅くならないだろうから、図書室で待っててくれる~? カフェにでも行きましょうか」

「ほんと! 嬉しいなぁ! ……あ! もしかして、アニーさんとカトリーヌさんですか? いつもハニーからお話聞いてます!」

「えーっと、ナディア、この方は……?」

「こちらウィリアム。隣の隣のクラスなのよ~」

「ウィリアムさん、はじめまして……」

「ウィルでいいよ! こうして会えて嬉しいなぁ!」

 手を差し出すウィリアム。

「あー、分かった。じゃあアタシたちのことも呼び捨てで呼んでもらって構わないから、な? アニー」

「ええ、もちろん……。よろしくね、ウィル」

 おずおずと手を握り返すカトリーヌと私にニカッと白い歯を見せて笑うと

「オーケー! カトリーヌ、アニー! 呼び止めてしまってごめんね。ナディア、またね」

 そう言ってウィリアムはナディアの手の甲にキスをすると、ぶんぶんと手を振りながら去っていった。

 ウィリアムに手を振るナディアに、カトリーヌと私は矢継ぎ早に質問する。

「今の、ダンスの相手か⁈」

「そうなの~、黙っていてごめんね」

「彼とはいつ知り合ったの⁈」

「夏休み前に、図書室で白い光のことを調べているときに声をかけられてね~? 彼が手芸の本を持っていたから興味が湧いたの。そこで少し話して、夏休み明けも図書室でよく顔を合わせるようになって、それでこの前告白されたのよ~」

「うわー! 何て何て⁈」

「『貴女を一目見た瞬間、恋に落ちてしまいました。でもボクは、本当は図書室に似合うような賢い男じゃないんです。貴女にふさわしい男になれるよう頑張ります。だから、これからずっとボクの隣にいてもらえませんか?』って」

「キャー! ……でも、『図書室に似合うような賢い男』って?」

「彼、妹さんに頼まれて手芸の本を借りようとして、初めて図書室に入ったらしいの。でも、ナディアが手芸が好きって言ったから、咄嗟に自分もよくやるんだって言ってしまったみたいなの。それで夏休み明けにこれをプレゼントしてくれたわ」

 そう言って、レース糸で編まれたチューリップの栞を見せてくれた。

「え~! かわいい!」

「あとで聞いたら、妹さんに教わりながらつくってくれたんだって。出会ったときに嘘をついてしまったことも謝られたんだけど……そもそも、彼が図書室には縁がないことなんて気づいていたわ。本を借りるときも大分まごついていたし。それに手芸も、このチューリップの栞を見れば、慣れていないのが分かったわ~。でも同時に、一生懸命自分の手でつくってくれたこともちゃんと伝わる」

「なるほどな、それで『図書室に似合うような賢い男』って台詞が出たのか」

「かわいいわよね~。無理しなくていいのに。でも賢くなろうと努力するのは悪いことではないから、一緒に図書室で勉強したりもしてるのよ」

「えー! 楽しそう! でも、ハリーとはまた違う感じのひとだね」

「そうね~。やっぱり、ナディアのことを真っ直ぐ見てくれるひとがいいな~って」

「そういうもんか」


 そんな話をしながら生徒会室に入ると、ミカがバッと目の前に現れる。

「女神……! 舞踏会のお相手をもう決められたというのは本当ですか……?」

「えっとー、うん、決めてる……」

「ミカ王子、まだ誘ってなかったんか」

「うん……。誘うべきタイミングを見計らっていてね……。お相手はどなたなのか聞いても?」

「あ……ノエル先生なの」

「なんと……。ノエルくん、やはり君には叶わないというのか……」

「ハリー様とカイトくんは、誰を誘うか決まっているのかしら~?」

「いやー、オレもアニーを誘おうと思ってたからなー、先越されちまった」

「えっ、私?」

「あー、ほら、オレそんなにダンスうまくないじゃん?それを知ってくれてる子とペアになれたらなーって思ってたんだよね」

「……ゴホン」

「何だよ、カトリーヌ」

「アタシはこう見えてダンスも得意ですから? 下手なダンスもカバーできると思いますよ?」

「……一緒に出てくれるの? いいのか、オレで」

「しゃーなしでな!」

 カトリーヌは、上がる口角を無理やり下げながら、カイトと話している。

「ハリーは? 一緒に出るひと決まってるの?」

「…………ミカ、俺と出るか」

「確かに、女神と出られない以上、他の女性と出るというのも……。よし、これも学園長に提案しよう。男女ペアのみだけでなく、男同士・女同士のペアも認めるべきだとね」

「それはいい提案ね~! 何なら、ひとりでも参加できるようにするのはどうかしら~」

「いいと思う! 無理にペアを組みたくないひともいるだろうし」

「うん。誰もが自分の好きに楽しめる舞踏会になるよう、早速提案してくるね」


 ミカの提案はすぐに学園長のOKが出て、多くの学生が生徒会に感謝した。

 もっとも、私たちは生徒会役員ではないんだけれど……。まぁ、生徒の皆が喜んでいるのなら、それでいいかな。


「女の子とも出られるようになったんだって? だったら俺じゃなくても……」

「いいえ! 私はノエル先生と一緒に出たいんです!」

 今日も、ノエル先生とダンスレッスンをする。

「もう十分踊れてるし、俺が教えられることはほとんどないかもな」

「じゃあ、ノエル先生のことを教えてください…! ノエル先生はどんなひとですか?」

「そうだね……。ロクでもないヤツだよ、キミみたいな子の側にいるべきじゃない」

「そういうことは聞いてません! 私の質問がよくなかったですね……じゃあ、最近楽しかったことは何ですか?」

「キミとのダンスレッスンかな」

「ふふふ、嬉しい」

「……ここにいる間は、目の前のキミとダンスに集中すればいいからね」

「じゃあ、もうひとつ。……どうしてノエル先生は、私の名前を呼んでくれないんですか?」

「……さすがに気づくか」

「気づきますよ! 無理にとは言いませんが、呼んでくれたら嬉しいなって……」


「じゃあ、聞くね。…………君は一体誰なの?」

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