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【番外編2 サマエル公爵ルシアスの取調室へようこそ】

「さて……今日はよく逃げずに来たね? その度胸は褒めてやってもいい。まぁ、もし来なければ、二度と君たちがアニーと話すことのないよう手配する予定だったから……私としてはその方がよかったんだけれどね? 手間が省けて。来てくれたからにはしっかり話し合おうじゃないか。……ハリー・アルジャー、君は私の愛娘についてどう思っている」

「……明朗快活」

「ふむ、それは確かにアニーのかわいらしい要素のうちのひとつだね。……で、君自身は私のアニーのことをどう思っているのかな」

「……貴方のものではないです」

「……ハハハ、面白いことを言うんだね? ハリー・アルジャー。アニーの悲しむ顔は見たくないが……この後の発言次第では……分かるね?」

「彼女は彼女だ。貴方が彼女の友人を管理するのは間違っている」

「……へぇ? お前は何にも分かってないね~。私は危険人物を排除しようとしているだけ。あの子にとって有害ではないと分かれば、私だって何も言わないよ?」

「あのー、有害っていうのは、どういうヤツのことを言うんです? オレたちは、アニーの純然たる友人です……!」

「ほう……カイト・ベイリー。お前はあの子の『純然たる』友人だと、そう言い切れるんだね? 偵察の話だと、君はアニーと入学当初から親しげに話していたそうだが……。お前はあの子を、かわいらしいと思うこともなかったと言うんだね?」

「……スミマセン、わりとしょっちゅう思ってます……」

「どんなときにそう思ったか言え」

「はい……。テスト終わりにアマリリスの皆で学園近くの湖まで歩こうって話になったんです。それで一旦寮に戻って私服に着替えて集合したんですけど、皆で出発しようとしたらアニーが『あっ!』って言って、謝りながら寮に戻って……しばらくしたら小走りで帰ってきて。どうしたの? って聞いたら、『うさぎのブローチを通学鞄に入れたままにしてて……。今日はこのブローチに合うワンピースを選んだのに』って言うんですよ。申し訳なさそうにはにかむ姿もかわいいし、通学鞄に入れて持ち歩いてるなんてきっと大切なブローチなんだろうな、物を大切にするって素敵だなって、思わずキュンとしちゃいました……」

「そのブローチはアニーに似合っていたか?」

「はい! それはもう! すげーかわいかったです!」

「……カイト・ベイリー」

「はい……」

「やっぱりあのブローチ、アニーに似合ってるよね⁉ まあ? 私と揃いのブローチだから? 似合うのも当然というか?」

「……あ! ほんとだ! サマエル公爵が召されているトラのブローチとデザイン似てますね! 親子でお揃いなんて、やっぱりアニーはサマエル公爵のことが大好きなんですね」

「ハハハ、分かるかね? これはあの子が私に贈ってくれたんだよ。君は話の分かる奴じゃないか!」

「ヘヘヘ、ありがとうございます!」

「うん、君は合格。ただ、今後アニーを傷つけるようなことがあれば、どんな理由であれ許さないがね」

「ありがとうございます! それはもう、もちろんですっ! でもサマエル公爵……オレだけじゃなく、ミカ先輩もハリー先輩も、アニーのことをとても大切に思ってます……! オレが保証します!」

「ふぅん? ……ではミカ王子、貴方は先ほど私の娘にヒマワリの花束を渡していましたね。しかも、花言葉を知ったうえで」

「……はい」

「あなただけを見つめる、崇拝、愛慕……この中のどの想いを込めて娘に渡しましたか?」

「……全てです」

「では、渡したヒマワリの本数は何本でしたか?」

「……11本です」

「意味は」

「……最愛、です」

「貴方は聖ロマネス王国の第一王子であり、王位継承者です。あの子に后の重責を負わせるおつもりですか」

「――! それは……」

「そんなことも考えず、あの子に求愛していたんですか」

「……」

「我が家の庭のヒマワリは999本です」

「何度生まれ変わってもあなたを愛す……」

「よくできました、ミカ第一王子。私は、この身が切り裂かれようとあの子を守り、愛し続けると決めているのです」

「……サマエル公爵、貴方はなぜここまでリアン様を愛されているのですか? 我が子が愛おしいという気持ちは分かります、ただ……」

「気持ちは分かる? ふざけないでもらえますか。私のこの気持ちは誰とも分かち合えません。分かち合おうとも思わない。貴方は娘の容姿に惹かれたのかもしれないが、私は――」

「違う」

「ハリー・アルジャー……ひとの話を遮るなんて、いい度胸をしていますね?」

「……ミカは、彼女の内面に惚れてるんです。見てくれは重要じゃない。こいつは、例え彼女の見た目が俺になっても、それでも彼女自身を愛す……そんな奴です。サマエル公爵……貴方にそれができますか」

「…………お前には話さない」

「サマエル公爵。私は、彼女のためなら死んでもいい、どんな身分になっても構わないと、つい先日まで思っていました」

「……ほう? でも今は我が身が惜しくなったと……。敗北宣言ですか」

「いえ、そうではないんです。私が王位継承者であることで、彼女を守れる時が来るかもしれない、私が死んでしまえば、彼女を守る者がいなくなってしまう……。だから私はミカ第一王子として、そしてその後は聖ロマネス王国の王として、彼女より長く生き、彼女のために生きようと誓ったんです。彼女を后にしたいと思わないと言えば嘘になりますが……彼女には彼女の望むように生きてほしいと切に願っています」

「……」

「サマエル公爵ルシアス、我々の無礼をどうかお許しください。貴方の言う通り、貴方の気持ちは貴方だけのもの。分かるだなんて言葉を軽率に使うべきではありませんでした。申し訳ありません。貴方の気持ちを私が完全には推しはかれないように、私の気持ちも、等しく誰かと分かち合えることはないでしょう。でも、これだけは分かってください。私は彼女には、ずっと笑っていてほしいんです。……ヒマワリのように。その手伝いを、私にさせてもらえませんか」

「…………」

「……俺も、アマリリスの仲間として彼女を守ります。貴方より俺たちの方が長く生きると思うんで」

「ルシアス公爵! オレも彼女の笑顔のために頑張ります!」

「……ミカ王子、貴方のことを私は認めません。ただ、今は目を瞑りましょう。ハリー・アルジャーの言う通り、私があの子より長く生きることは、あってはならないですからね」

「――! ありがとうございます、サマエル公爵ルシアス」

「それと、ハリー・アルジャー。私はお前をどうも好きになれない。ただ、我が娘の見る目も疑いたくない。君のことは引き続き注意させてもらうが、あの子の傍にいることは許してやろう」

「……それって疑ってませんかね」

「……ハリー先輩! そういうところですよ! 黙って!」

「それと、最後にもう一度言うが……あの子を悲しませるようなことがあれば、その時は誰であっても一切容赦しないから……いいね?」

「はい、心得ています」

「……よし、じゃあ解散しよう。私は花屋に行かなくてはならないからね」

「花屋……」

「お時間いただき、ありがとうございました……!」

「無論、ここでの話し合いは他言無用だよ……分かるね?」

「話し合いっていうかじんも……」

「はい、もちろんです、サマエル公爵ルシアス。本日は本当にありがとうございました」

「もう会いたくもないんだけれど……またね?」

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