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第十一話 昨日のつづき

「おや、随分と暗くなってしまいましたね。寮までお送りいたしますね、女神」

 ミカがそう言って生徒会室の扉を開けると、ドアの真ん前に、カイト・カトリーヌ・ナディアの3人が立っていた。

「みんな!」

「アニー! 無事かー?」

「アニーの帰りが遅いから皆で迎えに来たのさ! もう少しでドアを蹴破るところだったよ」

「寮の門限まで待ちましょうって言ったのに、ふたりとも聞かなくて~」

「待てなかったんだからしょうがないだろ? ……ていうかミカ王子まで一緒だったのかい⁉」

 口々に話す3人を見て、ミカ王子は私の耳元で

(やっぱり女神は人望の厚いお方ですね)

 とこそっと言った後、

「お三方にもご心配をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。では、すみませんが僕たちはこれで」

 とハリーを連れて去っていった。

「なになに? 何があったのさ⁈」

「アニー? 何があったかぜーんぶ話してもらうまで、今夜は寝かせないわ~?」

「オレも! オレも聞きたいっ!」

「カイト、アンタは男子寮だろ? 今日は男子禁制恋バナ女子会さ!」

「コ、コイバナ⁈ えっ、そんな、アニーとハリー様が? それともミカ王子と……」

「はい、はい! 勝手に話を進めない! でも、そうね、今日あったことは3人にも知っておいてほしいわ。明日は学校もお休みだし、少し時間をもらえるかしら?」



 翌朝、私はカトリーヌとナディアと一緒に、男子寮へと向かった。聖ロマネス学園では、男子生徒が女子寮に入るのは禁止されているのだが、女生徒の男子寮への訪問は日中のみ認められている。


 ロビーのソファでカイトを待っていると、玄関を通る男子生徒たちがちらちらとこちらを見ているような気がする。女子の男子寮への訪問は認められているものの、実際に訪れる者は少ない。婚約者のいる生徒くらいだろうか。だからきっと物珍しいのだろう。

「め、女神⁈」

 声のする方を見ると、ミカが目を真ん丸にして階段から駆け下りてくる。

「一体どうなさったんですか? こんなところ、女神が踏み入れてはなりません……!」

「……ミカ、うるさい」

 後から階段を下りてきたハリーがミカをたしなめる。

「あぁ! つい大きな声を出してしまった……。申し訳ありません、リアン嬢」

 しゅんとした顔をするミカ。すると、カトリーヌとナディアは

「め、女神?」

「ミカ王子の取り乱した姿、初めて見たかもしれないわ~」

 と驚いた様子。無理もない。昨日何があったのかをまだ何も話していないのだから。

(ミカとハリーにも同席してもらった方がいいかな? それで皆が仲良くなれば私としてもハッピーだし……)

「あの……ミカ王子とハリー様、これからどこかに行かれるんですか?」

「……剣術の稽」

「いえ! どこにも! 今日は何の予定もないんです。リアン嬢は何をなさるご予定ですか?」

「今日は昨日のことをカトリーヌとナディア、それからカイトにもきちんと話そうと思っていまして。ミカ王子とハリー様にもご同席いただけたら嬉しいのですが……」

「リアン嬢の望みであればもちろん! 喜んでお供いたします」

「……俺は闘技場に」

「ハリー? 君は昨日の無礼をもう忘れたのか? ついて来るんだ」

「……」

「やー、ごめんごめん、お待たせー! ……ってなんでミカ王子とハリー様が⁈」

「ではメンバーも揃ったことですし、応接室に向かいましょう」



「……コハクちゃんって言うのね~! かわいい名前だわ~」

「これからはアニーじゃなくて、コハクって呼んだ方がいいのかい?」

「そうねぇ……。アニーっていうニックネームもとても気に入っているから、今まで通りでいいわ」

 私の正体を知っても、ナディアとカトリーヌは何も変わらなかった。

「話し方は自然にしてくれよな! アタシもふたりの前ではこんな話し方だしよ」

「……うん、分かった。今まではそれなりに丁寧な言葉遣いをするように心がけてたんだけど、これからはここの皆の前では気にしないようにする! でもまあ、リアン様の話し方もまあまあ板についてきてたんだけどね」

「そもそも~、ナディアたちはリアン様のこと、噂でしか聞いたことなかったものね~」

「そうそう、アタシたちにとってのアニーは、今目の前にいるアニーだけだもんな」

「……ナディアもカトリーヌもすごいな。オレは、ちょっとまだよく分かんないや」

「それはそうだよ、こんな嘘みたいな話、信じてって言う方が無理あるよね」

「いや! アニーが嘘をついてるとは全く思ってない! それに、オレにとってもアニーはアニーだけだ。ただ……この世界が1年間だけかもしれないっていうのが……正直怖い」

「僕や皆が繰り返していたのは来年の1年間。つまり、今過ごしている時間は本来存在しえなかった時間なのです。だから僕は、来年の1年間が終わった後も、このままこの世界は続くと信じていますよ」

「……でも、そんなの、分かんないですよね?本当はどうなるかなんて」

「それはそうですね……まだ誰も経験したことのないことですから」

「う~ん、でもそれって~、そんなに怖いことかしら~? もし仮に来年の終業式の後に時間が巻き戻っても、それはそれで今まで通りってことなんでしょう?」

「そうだよ! そしたらまたアタシたちと友だちになればいいじゃんか!」

「でも! そうなったら、アニーがいなくなるかもしれない。しかもそれにオレは気づけないかもしれない。そんなのイヤだよ……」

「……」

 応接室が沈黙に包まれる。

「……白い光」

 ハリーが呟く。すると、ミカがぱっと顔を明るくし

「そうか、そうだよ、白い光! 僕が女神をこの世界に呼んでしまったとき、白い光に向かって願い事をしたんだ。きっと僕らがそれぞれの願いを唱えたら、きっと祈りが届くに違いない」

 と言った。

「もしその光がオレたちには見えなかったら? ミカ王子にももう見えなかったら……」

「……それでもアタシたち皆で祈るっきゃないさ!」

「白い光について、何か文献があるかもしれない。王室に資料がないか探してみます」

「じゃあナディアは図書館で探してみるわ~。まだ1年以上あるんだもの、悲観的になるのはまだ早いわ~!」

「アタシも一緒に探す! ……まぁその前に、アニーが無事にこの学園に居続けられるのかっていう問題もあるけどな」

「それはオレたちがいるから何も心配いらないっしょ!」

「何でそこだけポジティブなのさ」

「だって超常現象でも何でもないしー?」

「カイトくんの言う通りです! 女神は何も心配する必要ありません」

「男子って……」

 と顔を見合わせるナディアとカトリーヌ。

「でもそうだな! くよくよしてもしょうがない! アニー、今日はオレたちに打ち明けてくれてありがとうな! 改めて、これからよろしくな!」

「うん! こちらこそ話を聞いてくれてありがとう。これからまたよろしくね!」

「こうして皆で集まったのも何かの縁だし、チーム名をつけるっていうのはどうだい?」

「ナイスアイディア~! う~ん、何がいいかしらねぇ」

「チーム友だちはどうだー⁈」

「……ださい、却下」

「じゃあハリー様も何か案出してくださいよー!」

「……ホワイトライト」

「え~! ハリー様の案かわいいです~」

「どこが⁈ チーム友だちとどっこいどっこいじゃないかよー!」

「ではチーム名は宿題にしましょう。それと、今後集まる場所としては、生徒会室を使っていただいて構いません。この学園の生徒会は今ほとんど活動しておらず、生徒会室の利用については会長から一任されているので」

「ありがとう、ミカ!」

「女神にお礼を言われるなんて僕は幸せ者です……」

「あのー、ミカ王子、アタシたちもミカ王子に友だちみたいに接しても大丈夫ですかね……?」

「もちろん! 女神を守る同士としてこれからよろしくお願いします。話し方も崩していただいて構いません。……僕もそうするね」

「その流れで私にも敬語やめない?」

「それは……善処しますね、女神」

「オレも女神って呼ぼうかなー」

「やめて! そもそも私、女神なんてそんな崇高な人間じゃないんだから!」

「女神は女神とお呼びするにふさわしいレディですよ?」

「もう埒が明かない! はい、解散!」



 この5人と一緒なら、これからの学園生活もその先もきっと頑張れる……そんな気持ちになれた休日だった。

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