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春の章 多生之縁 5

 剣、直江、各務は小笠原諸島のある島に降り立った。

目的は在原の行方。

剣の先見の明による先読みの行動だった。

異変が続いているこの島では環境局による生息状況、生態調査も行われようとしていた。


登場人物紹介

王生いくるみ けん  

王生家の中心人物。現在に目覚めた不動明王。普段は天然で抜けているふりをしているが、先見の明を持っており何事も卒なくこなす正に聖人君子。

職業は仏像学芸員。



各務かがみ 恵光しげみつ

M.C.H.の館長。剣とは公私共に面識あり。

彼は現在に目覚めた恵光童子。剣に仕える立場の人物である。



直江なおえ 菱耶りょうや

大耶の実父。愛(剣の現在の妻)の元旦那。

警視総監。何故か剣のことを理解している。



王生 煌徳あきのり

剣と愛の実子。現在に目覚めた大威徳明王。現在酪農大学の学生で三世の跡を継ごうと獣医師を目指している。愛くるしい顔をしているが怒ると家族の中では一番怖い。



白石しろいしさん

煌徳に想いを寄せるE酪農大学の後輩。



E酪農大学 学生食堂

 煌徳は一人で席に座り昼食を取っていた。

お皿の上にはパスタが巻かれたままのフォークがのっていた。

テーブルに置かれたスマホを見ながら溜息をつく。

「めっちゃメール貯まってる…」

スワイプして不要なメールをどんどん削除していく。

「やっぱり来てたんだ」

見ていたのは一か月前の大学のコミュニティメール。


件名:小笠原諸島における生息状況、生態調査の依頼


今回の調査は保全する動植物の生息分布、生息数の把握。同時にモニタリング調査を行い、その記録管理を行うことを目的とする。


調査対象


鳥類  オガサワラノスリ

    オガサワラヒヨドリ


哺乳類  オガサワラオオコウモリ


昆虫類 オガサワラネブトクワガタ


陸産貝類  オガサワラヤマキサゴ


植物  寒緋桜かんひざくら


「私応募しました!」

「うわっ!」

いきなり現れたのは煌徳に一方的に思いを寄せている後輩の白石さん。

「いつからいたの?」

「パスタをフォークに巻く前ですかね」

自分がボーっとしていただけか…。

「白石さんが?大丈夫?」

そう…彼女は三年間飼育してきた100頭の牛を未だに識別できない。

調査は視覚が重要なんだけどな…。

えっと…鳥類の調査対象は2種。

小笠原でトビが見られるのは稀だからノスリと見間違える心配はなし。鳥類は多分大丈夫。

「だって小笠原諸島ですよ。スキューバダイビングやってみたいです。あとドルフィンスイム!憧れなんですよ♡」

──イルカは調査対象外です。

しかも本来の目的から完全にかけ離れてる…。それガチで観光旅行だから。

「ちゃんとメール読んだ?」

「え?読みましたよ。でも私、虫苦手なんですよね」

昆虫類、陸産貝類は駄目そう…。

「とにかく頑張って」

「はい!」

明るくて頑張り屋のいい子なんだけどな…。

「王生先輩、相席してもいいですか?」

「あぁ。うん」

今日の昼食は長くなりそうだ。

「明日から約二週間会えないと思うと急に寂しくなって…」

「明日出発なんだ」

そうだった…一か月前にメール来てたんだった。

それにしても、たった二週間くらいで大袈裟だな。

煌徳がパスタを食べようとフォークを手に持つ。

あっ…パスタが既に固まってる…。




 小笠原諸島の中でも人口2000人の比較的大きい島。

フェリーが港に接岸する。

「やっと着いたか…」

スーツで上陸。一人浮いている格好の直江。

「少し蒸してますね…。北海道を発って三日。こんなに気候に差があるとは…」

半袖のYシャツからは鍛えられた上腕二頭筋が見え隠れする事前準備のいい各務かがみ

「直江がいると堂々と情報収集ができるから助かるよ」

呑気に構えている長袖のYシャツ、サングラスをかけて用意万全の剣。

「警視総監ですよ。いいんですか?しかも奥さんの元旦那ですよ?」

「落ち着け各務かがみ。いいんだよ」

「王生さんは怖い物知らずですね」

各務がトーンダウンする。

「敵は紫外線!今時期は強いからな。海を見て見ろ!真っ青じゃないか。正にジャパンブルー」

逆にトーンアップの剣。

「こっちは濃いピンク色の桜が咲いてますよ」

「桜?」

剣が山の方に目をやると標高の低い所にぽつぽつと桜が咲いていた。

寒緋桜かんひざくらです。見ごろは2月ですなんですけどね…」

タラップの側で乗客を見守っていた甲板員が教えてくれた。

「狂い咲きですか?」

「何年もこの航路を航行していますが、10年前くらいからですかね…。隣の島も立ち入り禁止になったし、ここの島民の皆さんも島の異変にビクビクしてます」

剣が神妙な面持ちになる。

剣たちが上陸後、下のデッキに乗船していた団体が下船し始める。

「靴底の洗浄お願いします!」

甲板員が騒がしくタラップを降りてくる団体に声をかける。

「あの人達は?」

剣が尋ねる。

「あぁ調査員だそうです。何でも生態調査をしに派遣されたとか…」

「そうなんですか」

一方で直江が気になっていたのはバンタイプの移動基地局車だった。

「港に移動基地局車?」

「広範囲で通信障害が発生しているんです。市街地では使えるんですが、それもここ最近厳しいかな」

直江がスマホを確認する。

『圏外』

「ここは駄目ですね」

「おい、乗船経験が長そうな甲板員さんなら何か覚えているかも」

剣が直江の背中をつつき、小声で伝える。

「突然すいません。実は私、警察の者でして。この男性に見覚えはありませんか?」

直江が警察手帳と一枚の写真を見せる。

各務が手配したその写真には在原が写っていた。

甲板員は突然の事に驚いた様子だった。

「一便に800人くらい乗船しているからね…」

自信のない表情で写真を手に取り見る。

「あれ?この人…一週間前の便に乗船していたような気がします」

「何か覚えていますか?」

「凄い荷物の量だったから印象に残っているんですよ。まだオフシーズンなのに長期滞在するんだと思ってね」

「ありがとうございます」

──予想通りだ。大自在天の住処を突き止めてやる。


一台のバンがフェリーに横付けする。

「王生さーん!王生さーん!お久しぶりでーす!」

全開に開いた車の窓から叫ぶ男性。

「おっ、来た来た」

「お知り合いなんですか?」

「以前隣の島でお世話になっていた宿のご主人。今はこの島で宿を経営してるんだ。仕事で仏像の保存状態を確認しに来るようになってからだから、かれこれ20年以上お付き合いしてるかなぁ」

根回しのいい剣が頼んだ宿の送迎車だった。

「俺一週間しか休みとってないんだけど、何泊するんですか?」

不安な各務。

「船が出るのは火曜だから3泊かな。言ってなかった?」

しれっと答える剣。

「聞いてませんけど」

まっ、いつもの事か。

往復6日、宿泊が3泊…全然一週間じゃ足りない。

仕方ない。藤原に連絡しておくか。

何の気なしにスマホを取り出す。

──ここ圏外だった。

「王生さーん!早く早く!バチの握りにメカジキのステーキが待ってるよ!」

「今そっちに行くよ」


王生いくるみ?先輩?」

「白石さんどうかしましたか?滞在期間中の説明始まりますよ」

環境局の職員が調査員として来ている白石に声をかける。

「は、はい!」

振り向きざまに背負っていた大きなリュックが港を歩いていた男性に当たる。

「あっ、すいません」

相手は何も言わず立ち去って行ってしまった。

スキューバダイビングの後かな?

ウエットスーツを着ているしタンクも持ってる。

白石は何か引っ掛かることがあり男性を目で追う。

「赤い…これって血?」

どうしよう…私ケガさせちゃったのかな?

地面には男性の後を追うように点々と跡が残っていた。

白石が男性の歩いて来た方向を見ると血痕はかなり先から付いていた。

「私のせいじゃないみたいだけど…」

とは言え…。

白石は心配そうに男性の背中を見つめていた。

──モーモー。

空から牛のような鳴き声がする!?牛舎なんて無いのに?

「あっ!鳥だ!」

何ていう鳥かな?見たことないんだけど。

すごく翼が長いくて超カッコイイ!写真、写真!

「白石さん!」

「すいません。今行きます!」

あっ!こっちは黒い!

最後にもう1枚だけ。

「あー!もう…少しずれちゃった」




煌徳は寮で試験勉強中。

机の上のスマホが鳴る。

「あっ、白石さんからだ。無事着いたのかな?」

暫く放置。

「………」

出たら長電話になりそうだしなぁ…。申し訳ない。今、勉強に集中したいんだよ。

30秒経過。

「まだ鳴ってる」

50秒経過。

──諦めるか…。

「もしもし」

「王生先輩。お疲れ様でーす」

相変わらず甲高い声。いつテンション高いのか低いのか分からないんだけど。

「お疲れ様。そっちはどう?暑いの?」

「今日は少しムシムシしてました。それより日焼けが心配です」

「そっか。頑張って。じゃあ」

声も聞けたし、早く切ろう。たわいもない会話より勉強を優先したい。

「あー!先輩、待ってください!今日、聞き間違いじゃなければ港で

王生いくるみさんって呼んでる声がしたんですよ。私、先輩が来てくれたのかなぁなんて思って振り返ったら、おもいっきり人とぶつかっちゃって」

「王生?」

「おじさん3人くらいで私たちと同じで何かを調べているみたいでした」

「もしかして父さん?」

「ええええええええええええ!!お父様????」

声がデカいよ。周りに人いないのかな…。こっちは一人部屋だからいいけど。

「わかんないけど、一週間くらい家を空けるって言ってたから、もしかしたらと思って」

「明日会えたら挨拶しないと」

「……」

──いいよ別に。

「もしもし?白石さん?」

「この島、電波悪いみたいで、今 市街地にある島の公民館に泊まっているんですけど、島の中心部から離れると圏外になってしまって日中は先輩に連絡できないんですよ」

「疲れているだろうし、わざわざ電話しなくてもいいよ」

こっちは別に話すこと無いんだけど…。

「そうだ!今日撮った写真、後で送りますね」

「あぁ。楽しみに待ってるよ。今勉強中だから。切るね。お疲れ様」

ふぅ…。長電話を回避できそうだ。

「先輩、おやすみ   な さーい」

「おやすみ」

直ぐに煌徳のスマホに写真が届く。

「白いアホウドリ?もう一枚来てる。こっちは黒いアホウドリかな?」

小さっ。もっとアップで撮れよ…。

しかも2枚目 斜めに写ってる。補正しろよ…これ誰?地元のイケメンでも撮ったの?

ちょっと待って。どこかで見たことあるような気が…。

視覚を駆使して見てみるか。

目を閉じ呼吸を整える。

1.2.3。心拍数安定。

「よし!」

再び目を開いた瞬間、見えにくかった斜め後ろからの顔が徐々に鮮明に見えてくる。

「右目…これって…在原あいつじゃない?」

父さんに知らせないと。

「おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません」

慌てて電話を掛けるが繋がらない。

「三世!お願い出て!」

煌徳は咄嗟に三世に掛ける。





トビ……茶色の翼に白い模様

ノスリ……白っぽい翼に茶色い模様

鳴き声も違うみたいです。


剣の職業は仏像学芸員です。



読んでいただきありがとうございます。

今年の北海道の春は早そうです。

畑にはネズミ、キタキツネ。空にはカラス、トビ。

会社の裏の川で釣りをしている親子…。

私の春。道の駅で見つけた「わかさいも桜」

わかさいも。北海道の銘菓です。


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