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春の章 多生之縁 2

 在原は退院後の経過確認のため担当医である宝の診察を受けていた。

その最中、在原が宝に突然襲いかかってくる。

倉橋はいきなりT市総合病院への出向を命じられる。

この辞令には何か理由がありそうで…。



登場人物紹介



王生いくるみ たから

剣と前妻の子供。現在に目覚めた軍荼利明王。143年前は男性として現れるが、現在は女性として現れる。職場は脳神経外科医(脳神経内科兼務)。

名医で海外に派遣されることも多い。性格はかなり奔放。三世とは馬が合わない。



野原 南海みなみ

天野病院の看護師。宝から絶大な信頼を受けている。



在原 朝臣ともおみ

さくらの職場の上司。さくらの大学の先輩でもある。実はさくらに想いを寄せている。

悲運なのか不運なのか運命なのか、彼の血筋には代々運ばされている「恨」があった。

その「恨」を糧に大自在天が意識を支配し始める。

父親は元統合幕僚長、九条忠。母親は高子(旧姓在原)



倉橋 清隆きよたか

現在に目覚めた制多迦童子。陰陽師、安倍晴明の血筋。それ故に式神を操れる。

宝と同じ病院に小児科医として勤務している。

折り紙が得意。


天野病院では各診察室の入口のモニターに担当医が表示されている。


脳神経外科・内科

本日の担当医 王生 宝


今日、在原は退院後の経過確認のため診察を受けていた。

「CT画像を見ました。異常はなさそうですね」

「安心しました」

とは別に、

解離性同一性障害の方も気になるけど、今回は関係ないし…。

憑依は医学的に精神疾患のひとつなんだけど根拠がない。

出来ればMRI検査と脳波検査したいところだけど…。

諦めるか…。

「次は一ヶ月後に予約を入れておきますね。それで問題がなければ終わりです」

宝がデスクのパソコンで診察の予約状況を確認する。

「その頃は来れないかもしれません」

「えっ?」

振り向くと在原が薄気味悪い目で宝を凝視していた。

色付きの眼鏡を掛けていてもはっきりとわかる。非対称な眼。左は本物、右は水晶を眼窩嵌入がんかかんにゅうした玉眼。

王生いくるみ…変わった苗字ですね。そうそうありませんよ」

やっぱり苗字で私と三世が夫婦?いや姉弟ってバレてんじゃん。三世の奴……。自然と眉間に力が入っちゃうじゃないのよ!

「あんまりジロジロ見ないでもらえますか」

こっちは目を合わしたくないのに、その異様な右目が視線を逸らしても私を追っかけてくる。

瞬きする間もなく在原の右手が宝の首に掴みかかり、じわじわと絞めようとする。

「うっ…」

「案外無力なんですね」

「患者さんに手を出せるわけないでしょ」

爪が首に喰いこみ爪痕がくっきりとつく。

「痛いんですけど…第三、第四頸椎辺りが…」

予想的中。いきなり襲われたじゃないの!三世、覚えておきなさいよ!

「気になりますか?私の右眼」

「ま、まぁね……」

「魂が籠っていますからね。この体と離れるわけにはいかないんですよ」

既に大自在天が在原の意識を完全に支配しているって事?

「医師としては離れた方がいいと思うんですけど。直接体に水晶を埋め込むなんて…」

「余計なお世話ですよ」

「石英は発がん性が認められてますし…」

「ご忠告ありがとうございます」

頸部圧迫による気道閉塞…。

気を失う前に一発蹴り入れたいんだけど!いや、二発、三発!

「失礼します」

南海が異変を察知して診察室に入って来る。

「王生先生。306号室の患者さんの容態が急変したそうです。至急診てもらっていいですか」

宝は在原が一瞬怯んだ隙に手を振りほどき、決して人前では見せない形相で在原を睨む。

「その目つき…。激しくお怒りのようですね。憤怒の形相…」

「元々目がつり上がっているのよ!」

「先生、急ぎましょう」

南海は何も見ていなかったように冷静だった。

「在原さん。今回の診察で経過観察終了にします。お大事になさってください」

パソコン画面が自動的にスクリーンセーバーに切り換わる。

画面には以前三世が宝に送ったエゾブルーのアオダイショウが映っていた。

「ありがとうございました。王生先生。……蛇お好きなんですね」

「えぇ大好きです♡特に北海道のアオダイショウ。本州とは違った美しい色の個体なんですよ」

「そうですか…確かアオダイショウって、おとなしい性格で毒は無いんですよね」

「えぇ。穏やかで無毒です」

在原が軽く一礼し診察室を出ようとした時、

眼鏡の下から頬を伝って大粒の涙らしきものが数滴 床に落ちる。

「在原さん?」

在原は震えた手で宝の袖口を掴もうと左手を伸ばすが、自らの右手がそれを押さえつける。

「し、失礼します」

宝は在原が最後に何か言い残そうとしていたように見えた。

「南海」

「は、はい」

「塩ある?」

「生理食塩水ならありますけど。撒きますか?」

「冗談。やめて。で、306号室って?」

「あれ嘘です。今 306号室は空き部屋です」

「さすが、南海。頭の回転早いね」

南海の表情が芳しくない。

「実は、夜のラウンドで前に亡くなった看護師の霊がすすり泣いている声がするとか変な噂が飛び交ってて、在原アイツが退院してからずっと空いてるんですよ」

「そうなんだ」

私が感じた僅かな霊力、清隆も女性の悪しき霊が出入りしてるって言ってたし。

南海が宝をジロジロ見ている。

「ん?どうしたの?」

「宝先生、血!血!!血!!!」

宝が自分の白衣を恐る恐る見る。

「やだ…うっそぉ。白衣にめっちゃついてる…。え?いつ?誰の?」

「きっと在原アイツですよ」

「在原……」

左眼からは純粋な涙、右眼からは忍辱の血…。

もしかして彼自身、心の中で戦っているのだろうか…。143年前の九条のように必死に大自在天の暴挙を止めようとしているのだろうか…。

「どうしよう…。今朝クリーニングに出したから着替えが無いんだけど」



新着メール 1件

人事課より


「宝先生、人事課からメールの一斉送信です」

「今時期?何だろう」

クリックして開く。

「え?清隆?降格?」

「宝先生、落ち着いて良く見てください。倉橋先生、T市の総合病院に週2で出向するそうです」

「あー思い出した!前回出席した会議で ここの病院の医師から出向の打診があったのよ。小児科の医師が産休に入るらしくて外来ストップしちゃうんだって」

「小児科医不足してますからね」


出向辞令


小児科医

倉橋 清隆 殿

T市総合病院 小児科外来に週2回の出向を命ず。

期間は5月〇日から三か月とする。



「それにしても急ですね。本人まだ帰省先から戻って来てませんけど」

もしかして 清隆がその病院に行くのって……。

「宝先生、どうかしましたか?」

「うっ…頸部が痛い…」

「少し赤くなってますね」



待合室のテレビ画面にはニュース速報がテロップで流れていた。


小笠原諸島近海で海底火山の噴火

周辺を航行する船舶は十分気を付けてください

周辺の島では津波にも注意してください


アナウンサーとアシスタントのやり取り。

「今回の水蒸気爆発は規模が小さいようですね」

「最近群発地震も多いですよね。心配です」




──王生家

「ただいま帰りました」

大耶が当直明けで帰宅する。

誰からも返事がない。

「煌徳は大学に戻ったし、静かだな…」

一晩家を空けただけでも気になるダイニングを真っ先に覗く。

床には点々とコーヒーの跡。

「剣さんですね…コーヒーこぼしたの」

ドリッパーから外したフィルターはビニール袋に入れて三角コーナーに入れておいてって言ったのに…。

「……」

カップくらい洗っておいて欲しいんですが…。

あーあ茶渋、重曹でとりますか。

溜息をつきながらリビングへ。

リビングのお気に入りの場所にクリスさんがいない。

三世の車が車庫に無かったから一緒に仕事か?

リビングから2階に上がり三世の部屋の前を通って、隣の自室のドアノブに手をかける。

お香?いつもより香りがきついな…。残り香が廊下にまで籠っている。

普段心を落ち着けるために焚いているのは知っていたが…。

白檀びゃくだん…」

相変わらず うなされている時もあるし。煌徳の部屋と替えてもらおうかな…。

この香りを嗅ぐと143年前、千世も絶えず焚いていたのを思い出してしまう。

心身の浄化…もしかして完全なる降三世明王がいよいよ現在に出現するのか?

彼の強さは群を抜いている。

正直少し怖い存在だ。

ぶつかり合う、いや改心させる相手は…大自在天。

「彼女を巻き込まないでくれよ」



眼窩がんか……眼玉が収まっている頭蓋骨のくぼみ

軍荼利明王……首や手足に赤い蛇がまとわりついている


読んでいただきありがとうございます。

北海道にも王生さんいるみたいですね。

近々、倉橋はT市総合病院に偵察へ。

三世の師匠(獣医師)も登場予定です。


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