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春の章 多生之縁 1

 清隆は剣に頼まれた陰陽師、蘆屋の継承者がいるか足取りを調べに京都の実家に来ていた。

ここで話が急展開する。


登場人物紹介


王生いくるみ けん  

王生家の中心人物。現在に目覚めた不動明王。普段は天然で抜けているふりをしているが、先見の明を持っており何事も卒なくこなす正に聖人君子。

職業は仏像学芸員。



王生いくるみ たから

剣と前妻の子供。現在に目覚めた軍荼利明王。143年前は男性として現れるが、現在は女性として現れる。職場は脳神経外科医(脳神経内科兼務)。

名医で海外に派遣されることも多い。性格はかなり奔放。三世とは馬が合わない。



野原 南海みなみ

天野病院の看護師。宝から絶大な信頼を受けている。



倉橋 清隆きよたか

現在に目覚めた制多迦童子。陰陽師、安倍晴明の血筋。それ故に式神を操れる。

宝と同じ病院に小児科医として勤務している。

折り紙が得意。



王生 大耶だいや

愛の連れ子。現在に目覚めた金剛夜叉明王。職業は刑事。職業柄常に沈着冷静。無表情。趣味は料理。




直江 菱耶りょうや

大耶の実父。剣の現在の妻である愛の元夫。

警視総監。



各務かがみ 恵光しげみつ

M.C.H.の館長。剣とは公私共に面識あり。

彼は現在に目覚めた恵光童子。剣に仕える立場の人物である。



在原 朝臣ともおみ

さくらの職場の上司。さくらの大学の先輩でもある。実はさくらに想いを寄せている。

悲運なのか不運なのか運命なのか、彼の血筋には代々運ばされている「恨」があった。

その「恨」を糧に大自在天が意識を支配し始める。

父親は元統合幕僚長、九条忠。母親は高子(旧姓在原)


天野病院3階東病棟ナースステーション

南海みなみが電子カルテのチエックを終え、パソコンをナースカートに載せる。

「朝の回診行ってきます」

ナースステーション入口に近い倉橋の机の上が綺麗に整頓されていた。

「珍しいですね。倉橋先生がお休みいただくなんて」

入院している子供たちのために真剣に折り紙を折っている姿がないのは少し物寂しいかも…。

倉橋のパソコンのディスプレイには金の折り紙で折った一対のしゃちほこが飾ってあった。

「実家に行くとか言ってた」

宝が足を組みコーヒーを飲みながら素っ気なく答える。

「もしかして…お見合い?」

「かもよぉ~」

「だって倉橋先生もうアラフォーですよね」

「36。12月で37」

宝がコーヒーを飲み終えカップを倉橋の机に置く。

「宝先生、茶渋すごい。あとで重曹につけておきますね」

「ありがと」



剣は毎朝のルーティンでもある深煎りのグァテマラを淹れていた。

「いい香りだ」

剣のスマホが鳴る。

「朝から誰だ?」

スマホに表示された相手は『直江 菱耶』。大耶の実父で剣の現在の妻である愛の元夫である。肩書は警視総監。

「もしもし」

「今大丈夫か?」

「あぁちょっと待ってくれ」

スマホをハンズフリー通話にする。

ドリッパーをカップから外し、一口飲む。

「すまん。いいぞ」

「例の10年前に統合幕僚長だった九条 忠に関する未解決事件だが──」

やはりまだ解決していないのか…。

「容疑者の特定には未だ至ってない」

説明できるような殺害方法じゃないからな…。

首は180度真後ろに向いて、両腕は捻じれて…内臓が…思い出しただけでもコーヒーが不味くなる。前言撤回。胸が潰れる思いだ。

「取り調べを受けたのは息子の九条 朝臣ともおみと妻の高子たかこだったが、二人には完璧なアリバイがあった」

やはり、九条 忠と在原は親子だったのか。妻も取り調べを?何か複雑そうだな…。

九条家が死の真相を隠していたのはアリバイがあったとはいえ、犯罪の嫌疑があって取り調べを受けたからか…。

格式ある勅祭社の一つを任されている御家の名に傷が付くとでも?

「王生、現代の科学でも説明できない凄惨な事件。私の話を聞いた時、陰陽術を使える者の仕業だと思ったんだろ?」

「あぁ」

「実はひとつだけ遺留品があった」

剣がコーヒーを飲みながら話を聞く。

「火薬だ」

「火薬?」

「黒色火薬。装薬に使用するものだと思う。古びた火薬入れに入っていた」

「銃で殺されたんじゃないだろ?」

「調べたら大日本帝国陸軍の支給品だった」

「昭和までは存在していただろ?」

「今は黒色火薬は発射薬に使われていない。少なくとも使用されていたのは明治時代までだ」

明治時代?143年前と重なる?陸軍?九条家……。

「謎だらけだし、火薬の所持は火薬類取締法違反だし、犯人の見当もつかない」

「公訴時効が廃止されたんだ。とにかく犯人逮捕まで頑張れ」

「あぁ」

通話が終わる。

「アイツ、俺にエール送るんかい」




通話が終わると直ぐに剣のスマホが鳴る。

「今度は清隆か」

久々に実家のある京都に帰省した清隆から連絡が入る。

「おはようございます。もしかして今コーヒー飲んでます?」

「察しがいいな」

「起床後2時間は経っていると思うので、コルチゾールの分泌が少なくなっている頃かと」

「よくわからんが、コーヒーは仕事前のルーティンなだけだ」

「早い話、目が覚めるということです」

「最初から解かりやすく言え」

「すいません。頼まれていた蘆屋あしやの件でご報告が」

剣がコーヒーを飲んで心を落ち着ける。

「表向きな陰陽師としての活動履歴は無いのですが、極秘に継承をしているようです」

「……」

やはりそうか。143年前、九条 道隆の体に書かれた除霊の呪文。納得がいく。

剣はコーヒーカップに口をつけたまま黙って聞く。

「継承者は播磨に留まらず転々としているようです。故に所在が掴めない状況です」

「詠み人知らず…か」

「私の本家では現在の継承者らしき人物に目星を付けていたようです」

「そいつは何処に?」

「ここ京都です」

九条家…拠点はかつての山城国、京都だったよな?

「毎年4月、平安神宮の八重紅枝垂桜を見に来る家族がいたそうです。しかし10年前からはその姿は一人になったそうです」

それが在原?10年前は父親である九条 忠が殺された年だ。

「その一人の男性の周りには烏の群れが飛び交っていたそうです。更に驚いたのは一人のはずなのに苑内の池で見たのは水面に映る彼と、常にもう一人の姿」

二人?…約諾…10年前に大自在天と切り離せない関係が成立していたという事か。

「私の本家の調査によると、その人物は九条家の分家の嫡男の息子──」

分家か…事件と後継者争いには関係なさそうだな。

「母方の在原の姓を名乗っている、在原 朝臣。宝が担当している患者でもある」

剣が先に答える。そしてコーヒーを一口。

「知ってたんですか?」

「あぁ。先日、恵光しげみつに聞いた」

「だったら早く教えてくださいよ。同僚として宝さんが心配です」

「宝の方が強いと思うが…」

「まぁ…そうですね」

清隆が話しを続ける。

「父親は元統合幕僚長の九条 忠──」

「あぁ、さっき直江と話した」

「じゃあその辺は割愛します。相当遡りますよ」

「どのくらいだ?」

「平安時代です」

「手短に。淹れたてのコーヒーが冷める」

一応お仕えしている身なのでわきまえて話を続けますが、

優先順位は僕の話よりコーヒーが上ですか?この後の話を続けるのが何か面倒になってきました。

「伊勢物語をご存じですか?」

「勿論だ。「むかし、男ありけり」その男が在原 業平を思わせるのではないかと言われている歌物語集だ」

清隆が気が進まない表情で淡々と続ける。

清和せいわ天皇の妻、二条后こと藤原高子ふじわらのこうし

彼女と在原業平の子どもではないかと言われている幼少で即位した陽成ようぜい天皇は幼い頃から殺生に異常な執着をを持っていたと伝えられています。

しかし、これは当時摂政であった伯父の藤原基経ふじわらのもとつねが言いふらしていて流布したとも言われています。

基経は高子と同母兄妹でしたが王生家とは違って超仲が悪かったようで…」

ウチも四人揃えば口が挟めないくらい誰かと誰かが言い争っているよ。しかもアルコールが入ったら大惨事…。

「基経は自分の推しである光孝こうこう天皇を即位させたかったらしく、陽成天皇の所業については残念ながら事実のように史実が語られています」

どの時代でもあるある嫌がらせね…とんじん、間違いなく三毒。

「ここからが運命の血筋の起源となるようです」

“恨”が生まれたのはこの時点か。

母方の旧姓が「在原」。

在原業平か陽成ようぜい天皇のどちらかが大自在天に意識を支配され“恨”を世に運びだしたのか?

怨恨、宿恨、憎恨…最後には自分自身に降りかかる。何故?

平安時代から現在までか…。莫大な“恨”が何処かに溜まっているのは間違いない。

嫌な予感がする。

「在原の母親の所在は調べたのか?」

「病弱で小笠原諸島のとある島でずっと療養をしていたようです」

それで完璧なアリバイがあったのか。

小笠原諸島…あの島?まさか三世がいた島か?

「ようです?」

「現在は行方不明です」

「どういうことだ?」

「いつの間にか姿が見えなくなったと…。島から出た形跡はなく、現在未解決の失踪事件として扱われています」

母親は失踪か…。

「僕は見つけましたけどね」

清隆が意外なことを口にする。

「生霊ですよ。久々に病院で見ました」

「間違いないのか」

「306号室…その在原さんの病室を出たり入ったりしてました。そうそうキスもしてました」

「ブッ!」

剣がコーヒーを吹き出す。

「相思相愛の仲なんでしょうね…ベッドの上でですよ」

剣は冷静に黙考していた。

まさか在原と母親の関係は大自在天と妻の烏摩妃?母親の中に烏摩妃の意識が存在していた?

上辺は親子。中身…意識は夫婦。

だとしたら父親は邪魔な存在だったということか!?

現在で周りで見かける式神。

もし在原が陰陽術を継承し習得していたとしたら殺害したのは…彼?

しかし何故?理由がわからない。母親かその内にいる烏摩妃の身に余程の事が起こったのか?

そこで新たに莫大な“恨”が生まれたとしたら…。

彼女が生霊となっているのも説明がつく。

じゃあ母親の体はどこにあるんだ?失踪…何処かに隠れているということか。

「しかし、藤原家の血を引いているなら安倍晴明派では?」

「私の本家の家系図には名前がありませんでした。ご存知だと思いますが在原 業平は朝廷を追い出されてますからね今で言う降格人事?僕も気を付けないと」

「わざわざ京都まですまなかったな。で、こっちにはいつ帰って来る?」

──剣さんの切り返し。何かすごーく嫌な予感がする。帰るのもう少し先にしようかな…。有給もまだあるし…。

「いやぁ実家に帰省したの久々なんで寺社巡り、ラストは琵琶湖でクルーズでもしてこようかと」

「独りでか?」

「余計なお世話です」

「すまん。清隆、帰ってきたら一つ頼みがあるんだが…」

うわっ。やっぱそうきたか…。

思わず仰け反る。あぁぁ初夏の青楓が美しい…。

「何か僕が一番使われてませんか?」

「清隆にしか頼めない仕事なんだよ」

「仕事ですか?」

「詳しい事は後で連絡する。コーヒーが冷めてしまう」

「……」

この人は…。

「冗談だよ。淹れたてのコーヒーが冷める前に目が覚めたよ。気をつけて帰って来いよ」

「ありがとうございます」

「お土産は琵琶湖のえび煎餅でいいぞ」

この人は…。

清隆が通話を切る。

「美味しかった…」

剣のコーヒーカツプは空になっていた。

「茶渋…どうやってとるんだっけ?」



九条家は現在平安神宮を任されている摂家一族という設定です。


読んでいただきありがとうございます。

自分でも頭の中でごちゃごちゃしてるので、

最近相関図でも書ければと思ってきました。

とりあえず登場人物紹介に少しずつ追記していこうかと…。

今回少し刑事ドラマを意識して書いてみました。

科捜研大好きです。



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