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春の章 色即是空 7

 三世は煌徳の力を借りて自分(降三世明王)が人間の三世の意識を支配し

体を借りる以前の記憶を探っていた。


登場人物紹介


王生 三世さんぜ

降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。

実は143年前、平安時代にも下界に姿を現している。

10年前、とある島で三世の意識を支配してからは王生家で生活している。職業は獣医師。



王生 煌徳あきのり

剣と愛の実子。現在に目覚めた大威徳明王。現在酪農大学の学生で三世の跡を継ごうと獣医師を目指している。愛くるしい顔をしているが怒ると家族の中では一番怖い。

優れた視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚、霊感を持ち合わせている。



増長ますなが

10年前三世がお世話になっていた動物病院の院長。



各務かがみ 恵光しげみつ

M.C.H.の館長。剣とは公私共に面識あり。



佐伯さえき 千世せんぜ

降三世明王が143年前に体を借りていた人物。

優れた能力を持つ陰陽師。

今もなお降三世明王の意識に影響を与えているようだ。



藤原 后恵きみえ

さくらと同じM.C.H.の学芸員。以前は奈良国立博物館に勤務。

霊感が強い。



在原 朝臣ともおみ

さくらの職場の上司。さくらの大学の先輩でもある。実はさくらに想いを寄せている。

悲運なのか不運なのか運命なのか、彼の血筋には代々運ばされている「恨」があった。

その「恨」を糧に大自在天が意識を支配し始める。



「ただいま」

「三世、おかえり」

時刻はお昼を過ぎていた。

バイト前の煌徳だけがまだ自宅にいた。

「お疲れ様。今日はM.C.H.でボランティアやってたんだって?」

「何で知ってんだよ」

三世が喉元に人差し指を入れてネクタイを緩め一気に引く抜く。

「あー苦しかった」

「恵おじさんから今日来てたって連絡あった」

「筒抜けかよ」

三世がダイニングテーブルに結んだままのネクタイと白いビニール袋を無造作に置く。

「煌徳、昼食べた?」

「まだだけど」

「おにぎり買って来たんだけど、食べるか?」

「食べる、食べる」

白いビニール袋の中身はおにぎりだった。

「俺のは葉わさびと焼き鯖生姜だから」

「了解」

煌徳は袋を開けて早速おにぎりをチエック。

流石三世。僕が好きなの買ってきてくれてる。

「たぬきにぎりとおかかいぶりがっこ頂きます」

「どうぞ」

三世がパントリーからインスタントの豚汁を二個出してくる。

煌徳が電気ケトルに水を入れ沸かす。

阿吽の呼吸。

「色覚異常の女の子をエスコートしたんだって?どうやって?六識持ってる僕だって色を伝えるのって難しいよ」

いつの間にか恵光えこうに監視されていたんだ。

剣さんか…。

まぁ隠すようなことでもないしな。

「色は目の網膜にある視細胞で電気信号に変換されてそれが視神経を通って脳にインプットされて初めて色を認識できる。先天性の色覚異常の場合その細胞に異常があると言われてる。だから直接脳にインプットしただけ」

「???」

煌徳は長い説明をサラッと聞き流す。

「三世って本当は医者志望だったの?」

「何で?」

「随分医学に詳しいからさ」

普通に勉強したレベルじゃないよね…。どこかの時代で医師として現れたことあったっけ?

一番最近は143年前で寺の居候の陰陽師。

僕の知る限り、そこから今日までこの世界に降三世明王は現れていないはずなんだけど。

でも…話の内容からしてつい最近医者として現れたっぽいんだけどな…。

「過去の三世の記憶がないからわからない。気が付いたら獣医師だった」

「そうなんだ」

ん!?

チョット待って!直接脳に伝えたってことは見えないものを見えるようにしたんだよね。

それってさ…女の子の運命を一時いっとき変えてしまったってことだよね。

そんなことしていいのかな…。

三世が目力で煌徳を威圧する。

「わかってるって。言いません。特別な能力使ったなんて誰にも言いません」

ケトルの水が沸き煌徳が豚汁にお湯を注ぐ。

三世が箸を二膳用意する。

「絶対喋んなよ」

「じゃあ今度お店の新作のチーズケーキ買って」

「何でそうなる…」

「僕の最後の作品なんだけどな…ほら試験に集中するからもうバイト辞めるし」

何でお願いする時は子猫のような目で見るんだよ。

「わかったよ」

「ありがとう、三世」

「口止め料かよ」

「そんなことないよ」

「煌徳」

「何?」

「七味」

煌徳が冷蔵庫に取りに行く。

「ついでに氷2個入れて水持ってきて」

何か急に人使い荒くなってない?


煌徳が戻って来て三世の向かい側のダイニングチェアに座る。

「まだおにぎり温かいね」

「店、すぐそこだからな」

「いただきます」

「いただきます」

二人手を合わせてから頂く。

歯ごたえのあるいぶりがっこのパリパリ音。

「煌徳、内覧会の時、何か気が付いたことあったか?」

「あー三世が生霊に飲み込まれそうになったとか?」

「見えてたのかよ」

「知ってるでしょ?僕が霊感強いこと」

「やっぱ退散させたのお前か。その他に」

何だよ…自分だって炎で焼き尽くそうとしたくせに。

そう言えばその時 真言を唱えてた三世の姿が一瞬千世に見えたような…。

まぁ、いっか。気のせいだよ。気のせい。

「あの藤原さんって人から怪しい匂いがプンプンした」

「匂い?」

「何か獣っぽいような」

「ペットでも飼ってんだろ。パグとかフレンチブルドッグとか…体臭きついいし」

「言われてみればそうだけど、それとも違う気がするんだよなぁ…」

「その他に」

三世の機嫌悪くない?なーんか言葉に棘があるんだけど。

「えーっと…うーんっと…」

何か…何か…何かなかったっけ?

烏丸さくらさんが僕を見て一歩引いてたような気はするけど…。

ダメだ。そんな事いったら余計三世の機嫌が悪くなりそう。

「大自在天像の周りに張られていた結界には気が付いていたか?」

「結界?ごめんそこまでは…」

やはり陰陽師の千世の力を借りないとないとわからないのか…。

「そうだ。僕、明後日大学に戻るから」

「講義がないならここから通えばいいのに」

「牛が心配なの」

乳牛百頭もいるんだから。しかも未だに耳標と名前が覚えられない後輩…そっちも心配だ。

「俺の心配は?」

「姉さんの庭当番頑張って」

ガッツポーズで応援。

三世の目つきは怖いが本心は違った。

「煌徳、この前宿命通で何か見ようとしただろ?」

ど、ど、どうしよう…。やっぱり気付かれてたんだ。

ガッツポーズは余計だったかなぁ…。

煌徳は豚汁の具を箸で探しながら上手い返事を考えていた。

「あ…ほら、三世色々人生経験してそうだからその…三世の過去をちょこっと覗き見…」

三世は水を一気飲みして勢いよくグラスをテーブルに置く。

中の2個の氷がぶつかり合いカランと音を立てる。

煌徳の体がビクッと反応する。

「見て欲しい…宿命通で…」

「えっ?」

まさかの展開に思わず口から豚肉の欠片がテーブルに落ちる。

煌徳が慌てて箸で摘まむ。

──1、2、3。

「俺が意識を支配する前の三世の記憶を知りたいんだ」

「急にどうして?」

「三世は10年前に在原、いや大自在天と会ってるんだ。しかも俺が三世の意識を支配する前にだ」

「え゛」

「三世はきっと何かを知ってる」

いつになく真剣な三世の表情を見た煌徳が速攻快諾する。

「わかった。じゃあ小指と薬指出して。その方が感度がいいから」

「足の指?」

「手」

二人はダイニングテーブルの上でお互いの指を合わせる。

「煌徳…見つめ合うのって凄く嫌なんだけど」

マジでその子猫みたい大きい目が可愛すぎて変に意識しちゃうんだよ。

「目、閉じていい?」

「いいよ。僕も見つめられるのチョット嫌かも…」

三世に血紅色の目で見られたらマジ怖いんだよ。

「最初から言えよ」

「黙って」

煌徳の指先から光明が放たれる。

「右手の方から10年前の三世の記憶を探って左手から伝達するよ」

「わかった」

三世が目を閉じる。


間もなく三世の脳裏に10年前の風景が浮かぶ。

「三世、どう?伝わってる?」

「あぁ」

噴煙を上げている山。

俺が暫くお世話になっていた島にある小さな動物病院の窓から毎日見ていた風景だ。

ここは火山島。間違いない。三世と出会った島だ。

病院の周りにはいっぱい植物が自生していた。

懐かしいな…当時は青い小さな蝶、オガサワラシジミが来ていたな…。

お世話になっていた院長の増長ますながさんだ。

大好きなビール豆がいつも机上に置いてある。

「三世君。ここ最近火口付近が変色している。高濃度の火山ガスが噴出しているんだろう。山には近づくなよ」

「わかりました」


──直ぐに場面が変わった。

今日は港に大きな船が寄港しているんだ。

旅客船ではないようだが…。

何かあったのか?港にいっぱい人が集まっているぞ。

三世も加わって何やら話し合っているようだが…。

三世だけスクーバダイビングの装備をしてる。

海に飛び込もうとしてるのか?

大勢の人が三世を引き留めている。

痛いだろ!腕がちぎれるだろうが!

振り切って迷わず海に飛び込んだぞ!

スゲー。どんどん潜降してる。

人間って水深何メートルまで潜れるんだっけ?

そんな事考えてる余裕なんてないぞ。

あっ!何かが見えてきた。

あれは人間?おぼれたのか?気を失ってるようだ。どんどん海底に沈んでいく。

追いついた!もう少しで手が届くぞ!

よし!抱えた。

時間はまだあるが気を失った状態だと救助者の命の危険が…。

一か八かだ。浮上する。

三世はウエイトを捨てレギュレーターを救助者の口に当てる。

よかった…。僅かだが呼吸をしてる。

水深5メートル。あと少しで地上だ。

どうする…どうする…。

減圧症の確率が高くなる。とどまるべきか、このまま浮上すべきか…。

何だ!?

流れが強くなったぞ。ヤバい、沖に流されてる…。離岸流か?

落ち着け。

ちゃんと息を吸って吐いて。力を抜いて…とにかく浮いていないと。

引き留められていたのは今日は離岸流の発生条件が揃っていたからか…。

三世が無謀だったんだ。

浮くのがやっとだ…。やばい!三世の呼吸が………。

「これに掴まれ!!!」

目の前に救助に来た地元の漁船から救命浮輪が投げ込まれる。

やった!助かった…。

体力の限界だ。掴まるのがやっとだ…。

「せーのっ!1.2.3.!」

体が船に引き揚げられてる。

三世、甲板の上に倒れてる…。

救助した人は?

すぐ横にいる。

水を吐いた。生きてる。よかった…。

──こいつ…在原?

三世は?生きてるのか?

真っ暗だ。

目を閉じたんだ……。

この瞬間だ。

息を引き取る寸前で俺が三世の意識を支配したんだ。




在原と三世が繋がった。

10年前、三世はあの島で在原を助けていたんだ。

恐らく大学の研修船であの島に来ていた時だろう。

しかし肝心の奴の目的がわからなかった。

さくらは文献調査のためとか言ってたよな…。

恐らくそれは嘘だろうけど。

海に沈みゆく体…自ら?事故?

在原を助ける前の三世の記憶が知りたい。

もう少し遡らないと。

一体あの島で何があったんだ?


「ごめん、三世。今日はここまで」

煌徳が手を離す。

「僕、これからバイトなんだ。三世は?」

「あぁ夕方に一件往診があるだけ…」

「大丈夫?」

「何が?」

「何かめっちゃ動揺してる」

「気のせいだ」

何強がってるんんだか…。

最近の三世ってちょっと感情の起伏があるような気がするんだよね。

「ごちそうさまでした。もう時間だから行くね」

「あぁ」

「行ってきます」

「煌徳…3秒ルールに医学的根拠はないからな。落ちた瞬間にバクテリアは付くから」

「もう…」

でも、僕は今の三世の方が好きかも。



三世のスマホの通知音。

「さくらからだ」

位置情報?

自宅マンション?


読んでいただきありがとうございます。

今回は10年前、降三世明王が三世の意識を支配する前のエピソードを書きました。

助けてたんですね…。


オガサワラシジミ…現在絶滅危惧種ⅠA類

北海道あるある

豚汁…ぶた?トン?北海道はぶたじる。

おにぎり…北海道のとあるお米屋さんのおにぎりです。札幌にお店があります。美味しいんです。私は葉わさびが大好きです。

手土産に買ったりします。


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