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春の章 乾坤一擲 8

 さくらは偶然で済まされない三世との出会いに心を許し始める。

三世はさくらとの話の中で現在意識を支配している体が在原と接触していたことを知る。


登場人物紹介


王生 三世さんぜ

降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。

実は143年前、平安時代にも下界に姿を現している。

10年前、三世の意識を支配してからは王生家で生活している。職業は獣医師。



クリスさん

王生家で飼っているアイヌ犬。

ベアドック。セラピードック。


烏丸からすま さくら

MUSEUM OF CONTEMPORARY ART HOKKAIDO(通称M.C.H.)の学芸員。気分転換に訪れた山中で怪我をして三世に救われる。


金兜かなと

タクシーの運転手


王生 剣  

王生家の中心人物。現在に目覚めた不動明王。普段は天然で抜けているふりをしているが、先見の明を持っており何事も卒なくこなす正に聖人君子。

職業は仏像学芸員。




「クリスさん、ストップ!ストップ!」

わかってくれるかな?

クリスさんが徐々にスピードを緩めピタッと止まる。

()()は気が付くと一丁隣の公園に来ていた。

クリスさんが園道の芝生にあるベンチの前で伏せの姿勢になる。

「ここに座って…てことかな?」

さくらは少し戸惑いながらゆっくりとベンチに座る。

「触ってもいい?」

クリスさんの背中を優しく撫でる。

「私の手、冷たくないかな…」

クリスさんは心地良さそうに目を細める。

「少しは信頼してもらえてるのかな?」

思わずさくらの顔がほころぶ。

でも、何でクリスさんがいるの?ここはH地区の自宅から結構離れているけど…。

まさか家出?なわけないよね…。

「熱っ」

さくらの頬に温かいペットボトルがピタッと触れる。

「まだ夜は冷えるな。車の温度計はギリ10度だった」

さくらがドキドキしながら振り返る。

「さ、三世さん?」

「はい、これ。手、温めろよ」

手に持っていた温かいペットボトルのミルクティーをさくらに渡す。

これって偶然……かな?

「あ、ありがとうございます」

もう片方の手に持っていたのはホットのブラックコーヒー。

三世さん、コーヒーはブラックなんだ。

「ミルクティーでよかった?女性って何飲むかわからなくて」

断りなしにさくらの隣りにスッと座る。

「ミルクティー大好きです」

いつの間にか好みまでバレてる?まさかね…これも偶然、偶然。そう思うことにしよう。

三世がキャップを開けて一口飲む。

「ふぅ…」

さくらは何故か自然と三世に目が行く。

と、隣に座ってる?

傍から見ると()()は若い夫婦とそのペットという一枚の写真に収まっているようだった。

さくらはまだ手にペットボトルを持ったままだった。

だいぶ手が温まった。何かほっとする。別にいいじゃない。隣に座ったって…距離が近くたって…。

幸せそうなさくらの笑顔。

三世はその横顔を見て安心した。

「ところで三世さんたちはどうしてここに?」

「オカメインコの往診の帰り。飼っているお宅が丁度M.C.H.の近くなんだよ」

「なるほど。そうだったんですね」

「クリスさん、さくらを見かけて急に走りだしちゃって」

※嘘です

「覚えててくれたんだね」

クリスさんがすり寄って来てクンクンと甲高い声で甘えてくる。

さくらは背中から首元を目一杯撫でまくる。 

「へぇー慣れてるじゃん」

「父が大の犬好きだったので小さい頃飼ってたんです」

「そうなんだ」

──過去形?そういえば和室に小さな仏壇があったような…。

「クリスさんと同じ北海道犬でリュウって名前でした。顔もちょっと似てるかも」

さくらがクリスさんをまじまじと見る。

クリスさんは少し照れくさそうに俯く。

「えっ?何?私何かおかしいこと言った?」

「いいや。別に。照れてるんだよ」

さくらがくりすさんに顔をすりすりする。

「懐かしい…」

クリスさん硬直状態。

三世は羨ましそうにいつまでも二人の様子を黙って見ていた。

「そういえば三世さん。私に嘘つきましたよね」

「えっ?俺が嘘つくわけないだろ。嘘つく理由もないし」

「初めて会った時、絵には興味ないって言ってたのに今日は絵が好きって言ってたじゃないですか」

──千世のことか…。

「そ、それは、描きたい気分の時もあるし、そうじゃない時もあるってことだよ」

三世、喉を鳴らしてコーヒーを飲む。

「でもボランティア引き受けてくれたことは感謝してます。先生、凄く喜んでたみたいだし。ありがとうございます」

もう一回喉を鳴らしてコーヒーを飲む。

「今更ですけど、三世さんって女性と話すの超苦手ですよね」

思わず吹き出す。

「よく彼女できましたよね」

右手で口の回りをサッと拭く。

「その…言ってたじゃないですか色覚異常の…以前…付き合ってた…」

「すげー昔のことだよ。しかも彼女じゃないし」

俺一言も彼女って言ってないけど。どこでどう変換されたんだ?

「三世さんの昔っていつですか?幼稚園?小学生?中学生?高校生?大学生?」

さくらの質問攻めに三世がおののく。

「俺のことより、さくらはどうなんだよ。その…在原っていう奴、じゃない上司と二人で親しそうに何話してたんだよ」

「仕事が終わって普通に立話しをしてただけですよ」

この状況だと「二人で赤い月を見て感動してました」、「タクシーで一緒に帰るところでした」とは言えない…。

やばっ心の中読まれる。

三世の冷ややかな視線が突き刺さる。

──時すでに遅し…かな?

「その…たまたま主査とは自宅が同じ方向みたいで、ほら、私足を捻挫してるし、主査も目をケガしているのでタクシーで一緒に通勤しているんです」

言い訳じゃない。本当のことです。

「ここまで走って来れたんだ。足はもう大丈夫。明日からは一人で通勤できると思うよ」

三世の態度は案外普通だった。

「そうですね」

三世がコーヒーを一気に飲む。多少は気に障っているようだ。

さくらもようやくミルクティーをちょびちょび飲み始める。

「さくらって猫舌なの?冷めるの待ってただろ?」

「へっ!?」

「どっから声出してるんだよ」

さくらがミルクティーをすする。

「普通に飲めよ。熱くないから」

「普通にって言われても…」

「舌の先には温点。つまり熱さを感じる神経が集中してるんだ。だからすするんじゃなくて、普通に飲むんだよ」

さくらがよくわからないまま普通に飲む。

「だ、大丈夫みたいです」

三世が声をあげて笑う。

──三世さん。医学にも興味があるのかな?色覚異常や猫舌の原因とかやたらと詳しいよね…。お姉さんの影響だけじゃなさそう。元々獣医師じゃなくて医師を志望してたとか?

「笑いすぎです」

「ごめんごめん」

私だけに向けられている三世さんの笑顔…。

会話しているだけなのに思い出深い気がする。

彼の前では素直になっていいのかな?

話してもいいのかな?

「主査は…在原主査は大学の頃から憧れていた存在なんです」

さくらは心を許したのか在原との出会いのきっかけを話し出す。

「スタイルいいしイケメンだし?みたいな?今は目がな…ぃ…ケガしているけど」

「それもありますけど、とにかく探求心がすごくて、その行動力に感服するというか、私もそうなりたいみたいな」

「大学の先輩後輩なんだ」

二人はそういう縁だったのか。

「大学時代の先輩の武勇伝なんですけど、海洋学科じゃないのにどうしても文献調査したいことがあったらしくて研修船にこっそり乗って小笠原諸島の小さな島まで調査に行ったそうです」

大学時代?さくらの先輩だから10年くらい前の話か…小笠原諸島?小さな島?

「さくらはどこの大学行ってたんだ?」

「東京のT大学です」

地元の大学じゃないのか…。東京のT大学か。

10年前から現在までの奴の行動が少し分かってきたかも…。

小笠原諸島の小さな島…もしかして10年前に俺が三世と会った場所か?

三世は以前に奴と会っていた可能性がある。だとしたらさっき記憶が混同したことも理解できる。

それにしても奴は何を調べていたんだ?確か143年前のあの島は東京府の管轄。現在あそこは高濃度の有毒ガスが出て国の管轄になっているはずだが…。

さくらがミルクティー飲み終える。

「ごちそうさまでした」

「飲むの早っ」

「三世さんのアドバイスのおかげです」

「どういたしまして。空のペットボトル、一緒に捨てるから」

「すいません」

さくらが三世に手渡す。

三世はペットボトルを受け取った手を慌てて後ろに隠す。

さくらには気づかれていないようだが、三世の右手には薄っすらと星の痣が出ていた。

「家まで送ろうか?」

「一人で大丈夫です。すぐ近くなんで」

「そっか」

三世が心配そうにさくらを見る。

「変な事聞くけど最近つけられているとか、家の中覗かれてるとか感じたことないか?」

「無いですけど…。どうしてですか?」

アナタにはしょっちゅう心の中を覗かれてると思うんですけど。

「いや、別に」

常に奴の眼中にあるわけではなさそうだな。

「じゃあ気を付けて。そうだ、今度ちゃんとカフェでお茶しないか?」

「お茶?何か言い方が古臭いですよ(笑)じゃあ美味しいミルクティーが飲めるお店 探しておいて下さい。チーズケーキもセットで食べたいです」

「わかった」

「金曜日にM.C.H.でお待ちしてます」

「おう」

三世が笑顔で見送る。



さくらが少し歩き出したところで毛色が白、茶色、黒の三色の猫がヒョイと茂みから出てきた。

何故かさくらの後をつけるように歩きだす。

「気が強そうな三毛猫だ」

三世が手にしているペットボトルを猫目掛けて投げる。

「オン・ソンバ・ニソンバ・ウン・バサラ・ウン・パッタ」

猫に当たると一瞬で消滅した。

「っとに。一体誰の式神かいねこだよ」

クリスさんがペットボトルを拾ってくる。

「サンクス、クリスさん。ごめん、そのままちょっと持ってて」 

クリスさんは咥えたまま暫し待つ。

スマホでT大学を検索する。

うわっ色々な学部がある。

経営学部、医学部、文学部、海洋学部…。やっぱり研修船はあの島にも寄港するルートだ。

「顎が痛いんですけど…」

「ごめん、ごめん」

三世がペットボトルを受け取る。

「さっ帰ろうか。腹減った…」



さくらは顔を赤らめながら歩いていた。ミルクティーで体が温まったわけではない。

今、さくらはその理由を考えている。

三世さんはもしかして私の事?

まさか私も?三世さんの事を……。

いやいやいや、それは無い絶対無い…とは言い切れないかも…。



二人は気づいていなかった。

いつの間にかお互いを名前で呼び合っていることに…。



その頃の王生家。

「やっと終わった…。わっ!もうこんな時間じゃないか。ヤバい、昼を食べた記憶がない……」

剣が机のパソコンからようやく目を離し大きな欠伸をする。

「真っ暗だな。仕事に夢中でカーテン閉めるのも忘れていたよ」

カーテンを閉めに窓際に向かい、カーテンタッセルを外す。

「今日は皆既月食か…ん?」

-... . -.-. .- .-. . ..-. ..- .-..

剣が見たのは赤い満月と夜空にキラキラ光る星たち。

金兜かなとの信号か?英語だな…」

──Be careful?要注意?

頼む。今度からもっと簡単なのにしてくれ…。

「あっ!思い出した。明日仕事でタクシー使うんだった。金兜かなとに早く予約の電話しないと」





-... . -.-. .- .-. . ..-. ..- .-..

はモールス信号の光Ver.です。


読んでいただきありがとうございます。

北海道犬のリュウ。記憶はありませんが私が小さい時に飼っていました。(写真は残っています)

闘犬でした。(相手は羆です)

今では考えられませんが…。


今年もあとわずか。とにかく寝たい…。


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