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春の章 磑風春雨 1

磑風春雨(がいふうしょうう)     物事の起こる前触れ


大耶は汰門に物事の起こる前触れのヒントをもらおうとしていた。

なぜなら、剣が大事なことをいつも自分に話してくれないからだ。

そして気になる二人の過去……。



登場人物紹介


北方きたかた 汰門たもん

現在に目覚めた多聞天。大耶とは旧知の仲。

どの時代にいてもあらゆる角度から時代の流れを予言する能力を持っている。

海上自衛隊に所属している。


王生いくるみ 大耶だいや

現在に目覚めた金剛夜叉明王。職業は刑事。職業柄常に沈着冷静。無表情。趣味は料理。

王生家の子だが、剣とは血が繋がっていない。


吉祥きっしょう




大耶と汰門は買い物を終えて、いつものワイナリーで遅いランチをとっていた。

畑から仕込みまで地元の葡萄で造ったワインと道産牛のハンバーグが美味しいお店だ。

「大耶、マジ助かったわ。久々の買い出しだからさ結構量あったんだよね」

「別にいいよ。ちゃんとスペシャルご馳走になりますから」

二人のテーブルにはステーキ皿に盛られた熱々のハンバーグと赤ワイン。大耶はドライバーなので烏龍茶。

「ワインいただきます」

「どうぞ」

汰門がグラスを回して飲む。

「やっぱピノノワールは最高」

「お前ワインを語れるの?」

大耶は烏龍茶を普通に飲む。

待ちきれずに汰門がナイフとフォークでハンバーグを食す。

「無視すんなよ」

「うわぁーやっぱ最高だね。肉の旨味を感じるわ…」

大耶も目の前のハンバーグをいただく。

「美味い」

二人ともご満悦の様子。

「汰門、ごめん。いつものお土産なんだけど、プラス1枚追加してもらえるかな」

「はいはいピザね。もしかして宝さんの分?」

「丁度帰って来て家にいる」

「じゃあ一枚追加で頼んでおくよ。マルゲリータでいい?」

「うん。サンキュ」

汰門が一気にワイングラスを空にする。

「で、俺の酔いが回る前に話したいことあるんじゃないの?」

大耶のナイフを持っている手がとまる。

恐る恐る汰門の顔を見ると、視線の先には瞬きせず自分を見ている真顔の汰門。

「わかる?」

「どれだけ長い付き合いだと思ってるんだよ。ほら、話せよ」

──既にお見通しか。なら、話は早い。

「実は…札幌のM.C.H.で開催される特別展のために剣さんが北海道に帰って来る。しかも一ヶ月位居るらしい。ご飯の用意を頼まれた」

「あーあの特別展?テレビのCM見たよ。国宝の仏像や曼荼羅図、吉祥天女画像も展示されるとか。俺も休みが取れれば行きたいと思ってたとこ」

汰門は熱々のハンバーグを一口大に切り、味わって食べる。

「まさか俺が送迎?」

「いや。自分のバイクで行くよ」

「だよな」

「何安堵してんだよ…。でも剣さんがそんなに長くこっちに居るということは、絶対怪しい。絶対何かある。だっていつも行方知れずじゃん」

「まぁ…な。数少ない専門分野の学芸員だから仕方ないよ。でも、一ヶ月も自宅こっちにいるなんて初めてじゃないかな」

「本人からご飯の用意以外に何か聞いていないのか?」

「剣さんが俺に真実を語るのはいつも最後だからな。話してくれないなら自分で手がかりをと思って。買い物ついでにお前の予言を聞きにきた」

汰門は大耶の複雑な心境を察した。

「それはお前が何でも見抜いてしまうから言う必要がないんじゃない。だから彼女もできない」

「汰門。一言多い」

「ごめん」

見抜ける能力云々ではなく、ちゃんと話して欲しい。血は繋がってなくとも永年一緒にいるのだから…。

現在の王生家五人は本当の家族だと思ってるのに…。

あっ、一人追加で六人。正月から会ってない母を入れるの忘れてた。クリスさんも入るから七人か?

母の再婚相手でもある剣さん。俺よりも三世の方が気になるのだろうか…。

大耶がおもむろに窓の外を見ると空は晴れているにも関わらず小粒の雨が降ってきた。

「天気雨……狐の嫁入りか」

やれやれ何ブルーになってんだか…。切ない表情で独り言かよ。

「要は俺の能力、見識を必要としているわけだ」

「図星をつかれた」

旧知の仲の大耶がこうやって俺を頼ってくれてるんだ。知り得る限りのことを話してやるか…。

また買い物付き合ってもらいたいし。

汰門が食事の手を止めて話し出す。

「近年夏は猛暑で大雨が襲ってくる。冬は冬で大寒波襲来で大雪」

「東風が強く吹く、ラニーニャ現象」

「そうそう、確かそんな名前。しかもここ最近この海で二つの潮流がぶつかって白波、うねりも激しい。悪天候で出漁が減ったって漁師さんが困ってたよ。しかも北海道なのに鮭じゃなくてブリが大漁だよ。やっぱ何かの予兆だ」

「海洋熱波。急激に海水温が上昇してるんだよ」

「さすが大耶、気象の話には食いついてくるねぇ」

良かった。いつもの大耶だ。落ち込んだままのテンションで帰宅させたら大変なことになるからな。とりあえず宝さんからの鬼電は免れた。

ほっと息をつく。

「お前も何安堵してるんだよ。ピザ追加したから大丈夫だって」

「そ、そうだな」

だから、見抜くなよ…。

「大学時代は気象予報士を目指してたんだけどね」

「確か雷が好きで大学では気象学を専攻してたんだっけ?」

「何故か刑事になりましたけど」

「やっぱり実父ちちの影響?」

「そういうんじゃないよ。刑事ドラマの影響だよ」

大耶が濁す。

「まぁお前は無愛想だからお天気お兄さんには向いてないと思う」

「職業柄だよ。ちゃんと喜怒哀楽はある」

「すまんすまん」

汰門が核心を突くことはないが、次々と天と地の間で起きている自然の異変が意味する手掛かりを大耶に与える。

「ミーティングで海流流路の変動に気を付けてしょう戒にあたるようにって言われた」

「日本海だと対馬海流。流れは弱いだろ?」

「女心のようにコロコロ変わるんだよ」

「あのな…例えるものがおかしい。結論から言うと黒潮の影響だよ。それと地球温暖化による海面上昇」

結局現実的な答えで片付けるのかよ。

まっ、そのうち自然界の事象を目の当たりにしたら自ずとわかるだろう。

荒ぶる神の復活を…。

「じゃあ最後。最近頻発している小笠原諸島海底火山噴火」

「そういえば最近火山性地震が多発している」

「新しい島が出来ると何かと忙しくなるんでね」

「頑張れ」

「それだけかよ…。冷たい奴」

2人は笑みを交わし再びランチを楽しむ。

「それと、ここだけの話だ。小笠原諸島のある島に行った調査隊から聞いたんだが、小動物の死骸が洞窟の至る所にあったそうだ。しかも相当数」

「殺生?」

「そこまではわからない。でもその島は十年前に降三世明王が現れた場所だ」

「汰門、もう少し情報を仕入れておいてくれ」

「わかった」

今回は買い出しの付き合いとはいえタイミングが良かった。剣さんより早く予兆を知ることができた。

汰門には何かが起こる前に自分が見聞した数多くの情報から、将来を見抜く力がある。

それは吉か凶かどちらに転じるかはわからないが現実世界の安寧を保つために必要な情報だ。

残念なのは俗世間に公言できないということ。

今回の予見は、東風、ひとつの海に二つの海流がぶつかりあって何かが起こる。それと新たな生命の誕生…女心?関係あるかな?一応心に留めておこう。



窓に打ち付ける雨の音が大きくなってきた。小粒から大粒の本降りになってきたようだ。

「雨が強くなったきたな…。帰りの運転気を付けろよ」

「あぁ」

汰門が残りのハンバーグを切る。

あっ…一口分がデカすぎた。

そう思いつつ口に入れた時だった。

「汰門、いつもの報告忘れてないか?」

『お前タイミング見計らって話かけろよ』

頬張っている顔を指差してジェスチャーで訴えている。

「すまん」

咀嚼してから口の周りのソースを拭いて大耶に報告する。

灯火ともしび岩だけど、白くふっくりとした天女に見えていたはずなのに昨今頻発している地震や海風に浸食されてここ最近急激に褐色に変色してやせ細くなってきた気がする」

「崩落しそうなのか?祠は無事か?」

「まだ大丈夫」

「良かった…」

「ひょろっとした蛇が地面から這い出てきて空に嚙みつきそうだよ。しかも今は烏の群れが陣取ってて気味が悪い。これも絶対何かの前触れだと思う」

「でも蛇は臆病だから刺激しなければ大丈夫。ウチの庭ではアオダイショウ普通に見かけるし、烏だって夕方になると大群で近くの山に帰るぞ。いつもの光景だ」

待ってました現実的なご回答。

「お前ん家、山の麓にあるもんな」

「自然豊かな場所と言ってほしいな」

浸食、蛇、崩落か…そして烏?一見無関係のように思うのだが…。

「何百年に一度の天変地妖が既に始まっているんだよ」

汰門が一言で締める。

「なるほどね。直近だと1707年の富士山の宝永大噴火か…」

「やっぱ気象関係の仕事に就いた方がよかったんじゃないの?俺は794うぐいす平安京と1192つくろう鎌倉幕府くらいしか覚えてないぞ」

「それは日本史。因みに今は鎌倉幕府成立年は1185年だから」

さすが旧知の仲。二人の会話は妙に面白い。

「そろそろ有珠山も活動周期に差し掛かる。寺が心配だ」

「そうだな…」

汰門は空になったワイングラスを持ち、店員にオーダーの合図をする。

「汰門飲み過ぎるなよ。明日業務あるんだろ?」

「これが最後」

グラスにピノノワールが注がれる。

「どうも」

早速一口。

「汰門、ちゃんと忘れずに7月31日休みとれよ」

「ブリでも釣りに行く?PEライン巻きなおさないと」

「はっ!?酔ってるのか?」

「冗談、冗談。わかってるよ。ちゃんと休みの届出しておきますって。船長には洋上慰霊の件俺から言っておくから」

「そうしてくれると助かる」

「でも灯火ともしび岩には近寄れないぞ。危険だ」

大耶が雨で濡れた窓ガラスから海の方向を見つめる。

「あの噴火大津波から383年…」

「大耶、やっぱ感心するわ。お前数えてたの?未練たらたらじゃん」

「お前こそ忘れるなよ。彼女は、吉祥きっしょうは身を挺して犠牲になったんだ」

「忘れるわけないって。初恋の人だもん。あっ、お前もだっけ?恋のライバルだったもんな」

汰門の奴、完全に酔ってるな…。初恋の人じゃなくてお前の妻だろう…。

「ワイン買って帰ろうかな。汰門飲んでるの美味しそうだし、宝もワイン好きだから喜ぶと思うんで」

「随分と宝さんに気を遣ってるんだな。何かあるのか?ま、まさか恋心?」

「それは無い。お土産買って行かないとうるさいだけ」

「ふーん」

照れてる大耶の様子が汰門を誤解させる。

「ほら、早く食べようぜ。お前送ってまた札幌戻るんだから」

天変地妖か……。一体何が起こるんだろうか。

剣さんは恐らく十年前に降三世明王が現れ、あの島で三世と出会った時点で何かを察知していたのだろう。

まさか…また降三世明王がこの世で何か起こすのか?

143年前のように……。



PEライン……釣り糸


読んでいただきありがとうございました。

汰門と大耶、二人の会話をテンポよく繋げるの悩みました。

丁度子供が社会の授業で海流、プレート、環太平洋造山帯等々日本の地理を勉強していたのである程度は教科書を見て書けました。

王生家は

剣を中心に、大耶、宝、三世、煌徳の五人で構成(五大明王)。プラス1は剣の現在の奥さんで大耶の実母。さらにプラス1はクリスさんです。

剣は再婚ということになります。


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