表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/42

春の章 合縁奇縁 12

さくらが山の中で出逢ったものとは?

野生動物?それとも……?

午前9時30分

さくらはようやく滝の入口に到着した。

滝つぼへ落ちる激しい水の音が足元の方から聞こえてくる。

「凄い音。迫力あってちょっと怖いな…」

木々の隙間からは階段状の岩場を勢いよく流れ出る白い水流が見える。

「滝だ!」

さくらは滝を間近で見れるスポットまで苔が自生して滑りやすくなっている階段を慎重に降りていく。

「春は水が多いなぁ。下までは無理か…。ここでも十分水しぶきを浴びれそうだし」

落差10m程だが、山の雪解け水で水量が増した滝から水しぶきが勢いよく空気中に降り注ぐ。

さくらは半分ほど階段を降りたところで、霧状なった白い水しぶきをいっぱい浴びる。

「気持ちいい…癒される…」

何度も深呼吸をしてマイナスイオンをいっぱい吸収する。

「少し頭が軽くなった気がする。早速効果あったのかな?次は森林浴でリラックス」

軽やかに階段を昇り入口に戻る。

入口の駐車場にはRV車が2台と軽自動車1台そして白いハイエース1台が駐まっていた。

駐車場を通り抜けると「登山道入り口」と書かれた古びた木の案内板が立っていた。

——パンパンパンパン

突然、山の方から銃声が聞こえてきた。

「熊追いの空砲か…この季節の風物詩だね」

音が聞こえてきた山の方を眺め、ゆっくりと視線を空に向ける。

「雲一つない青空。天気もいいし最高!」

青空を眺めながら軽快な足取りで入山する。

『熊出没中!熊追い払いのため立ち入り禁止』

入口付近の木に立ち入り禁止の看板が立てかけてあったが、

さくらはその看板を見落としてそのまま真っすぐ登山道を進んでしまう。



眼下には登山道と並行して上流から滝へと川が流れている。

時折 背丈ほど成長した笹の間から覗く川を見ながらゆっくりとしたペースで歩き進む。

「これ行者ニンニクかな?どれどれ臭いを嗅いでみるか」

道端にある植物を間近でみようと屈んだところで足元がドロドロなのに気が付く。

地面に浸透した雪解け水と昨日の雨でぬかるんだ山道は情け容赦なく靴を泥まみれにしてくれる。

「あ~ぁ先週買ったばかりのトレッキングシューズが…」

ショックが大きすぎる。余計なストレスが…。

今ならまだ引き返せる。

いやいやいや、違う。こういう道を歩く為に買ったんだよ。もっと活躍してもらわないと。

「森林浴、森林浴、リラックス、リラックス」

目を瞑り、鼻からゆっくりと森の空気を吸い込む。

落ち着いて五感で自然を感じ取ろう。

——ヒィーヨヒィーヨ

樹上から鳴き声がする。

春風が誘う鳥のさえずりは心に直接語りかけてくれるような感じがする。

心身が自然とリラックスしていくのがわかる。

「この鳴き声はヒヨドリかな?M.C.H.の前庭にもいるけど、ちょっと声が低いような…」

——カポッ カポッカポッ カポッ

「えっ?何?変わった鳥の鳴き声。聞いたことないかも」

不思議…五感を研ぎ澄ますと色んな音が聞こえる。

自然のBGM。

川の音、鳥の声、風で新緑の葉がこすれあう音…。

しばらくこのままここにいたい。

——カサカサ

茂みの中から?風で葉がこすれ合う音ともチョット違うような…。

——カサカサカサカサ

「えっ!?何!?」

落ち着いて聞き耳を立てる。

キタキツネ?野犬?山菜採りの人?エゾモモンガなら可愛くて大歓迎なんだけど。

「まさか…熊?」

川下に立つと獣臭がするって聞いたけど、全然しない。

目を凝らして360度辺りを見回してみる。

辺りの風景は隙間もないほど新緑の葉と笹の葉で埋め尽くされている。

「!?」

さくらの視線がある一本の木にとまる。

登山道脇の木の幹に表面が削られた線がくっきりと入っていたのだ。

ちょっと待って…これってまさか熊の爪痕?

「やっぱり引き返そう」

慌てて振り返り来た道を駆け足で戻る。

しかし、ぬかるみで足がとられて思うようにスピードがでない。

落ち着け…落ち着け…落ち着け…。

無意味に言葉を繰り返しているだけで焦る心境は変わらなかった。

ヤバい、転んだら完全にアウトだ。ここは早歩きで行こう。

腕を大きく振って、歩幅は大きく。大きく。

息が上がってきた気がする。

私ってこんなに体力無かったっけ?いつも徒歩通勤だから少しは自信あったんだけど。

——パンパンパンパン

立て続けに空砲が放たれる。

「どうしよう…もしかして熊が近くにいるのかな?早く下りなきゃ…」

気持ちばかりが焦る。

次の瞬間。

「うわっ!」

ぬかるみに足をとられて大胆に転んでしまう。

見えるのは雲一つない青空。

「思いっきり転んじゃった……」

服と背負っていたディパックが泥まみれになってしまった。

咄嗟についた手も泥だらけ。

更には跳ねた泥が顔にも付いていた。

最悪…今日の牡羊座は1位でラッキーカラーは白だよね…。

——パンパンパンパン

空砲の音が段々と近づいてきた。

「とにかく立ち上がらないと…」

体を起こして立ち上がろうとした瞬間。

「痛っ!」

嘘?右足に力が入らない。

でも早くここから離れないと、熊に遭遇する可能性が…。

さくらは何度も立ち上がろうとするがその度に右足に激痛が走り断念してしまう。

こうなったら左足で踏ん張って、片足で立ち上がる!

「よいしょ」

両手でバランスをとりながら、ふらふらとその場に立つ。

とりあえず何か杖になるような枝…枝…。

目線だけを動かして辺りを探す。

——カサカサカサカサ

「ん?」

何処から?またさっきと同じ音がしたような気が…。

もし熊だったらどうしよう…。

よく聞くのは死んだふりだっけ?むしろ怖くて無理。そ、そうだ!唐辛子をぶちまける!唐辛子、唐辛子…。

あたふたしてディパックのファスナーがなかなか開けられない。

「どうして開かないの!?」

その時、走馬灯のように過去の思い出が蘇って来た。

小学校五年生の登山遠足で行者ニンニクを採って先生に怒られたっけ。手が臭くなってお弁当食べる時最悪だった。おにぎりだったし…。

中学一年生の時、マラソン大会のコースがこのサイクリングロードだった。転んでリタイアして結局ゴールできなかったんだよね。復路は一人だけ車に乗って恥ずかしかった…。

そして高校三年生の冬休み…。

父が交通事故で亡くなった。

ちょっと待って!私の頭の中どうなってるの??

意味わかんない!

混乱しているのも束の間。

顔はぼんやりとして見えないが、手首の真ん中に星がある大きな手がさくらの目の前にそっと差し出される。

この星、最近どこかで見たような気がするんだけど。

えーと……。何だっけ?

──あっ思い出した!

閻魔大王様の秘印。

確か特別展のパンフレットに載ってた。

もしかして…これって掴んだら終わり?

手は目の前から動かない。引く気配もない。

辛抱強くさくらの返事を待っているようだった。

──絶対、絶対掴まない!

まだ死ぬわけにはいかないんだから。

彼氏もつくりたいし、ゆくゆくは結婚をして、子供も欲しい。食べたいものだっていっぱいあるし、旅行も行きたい。それに特別展の仕事もあるし、とにかく人生まだまだやりたいこといっぱいあるの!

私は絶対そっちに行かないから!!

心な中で叫んだところでハッと正気を取り戻す。

——カサカサカサカサ

「とにかく逃げないと」

必死に逃げようと足を引きずりながら下山を試みるが

再びバランスを崩して転んでしまう。

「やっぱりもうダメ……お願い、神様助けて……」

歯がカチカチ鳴りやまない。

恐怖で体も震えていた。


読んでいただきありがとうございました。

北海道あるある今回も盛り込みました。

行者ニンニク。保存袋で冷凍しても庫内には臭いが…。実家には丁重にお断りしております。

エゾモモンガ。可愛いです。ぬいぐるみに癒されます。

少しずつですが

さくらと三世が近づいています。

次のエピソードでどこまで書けるか……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ