献血を断った
12月曇りの昼下がり、大通り沿いの歩道を歩くと、郵便局前にたむろする制服姿の十数名と教員と思しき三名。
学生の掲げる白看板には赤十字と赤色で描かれた水滴、「献血」の大文字で目的は明白だった。
課外授業の類なのか、大体の学生は切迫感の無いのんびりとした声出しで希望者を募る。
暇ではあったが善行に興味無し、それよりも寒風に頬耳を撫でられ続けて嫌気がさし、自然足早になって彼らの目の前を通り過ぎる。
「あの、すいません、お時間ありますか」
声出しで枯れたのか少し掠れた、しかし平生は柔らかみのあろう声で女学生がこちらに踏み込む。
狭い通路、向かいの壁と女学生に挟み込まれて、体を縮こまらせて行かないと止まらざるを得ない。
が、こちらも「すいません。」と相手よりも掠れた小さな声になって、相手の身体とこちらの肩がぶつかるのもお構いなく、そのまま罷り通った。
時間はある、有り余るほど。善意がないだけだ。
通り去る背中に視線を感じた。少し離れた所で振り返ると、先ほどの女学生がこちらに顔を向けたまま立ち尽くしていた。
そのまなこが、こちらを捉えて離さないかのようにしっかりと向いているのも見てとれて、それは寒風より痛かった。