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14話 家庭狂師

 「と、いう訳でミシェルお前の為に家庭教師を用意してある」

 「……家庭教師だと?」

 「カーミラ、出て来ていいぞ」


 ミシェルの腑に落ちない態度を余所にオレはカーミラを呼ぶ。


 「ったく、ようやく昔話は終わったか。あまり私を待たせるなよヒロムート」


 広間の奥の薄暗くなっている場所からコツコツとした足音が響く。

 暗がりから現れたのは肩や胸元の大きく開いたレースのトップスにスリットの入ったスカートを着飾った気品を感じさせる容姿を持った色白の長身女性が長く伸びた金色の髪をはためかせながらゆっくりとオレ達の方へと歩み寄ってきた。

 

 「それじゃミシェル、あらためて紹介するぞ。彼女がカーミラ」

 「ケケケ、それでこいつが例の魔王の所のガキか……中々可愛い気のある顔じゃねぇか」

 

 カーミラはミシェルに一歩近付き、背丈を合わせる様に腰を折り曲げながら赤く鋭い獣の様な瞳で値踏みし、特徴的なギザギザの歯をチラつかせながらケラケラと笑う。

 ほんとこいつ口を開かなければスタイルもよくて美人なんだけどなぁ……。


 「おい、ヒロムート何だこの頭のネジが外れてそうな女は」

 「ケケケ生意気なオスガキだねぇ?犯していいかい?」

 

 カーミラは首だけを捻って今度はオレの方へと視線を向けた。


 「おいおい流石に今はやめとけよ……どうせ一年は一緒なんだ。まぁそこでの問題はオレの関知しない所さ」

 「へぇーそうかい。そら良い事を聞いた」

 「おいちょっと待て!なんか勝手に話を進めるな。確かにオレは三年後に死にたくはねぇし、生き残る方法を教えて貰いたいとは思うよ」

 「だから?」


 ミシェルの言わんとする事は分かる。

 まぁそれを踏まえて敢えて挑発するように返答するんだけどね。


 「だからじゃねぇ、家庭教師だの一年この女と一緒だのちゃんと説明してくれよ」

 「ふん、人に答えを求め過ぎるなよ、説明はさっきの会話で全て済んだ」

 「そゆこと。ボウズを一年間バッコリボッコリ身も心も鍛えてやる……悪ぃが、拒否権はねぇぞ?」

 「んだよ……テメェら、いきなりそんな事言われて納得できると思ってんのか?それにこの女、一体俺を誰だと思ってる」

 「……毛の生えてないオスガキ」

 「カチーン……この女一発ブン殴る」


 まぁ流石にキレるか。

 半ギレのミシェルの一言の後、周りの空気がチリチリと燃えつくような雰囲気……いや、実際に小さな火花が飛んでいる空間へと変化する。

 

 「ほう、流石は魔王ゼニスのせがれ。その歳でそれだけの覇気があるとは……確かに見込みはある」

 「あん?何だオヤジを知ってんのか女」

 「まぁな――」


 カーミラはそこまで口を開いた後のほんの一瞬で流れる様にミシェルとの距離を詰め腰を低くしてしゃがみ込んだ。

 そして隙だらけのミシェルの腹部に対し強烈な肘打ちを浴びせた。

 肘打ちがモロにヒットし、ミシェルは何が起こったのか脳で理解する暇も与えられぬまま呻き声一つ出せずに卒倒した。


 「師匠に似て優しいじゃねぇの……ソイツを頼んだぜカーミラ」

 「ケケケ躾に言葉はいらねぇ、力で分からせるのが師匠のやり方なんでな。任せな、この私だぜ?一年でこのガキを一人前の魔術拳闘士(マギア・モンク)に育ててやるよ」

 「頼もしいな。武神ルリエラの一番弟子のお前がそう言うのなら」

 「ケケケケケ」 


 カーミラは気絶したミシェルを片手で拾い上げそのまま肩に担ぐ。

 彼女はオレに背を向けたまま空いていた方の手を振りながら広間の奥へと消えていった。


 さてオレもさっさと神殿に戻りますかねっと。

 そして一年間あの悪夢の情報を出来る限り調べる必要があるな。


 ……文字通りふかふかのベッドの中でね。

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