12.ドワーフからの返答とお裾分け
翌朝。ドランとドラゴンさんは朝日が出るよりも早くギルドを出発した。
ヴァネッサと話した内容の一部を記した手紙と、三種類の袋にそれぞれ対応する錬金飴を百個入れた袋が六袋。綺麗な形の錬金飴のみを集めたものと、訳あり飴を含めたものを各種一袋ずつ用意したのだ。
綺麗な形を集めた方の袋には、針金部分にリボンを挟んでおいた。
輸送時の割れ具合も確認してほしいから、輸送時にあまり気を使わないで欲しいとも昨日伝えた。
すると通常の配達状態に寄せるため、今回は魔鳥が背負う用のカゴに入れて運んでくれることになった。
ドラゴンさんの身体に長いロープがくくりつけてあり、そのロープにカゴが固定してあるのだ。
ドラゴンさんはロープの肌触りが気になるようだが「我ほどすぐに届けられる者はおらんからな!」と、その顔には使命感のようなものが宿っていた。
そんなドラゴンさんに触発されたのか、今日のたーちゃんはいつにも増してやる気である。
お昼寝はもちろん、飴作りの間にも休憩を挟むことなく、ご機嫌で踊り続ける。
夕方には乾燥棚も埋まり、乾いたものからせっせと包み始める。包み終わったらまた飴を作り、乾燥し終えたものを回収して包み。今度は瓶を作る。
途中で夕食を挟みながらも、ご飯が終わったらすぐにジゼルの頭は思考を再開する。
考えごとをしながらも、慣れた作業の手が遅くなることはない。むしろ販売を始めた当初よりも手慣れてきている。テキパキと作業を続けていると、たーちゃんの口から大きな欠伸が飛び出した。
「たーちゃんもぉねむくなってきちゃったぁ」
目からは眠気の涙が流れている。目を擦るたーちゃんの顔から時計に視線をズラす。
すでに夕食を食べ終わってからかなりの時間が経過していた。
普段ならまだまだたーちゃんも元気な時刻ではあるものの、今日は休憩を挟まずに作業してきた。少し前から限界を迎えていたのだろう。ぽてんと尻餅をつき、再び大きな欠伸をする。
「疲れてるの気づかなくてごめんね。今、たーちゃんのベッド整えるから」
「ドランとおじちゃんのことまたないと」
「今日はお迎えいらないって言ってたから大丈夫だよ」
本当は今日も配達ギルドまで向かうつもりだったのだ。
親父さんもそのつもりで、ヴァネッサを見送った後に追加の買い出しをしていた。
だが今回は宿屋で待っているように、と。どうしても帰りは暗くなってからになってしまうから心配なのだと。
昨日と今日の二回も言われてしまった。
しかも今朝の分はドラゴンさんにも「暗いのだから宿で待っているように」と釘を刺されている。
少しばかり心配しすぎな気もするが、待っていると思うと二人も帰りを焦ってしまうからだろうと素直に頷いた。その代わり、帰ってきたら顔を見せてくれることになっている。
だからたーちゃんも前回のように窓の外を気にすることはなく、一日中錬金釜に張り付いて頑張ってくれた。
ヘロヘロになる前に止めるべきだったのに……。
相棒として反省しなければ。
たーちゃんのベッドを整えてから、丸まりかけているたーちゃんを抱き上げる。
「今日は私一人で待つよ。たーちゃんは寝てて」
「でもぉ」
待っていたい気持ちは十分伝わってくる。
だがすでに瞼は閉じかけており、声からも眠気が伝わってくる。
「たーちゃん、今日もいっぱい頑張ってくれたよってちゃんと伝えておくから。ね?」
「……わかったぁ」
眠気のせいで重くなった頭を大きく縦に振り、そのままジゼルに身を預ける。
籠の中に寝かせ、布団をかける。すると徐々にたーちゃんの身体がまんまるい毛玉へと近づいていく。
「たーちゃん、お疲れ様」
赤子を寝付けるように軽くトントンと背中を叩く。
すぴーっと可愛らしい寝息が聞こえてくるまでそう時間はかからなかった。やはり相当疲れていたようだ。
「ジゼル、まだ起きてるか?」
ドランが帰ってきたのは、それからすぐのことだった。
遅い時間なことを気にしてノックはなく、薄くドアを開いてから小声で話しかけてくれる。
「起きてるよ。入って」
ドアを開け、中に招き入れる。椅子をドランに譲り、ジゼルはベッドに腰掛ける。
「遅くなって悪いな」
「ううん、遅くまでお疲れ様。それからお帰りなさい」
「たーちゃんは?」
「もう寝てる。いっぱいお手伝いしてくれて、疲れちゃったみたい。たーちゃんもドワーフの里行き、楽しみにしてるのかも」
「おやっさん達もジゼル達が来るの今からすごく楽しみにしてる。それから宿屋ギルドを間に挟む件、問題ないって。値段も通常の飴のみの価格で、訳アリ飴入りでいいってさ」
「訳あり飴入りなら安くするのに」
「どうせ溶かすから形は構わないんだと。それより今後も継続したやり取りがしたいから、ジゼルの取り分はしっかり取っておいて欲しいってさ。今から他の里のドワーフやエルフに自慢する気満々だから、少しでもジゼルのメリットを増やしたいんだろうな。それから袋も褒めてた」
「そっか。あ、ごめん。お茶、今から用意するね」
「今日はドワーフの里でもらった茶葉を使って、ミルクティーを作ってきたんだ」
ドランは手元のバスケットを軽く持ち上げる。中には大き目の水筒とカップが三つ。たーちゃん用に持ってきてくれたのだろう、小さめのカップを除いた二つにミルクティーを注いでくれる。
「ドワーフの里では紅茶も作ってるの?」
「いや、この茶葉はシマさんの酒に手をつけたドワーフの秘蔵コレクション。そんな状況だから先に錬金飴持ってきてくれてすごい助かったって。早速シマさんに浸けてもらうって持っていったよ」
酒を盗られたショックで寝床から出てこなくなったシマさんのため、ドワーフが自主的に捧げたのだという。
茶葉に詳しいドラン曰く、どれも超が付くほどの一級品ばかり。
それでもドワーフの里における酒の価値には及ばない。ましてや材料が足りず、生産が追い付いていない品となればなおのこと。
結果、茶葉を差し出すのに加え、今後買い出しと農作業を手伝うことでようやく許してもらったらしい。
盗み―ードワーフの里では特に酒を盗む行為は重罪なのだ。
その茶葉も紅茶酒になる予定らしいが、それでも個人で消費できる量は限られてくる。
だからドランにもお裾分けしてくれた、と。ドランはもらってきた茶葉のうち、一部を手元に残してあとは親父さんに渡してくれたそうだ。しばらくおやつタイムのお茶が高級品に変わるのだろう。
程よい温かさになったミルクティーで喉を潤しながら、追加の錬金飴も早めに送ろうと決心する。
「そうそう。ジゼル本人が里に来るなら、来る時に錬金釜と調合道具一式、それから色付きガラスを作るための材料を持ってきてくれって伝言を頼まれた。なんでも錬金釜を注文した陶器屋のおじいさんが調合の様子を見たいとかで」
「分かった。でもなんで色付きガラスなんだろう? 錬金飴の方がいいんじゃないかな? 作ったらそのまま渡せるし」
「俺もそう言ったんだが、ガラスがいいんだってさ。ああ、あとこの前の手紙に付け足されてた要望についても聞いてきたんだけど、ガーネットの希望を優先してくれって」
「何か事情があるのかな」
「前回行った時にはなかった酒樽が大量に置いてあったから、酒とのトレードで手を打ったんだと思う」
少し話しただけなのに、会話の中に何種類も酒が出てくる。酒をあまり飲むことがないジゼルにとって、ここまでお酒の話をしたのは初めてではないか。
頭の中に錬金飴とガラス玉と酒樽がぐるぐる回っていく。
それでも親子同士で話し合った結果なら問題ないだろうと結論づける。
「じゃあ青系の色をメインで作っちゃうね」
「ああ、よろしく頼む」
ドランはペコリと頭を下げる。
ミルクティーのおかわりをもらいながら、ジゼルは今後の生産スケジュールを組み立てていくのだった。
精霊編②はこれにて終了です。
次回はコミック一巻発売記念SSになります。
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