4.シマさん特製酒
同時にドランの分の食事に全く手がつけられていないことに気づいた。
「ドランもよかったらホットドッグ食べて。出てくる直前に焼いてくれたから、まだ温かいと思うんだ。今スープも入れるから待っててね」
「こいつの分は俺が用意するからジゼルは先に食べてていいぞ」
そう言いながらポットに手を伸ばすドラン。
彼の優しさは嬉しい。けれどジゼルはふるふると首を横に振った。
「ドランもドラゴンさんと一緒に長時間飛んで疲れているでしょ。それに親父さんがすぐに食べられるように、って出しやすく詰めてくれたんだ」
「そっか。今度親父さんにお礼言わないと」
「その時は、また食べたいと忘れずに伝えるのだぞ」
「お前、もう食い終わったのか」
「まだデザートが出ておらん!」
「俺もジゼルもまだまだ食べてるんだから少し待ってろ」
「たーちゃん、くっきーもってるよぉ〜」
たーちゃんは先ほどもらったばかりのクッキーをドラゴンさんとドランに渡す。
四枚あったクッキーが二枚になったところで、ジゼルの足元で両手を上げる。抱っこ待ちのポーズである。たーちゃんを抱き上げ、膝の上に載せる。
たーちゃんは嬉しそうにへへへ〜とジゼルの顔を見上げる。
そして両手に一枚ずつ持ったクッキーを見せてくれた。
「ジゼル、どっちがいい?」
「たーちゃんが好きな方選んでいいよ」
「ならはんぶんこする〜」
たーちゃんはクッキーをパキッと半分に割る。
大きさが微妙に違うクッキーを見比べると、大きい方をジゼルに差し出した。
「ジゼルどおぞ〜」
「たーちゃんが大きい方取っていいよ」
「でもジゼルははんぶんこするときいつもこうしてるよ? たーちゃんいつもうれしいからまねっこ」
「そっか。ありがとう」
ジゼルはただ、たーちゃんに大きい方をあげたくてそうしていただけなのだが、たーちゃんは嬉しい気持ちをジゼルにもあげたかったようだ。たーちゃんは優しい子である。
ジゼルはニコニコと笑うたーちゃんから大きなクッキーを受け取る。
たーちゃんの両手には小さめのクッキーが一枚ずつ。そこにドランが新たなクッキーを加えた。
「たーちゃん、俺のも半分やる」
「いいのぉ?」
「ああ。ところでこのクッキーどうしたんだ?」
「さっきもらったの。きょうはドランとおじちゃんのぶんもとくべつだって〜。ドラン、おいしい?」
「すごく美味い」
「今日中に帰ってきた甲斐があったというものだ」
「たーちゃん、お茶のおかわりいるか? ドワーフの里の牧場でもらったミルクもあるぞ」
「みるくにするぅ〜」
「ジゼルは?」
「私もせっかくだからミルクをもらおうかな」
「分かった。今温めるからちょっと待っててな」
ドランは荷物の中から持ち運び用コンロと小鍋、ミルクを取り出す。
コンロに火魔石をセットして、上にミルクを入れた鍋を置く。弱火でコトコトと温め始めた。
残りのご飯も食べ終え、温かいミルクと一緒にデザートを堪能する。
ほのぼのとした空気に包まれ、気持ちも落ち着いたところで、ドランが話を切り出した。
「そろそろ土産について話してもらうぞ」
「ああ、分かっておる。坊よ、瓶を我の前に持ってこい」
ドラゴンさんの指示を受け、ドランは荷物が入った箱の中から大きめの瓶を取り出す。
ちょうどジゼルが錬金飴のストックを入れている瓶くらいの大きさだ。
瓶の半分ほどまで液体が入っている。プカプカと浮いている丸々とした実こそ、魔力過多を引き起こすとされる植物なのだろう。
ジゼルは自分の知識の中から該当する植物を探す。
色や見た目は、子供の頃に読んだ本に載っていた『ウメ」によく似ている。
干して塩漬けにしたものや酒に漬け込んだものは大変美味であると書かれていた。
一部地域では薬として用いられることもある一方で、未熟なウメをそのまま食べると嘔吐や呼吸困難などの症状を引き起こすこともあるらしい。
『酒に漬ける』『特定の条件では有害となりうる』という部分は一致しているが、魔力を吸収するなどの特性はなかったはず。
「これは?」
「錬金飴とペレンナの実を入れて漬け込んだ、シマさん特製酒だそうだ」
ペレンナの実――初めて聞く名前の植物だ。
ぷかぷかと浮いている実をじいっと観察してみるが、見たことがない。完全に初めましてだ。
「ペレンナの実は、世界樹の強い影響を受ける場所のみに自生する特別な植物だ。魔力を大幅に回復させる効果がある反面、元々の魔力量が少ない者が口にするとペレンナの実に含まれる魔力が処理しきれず、体内で暴走を起こしてしまう。ドワーフの里やエルフの森ですら、娘の作る飴と同じくらいのサイズにしか育たず、収穫後に成長させることは不可能である……はずだった。我が知る限り、収穫後のペレンナの実が変化したのはこれが初めてだ。精霊達は喜んで持ち帰るようだが、ドワーフは誰も手を付けぬようだ」
「元々大きめの実がお酒を吸って膨らんだんじゃないんですか?」
「我もそう考えたが、この酒を造ったシマとやらが記録を残していたのだ。本人の姿は見えなかったが、瓶の様子を一緒に確認していたドワーフも間違いないと証言しておる」
「大のドラゴン嫌いらしいな。野菜や果物のお裾分けは何度ももらったことあるけど、俺も会ったことないんだよな~」
ドラゴンさん曰く、シマさんという人物は『ドワーフの自家醸造酒に錬金飴とペレンナの実を入れて漬け込んだ瓶』と『ドワーフの自家醸造酒にペレンナを漬けた瓶』と『錬金飴とペレンナの実のみを入れた瓶』の三つを用意し、毎日絵と文字で記録を残していたらしい。
ドワーフの里で記録ノートと共に、『錬金飴とペレンナの実のみを入れた瓶』の中のペレンナの実もやや膨らんでいたことから、錬金飴に含まれていた魔力によって変化したと結論づけたのだとか。
「ぺれんなのみもジゼルのあめすきだったのかなぁ?」
「娘の魔力との相性がよかったのか。生産にたーちゃん――上級精霊が関わっているという点も大きいのかもしれんな。なぜ娘の作った飴をペレンナの実と一緒に酒に浸けようと思ったのかも含め、詳しいことは今度里に行った時に本人を見つけ出して聞く予定だが、とりあえず魔力は全て実が吸い取っているのは確かだな。酒に移っているのは味だけであることは、我が直々に確認してやったから安心して飲むといい」
だからドラゴンさんは『毒見』という言葉を使ったのか。
かなり気を使って確認してくれていたようだ。
「ありがとうございます」
ジゼルがお礼を言うと、恥ずかしそうにプイッと顔を背けた。




