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3.信頼

「飯か!」

 ドラゴンさんが勢いよく顔を上げたのと、ジゼルとたーちゃんが龍舎に足を踏み入れたのはほぼ同時だった。


 キラキラと輝く目は籠に固定されている。中身を見ずとも美味しいものが入っていることは分かるらしい。


 少し距離があるのに気づくとはさすがはドラゴン。鼻がいい。

 ドランは上機嫌なドラゴンさんに向けて大きなため息を吐く。


「お前、開口一番言うことがそれか……。ジゼル、たーちゃん、こんな時間にどうしたんだ?」

「親父さんに夕食作ってもらったんだ。一緒に食べよう」

「たーちゃん、おやつもがまんしたんだよぉ」

「さぁ早く我の前に広げろ。坊が早く帰りたいと言うから休まず飛んで帰ってきたのだ。腹が減ってしょうがない」

「俺がおやっさんと話している間に散々食ってただろ。それにお土産として持たせてくれた物まで先に食べて……」

「あれは毒味だ」

「毒味って言い方が悪いぞ」

「悪いものか。我はただ、娘が間違って食う前にあの実がどのような物か確かめてやったのだ。実際、少量でも食ったら倒れていただろうな。我に感謝してほしいくらいだ」

「は?」


 ドラゴンさんがなんてことなし発した言葉に、ドランの表情が固まる。

 心なしか龍舎の気温も下がった気がする。ジゼルもしても『少量でも食ったら倒れていた』というワードは引っかかる。


 だがお土産を持たせてくれた相手はドラン達と付き合いが長いドワーフである。以前会った彼は初対面のジゼルを『一人の生産者』として尊重してくれた。もらった手紙やグラスからも彼の人柄が伝わってきたほど。


 なによりドラゴンさんが自ら食べて問題ないと判断して持ち帰ってくれたのだ。

 あまり気にすることもないだろう。ひとまず手の中の籠とスープポットをテーブルに起き、窓とドアを閉めることにした。


 たーちゃんもドラゴンさんへの強い信頼があるからか、ジゼルと同様に特に気にした様子はない。


 ホットドッグの包みを開け、ドラゴンさんの前に運んでいく。


「おじちゃん、どうぞぉ~」

「おおっ、美味そうではないか」


 けれど途中でドランがそれを阻んだ。


「ちょっと待て。ジゼルに害を与えかねないものをなぜ放置した!」

「人間があの状態の実を食べると魔力過多を引き起こすだけだ。ドワーフとて『実は食う物ではない』と言っておっただろう。飲み物自体に害はないが、万が一に備えて確認してやったのだ。褒められる覚えはあれど叱られる覚えない」


 魔力を吸収する植物は錬金術の材料として使用されることも多い。

 魔力を吸い上げる力を使うこともあれば、植物が溜めこんだ魔力を利用することもある。もちろんその両方を利用することだって。


 微量の魔力にすら反応してしまうものも多いため、このような特性を持った植物を使用する際には注意を払う必要がある。


 話に出ている実が何の実かまでは分からないが、今回は実そのものを食べなければ問題ないタイプのようだ。


 ドワーフが持たせてくれたお土産というと、やはり酒関連だろうか。

 魔力を吸収する植物を利用する酒とは珍しい。どんなものなのだろう。俄然興味が湧いてくる。


「……なぜ今まで黙っていた」

「あの場で伝えたら、坊は土産を持ち帰らなかっただろう? それでは我がこの実を食えなくなり、ドワーフとの取り引きは成立しなくなる。たーちゃんも像を作ってもらえなくなるぞ」

「たーちゃんのぞう、だめだった?」


 あまりのショックに、たーちゃんはホットドッグを落としそうになる。ジゼルは横からたーちゃんとホットドッグを支える。


 ドワーフさんが忙しかったら難しいと伝えてあるとはいえ、断られるとは思っていなかったのだろう。しょんぼりと肩を落としてしまう。


「条件付きで受けてもらえることになってはいる」

 ドランは気まずそうにボソッと呟く。


「その条件に土産が関わっているのだがら、持ち帰らぬというわけにはいかぬだろう。実についてもちゃんと説明してやる。だがその前に飯だ、飯。ドラゴンたる我が、なぜ美味そうなものを目の前にお預けを食らわねばならないのだ!」

「……食ったら説明するんだな」


 ドラゴンさんにじっとりと疑うような目を向けるドラン。

 だが当のドラゴンさんはまるで気にすることはない。それどころか力強く頷いた。


「うむ、安心しろ。あの実は全て我が回収する」

「念のために確認しておくが、お前の身体に害はないんだな?」

「害どころか、娘の飴をそのまま食べた後より体調がいいくらいだ。あとであやつにも送ってやれ」


 あやつとはおそらく、ドランの親戚のおじさんの相棒であるドラゴンのことだろう。ドラゴンさんがとても可愛がっているようで、日頃から錬金飴を送っているのだと聞いたことがある。


 そんな相手に送るつもりならば、とドランも少し安心したようだ。

 小さくため息を吐いた後で、ドラゴンさんの皿を用意し始めた。


「ところで娘よ、これは以前持ってきたサンドイッチとは匂いが少し違うな」

「これはホットドッグという食べ物で、ソーセージには雪解け祭りで買ったホットパウダーが混ざってるんですよ」

「我が連れていってやった所だな」


 ドラゴンさんは大きめのホットドッグを一口でペロリと平らげる。そしてウンウンと大きく頷いた。気に入ったようだ。


 たーちゃんは次の包みを開ける。

 そしてその場にペタンと座り、大きな口で頬張った。


「おいひぃねぇ〜」

「我の分じゃなかったのか」

「たーちゃん、おなかすいちゃったぁ〜」


 二人が帰ってくるまでずっとご飯を我慢していたたーちゃんはもう限界だったようだ。

 ドランが用意してくれたお茶で喉を潤すと「ふぃ〜」っと可愛らしい声を漏らした。


「ドラゴンさんの分もまだまだありますから、ちょっと待ってくださいね」

「うむ、頼んだ。それにしても坊は毎回こんなに美味そうなものを買わずに帰っていたのか」

「ホットパウダーが出るのは雪解け祭りの開催期間だけですから」

「それに粉を買ってきても俺にはソーセージなんて凝ったものは作れない。美味いのは親父さんの調理が上手いからだ」


 ドランの言葉にジゼルも深く頷く。美味しい料理は質の良い素材と腕のいい料理人が揃ってこそである。


 今日も美味しいご飯を用意してくれた親父さんに改めて感謝するのだった。


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