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2.夜のおでかけ

「おじちゃんいたぁ!」

 たーちゃんが窓の外を指差したのは、ジゼルが手紙を受け取ってからしばらく経ってのことだった。


 思っていたよりも遅かったが、お腹を空かせてはいないだろうか。

 ジゼルは席を立ち、親父さんにスープをお願いする。親父さんもなかなか帰ってこないドラン達を心配していたようだ。


 スープポットと一緒にホットドッグも持たせてくれた。


 以前、ドラン達と一緒に行った雪解け祭りで購入したホットパウダーを混ぜ込んで作った親父さん特製ソーセージは存在感がある。ソーセージ自体が少しピリッとしているため、マスタードはなし。代わりにお野菜がたっぷり挟まっている。


 スープを温めている間に焼いてくれたソーセージはすでに食べ頃を迎えている。

 少しでも早くドランとドラゴンさんに届けねば。ジゼルの中で使命感のような思いが生まれる。


「じゃあたーちゃん、行こうか。寒いから腹巻きだけじゃなくて上着も着てこうね」

「ばっぐも! あめいれてぇ~」

「二個ずつでいい?」

「うん!」

「はい、どうぞ」

「かごはたーちゃんがもってあげるねぇ~」


 籠をたーちゃんに渡す。

 するとたーちゃんの鼻にも籠の中の美味しそうな香りが届いたらしい。たーちゃんはじゅるりと涎を垂らしそうになる。だがたーちゃんは涎を飲み込み、ブンブンと首を横に振る。


「がまんがまん。いっしょにたべるの」

「もう少しだけ頑張ろう。お外いつもより暗いから足下気をつけていこうね」

「わかったぁ~」


 早く会いたい気持ちを胸に抱きながらも、いつもの道をほんの少しだけゆっくり歩く。


 去年までは空が暗くなってからの帰宅も度々あった。繁忙期や大量依頼が入った時はもちろん、依頼者と話すためにギルドに残っていたことも。


 ジゼルに仕事を依頼してくれるお客さんは商売をやっている人も多く、空いている時間が遅い時間だけという人も多かったのである。


 だがたーちゃんと出会ってからは夜に外出する機会はなかった。雪解け祭りの時くらいかもしれない。あの時は祭り期間中ということもあり、灯りがたくさんあった。


 今だって足下が暗くなることはない。市場は店じまいした後でも、大通り沿いには深夜も営業している店がいくつもある。ジゼルの故郷のように真っ暗になることはないのだ。


 それでも故郷にいた時の癖で、空が暗いと早足になってしまう。


 たーちゃんが転ばないように。

 その気持ちが一番だ。けれど二番手にあるのはきっと、早足でなくても大丈夫になったから。昼間よりは暗いけれど、たーちゃんの顔が隠れることはない。


「よるのおさんぽたのしいねぇ~」

 たーちゃんはご機嫌でジゼルの顔を見上げる。

 ジゼルの中でも『楽しい』気持ちが膨らんで、自然な笑顔が出来上がっていくのだった。


「こんばんは」

「こんばんわぁ~」


 もう遅い時間ということもあり、配達ギルド内に人は少ない。荷物の整理もほとんど済んでいるようで、お茶を飲みながらゆったりと過ごしている人も多い。


 ジゼルとたーちゃんが夜の挨拶をすると、彼らは温かく迎え入れてくれた。


「ジゼルちゃん、たーちゃん。ナイスタイミングだ。ちょうどさっきドラン達が帰ってきたんだよ」

「たーちゃんがまどにぺったりして、ジゼルにおしえてあげたんだよ」


 えっへんと胸を張るたーちゃん。


「すごいな、たーちゃん」

「俺達でも夜はなかなか見つけらんないんだぞ」

「えへへ~」


 褒められて嬉しそうだ。

 ほっぺをゆるゆるとさせていると、たーちゃんのお腹からぐううう〜と大きな音がした。まるで『おなかすいたよぉ〜』と泣いているかのよう。


「たーちゃん用のお菓子箱持ってきてやるからちょっと待ってな」


 彼はそう言いながら立ち上がり、近くの棚を開けて赤い箱を持ってきてくれる。


 ちなみにこの棚は、配達ギルド職員専用の軽食棚である。

 中にはお客さんからもらったおやつや茶葉、配達先で購入したお土産、ギルドマスターが補充した保存食などが入っている。


 そこに『たーちゃんのお菓子箱』が加わったのは最近のこと。

 ジゼルとしては来る度にお菓子をもらってしまって申し訳ない気持ちはある。


「いつもすみません」

「俺達がたーちゃんにおやつあげたいだけだから気にするな」

「出先でちょうどいいサイズのお菓子見つけると、たーちゃんの顔が浮かぶんだよな〜」


 そう話す彼らの顔に嘘は見えない。補充する時もたーちゃんに箱を持ってきてくれる時も、彼らはいつも楽しそうだった。


 今もたーちゃんの目線の位置までしゃがんで「今日はどれにするんだ?」と箱の中身を見せてくれている。


「きょうはだいじょおぶ。ごはん、ドランとおじちゃんとたべるためにまってたの」

「だから二人ともいっぱい持ってるんだな。じゃあドラン達の分も選んで持っていくといい」

「いいのぉ!?」

「ああ、今日は特別だ」

「やったぁ〜」


 ジゼルはたーちゃんから籠を預かる。

 たーちゃんは箱に入ったお菓子を吟味して、中からクッキーを何枚か取り出した。それぞれ味も形も違うクッキーを胸の前に抱える。


「きょうはこれにするぅ」

「おっ! それ、俺が買ってきたやつだ」

「俺のもだ! たーちゃん、なんで買ってきたやつが分かるんだ?」

「いちばんおいしそうなのをえらんでるだけだよぉ?」


 たーちゃんが箱から選ぶお菓子は、必ず箱を持ってきてくれた人や近くにいる人が買ってきてくれたものであった。それもどうやらたーちゃん自身も狙ってやっているわけではないらしい。聞かれてもこてんと首を傾げるだけだ。


「そうかそうか」

「みんなで食べてな」


 数ある中から自分の選んだお菓子を『美味しそうだから』と選んでもらえるのは嬉しいものだ。たーちゃんを撫でる二人の目の横の皺が深くなっている。


「うん! おかし、ありがとぉ〜」


 たーちゃんはペコっと頭を下げる。それからお菓子を持っていない方の手をブンブンと振りながら龍舎へと向かうのだった。


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