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1.空を眺めて

「ドラン、おそいねぇ~」

 たーちゃんは窓にぺったりとくっついて空を眺める。

 ドランとドラゴンさんが帰ってきたらすぐに配達ギルドに行けるよう、夕方からずっとそうしている。ジゼルが思っていたよりもずっとたーちゃん像を楽しみにしているようだ。


 今日の早朝も、ドワーフの里に向かうドラゴンさんに「たーちゃんのかわいいのにしてねぇっていってね?」とお願いしていた。


 ドラゴンさんもドランが作ったガラス玉で自分の像を作ってもらうつもりらしく、ご機嫌で頷いてくれた。


 ドワーフさんの負担がやや心配ではあるものの、彼も職人だ。時間や制作内容を考えて無理なら断ってくれるだろう。手紙にもそう書いておいたし、ドランにも伝えてある。


「ドワーフの里は結構離れているからね。ドランも遅くなるかもって言ってたから、先にご飯食べちゃおう? ね?」


 ジゼルは夕食セットが入ったバスケットを少しだけ持ち上げる。


 ドラン達が帰ってきたら龍舎で一緒に夕食が食べられるようにと、親父さんが特別に作ってくれたのだ。ちなみにスープの入ったポットは別に用意してあり、ドラン達が帰ってきたら鍋で温めて移してくれるようだ。親父さんの温かさが身に染みる。


 ジゼルはこのまま待つつもりではあるが、すでに空は真っ暗だ。

 ドラゴンさんの身体も闇に溶けてしまうのではないかと思うほど。


 たーちゃんはお腹が空いているに違いない。なにせ親父さんが夕食セットを持ってきてくれた時、よだれを垂らしていたほどだ。


 それに「たーちゃんだけたべたらおじちゃんかわいそうだから!」と今日のおやつも錬金飴も我慢している。


 今ご飯を食べても、たーちゃんの優しさはドランとドラゴンさんに伝わるはずだ。お腹が空いているところを我慢させてしまう方が可哀想。


 ジゼルはそう考えたのだが、たーちゃんはフルフルと首を振った。


「んーん。みんなでごはんたべるぅ」

「……そっか。じゃあもう少し待ってようか。ドラゴンさんの姿が見えたら教えてもらってもいい? 私だと多分見えないから」

「わかったぁ。たーちゃんがんばる!」


 グッと両手の拳を固めるたーちゃん。

 たーちゃんがドラゴンさんの姿を探している間、ジゼルは包み終わった錬金飴を瓶に入れていく。


 オーレルさんが来るからと大量に作った分がまだまだ残っているのだ。今日も瓶作りに励んでいたが、しばらくは瓶作りがメインになりそうだ。


「私、この瓶、運んでくるね」

「わかったぁ~」


 たーちゃんに声をかけ、瓶詰めが終わった錬金飴を客間に運ぶ。

 途中でカウンターにいる女将さんに声をかける。


「追加分、客間に置かせてもらいますね」

「ああ、ちょうどよかった。今、ちょうど追加分を頼もうと思ってたところなんだよ」

「大量に買われるお客さんが来たんですか?」

「一人一人はさほどでもないんだけど、続けざまにお貴族様の使いの人が来てね。ジゼルへの手紙も大量に預かってるよ」

「なんでこのタイミングでいきなり……」


 はて、と首を捻る。

 そして以前リュカが教えてくれたことを思い出した。クラバットの布についての質問かもしれない。錬金飴を客間に置かせてもらってから大量の手紙を受け取る。


 部屋に戻り、急いで手紙を開封していくジゼル。だが十数通目に目を通した時点でピタリと手が止まった。


「……どれも普通のお客さんだ」

「ジゼル、どうしたのぉ? いやなことあった?」


 てっきり例の彼が錬金ランプを求めていた時のような手紙だと思ったのだ。

 リュカから先に話を聞いていたことや大量に錬金飴を購入していったということもあり、思わず身構えてしまった。


 だがいざ封筒を開いてみれば、書かれていたのは『とあるお茶会で存在を知った』とか『購入者から話を聞いた』とか。今まで届く手紙と同じような内容だった。


 おそらくリュカが参加したお茶会と、手紙で書かれているお茶会は同じ会だ。だが彼らはクラバットや布というワードを一切使うことはなく、彼の名前も出さなかった。出されたとしても、彼は名前を伏せた状態で錬金飴を購入している。


 クラバットに至っては、貴族のお茶会に参加したこともなければ今後も参加する予定もないジゼルには知り得ないことではあるのだが。その辺りを考慮してのことかもしれない。


 ジゼルには貴族のマナーややりとりなんて分からない。

 もしかしたら錬金飴を話題の一つとして使いたいだけかもしれない。


 だが受け取ったばかりの手紙を通してヒシヒシと伝わってくる気持ちが、他の手紙に載せられた想いと同じことだけは分かる。


 それに提示したルールを守って使用してくれる分には一向に構わない。あくまでジゼルは生産者であり、販売者。錬金飴をキッカケに誰とどんな話を膨らませるかはお客さんの自由なのだ。


「ううん、お客さんいっぱい来たから瓶詰め頑張らないとなって。オーレルさんが来るからって張り切って作っててよかった」

「そっかぁ。みんなジゼルのあめだいすきだもんね」

「本当にありがたいことだよね」


 手紙の返事は明日書くことにして、手紙に書かれている錬金飴の種類と数、依頼者の名前と送り先をまとめてメモに書き記す。だが一部は保留の意味を込めて丸で囲う。


 これらは全て、依頼者の住所とは別の場所に送ってほしいと書かれたものである。実家の両親や友人に送ってほしいという依頼に対応したい気持ちはある。


 錬金飴の効能に満足し、大切な人にも送りたいという気持ちは素直に嬉しいものだ。だが配達料の兼ね合いや受け取り拒否など、諸々のトラブルが発生する可能性があるため断らざるを得ない。


 そのため宿屋のカウンターや手紙に入れる案内にも『配達注文は依頼者の住所のみ承ります』と最近追加した。


 二回目以降の注文で他の住所に送って欲しいという依頼はほとんどないのだが、初めてのお客さんにお断りする時は少し心が痛む。個数制限がある旨を記す時も同じだ。


 どのお客さんも納得してくれるため、そこまで気にする必要はないのだと分かっている。依頼者のご両親の家から改めて依頼の手紙が届くことも少なくない。


 錬金飴の販売ルールでさえこうなのだ。販売していない布に関する手紙が来なかったことに、ジゼルはホッとしていた。もちろん明日以降、心配したような内容が来る可能性は否定できないが。


 錬金術師としての腕は一流でもまだ幼いリュカが心配して来てくれたのも、ジゼルのこういう面を気にしてのことだろう。


 本当に、周りの人達には助けられてばかりだ。

 今度リュカに会ったらキチンとお礼を伝えなければ。


精霊編②スタートしました!

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