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8.宿屋ギルドのヴァネッサ(後編)

「うちとしてはあくまで商品の一つとして扱うから、ギルドの利益としていくらか上乗せすることはあってもジゼルさんが決めた額を下げることはしない。他種ギルドからの強引なヘッドハンティングは阻めるっていうのもメリットの一つとして見てもらえるんじゃないかね。もちろん今後、他のギルドに所属したくなることもあると思う。その時は抜けてもらって構わない。こちらにあんたの成長を止める意図はなく、搾取するつもりはない。女将には先にこのことを話していてね、本人がよければ構わないという話だったんだが、どうだい?」

「それは宿屋ギルドに一体どんなメリットが?」

「我がギルドがジゼル様に求めるのは、宿屋ギルドへの優先販売になります。細かい部分は別途ご相談いただく形になりますが、ギルド所属者が使用する分を毎月一定数確保したいと考えております。詳しくはこちらをご覧ください」


 宿屋ギルドの所属者には肩こりや腰痛を抱えている者も多い。

 女将さんと親父さんも腰痛・肩こりに悩んでいるので、ジゼルもよく分かる。


 宿屋ギルド所属者への売り方は、まず宿屋ギルド本部で買い取り、それを個人に売る形になる。


 あくまでも宿屋ギルドの関係者に販売する分の確保が目的なので、宿屋ギルドが利益を求めることはしない。売られた額で売る。転売は禁止し、販売者はジゼル本人であることを強調するとのこと。


 この先、一年間の取引を確約。

 またイベントの時期などは少し多めに販売してもらえないかと相談する可能性あり。急な依頼になる場合は断ってもらっても構わない。


 つらつらと並べられている条件一つ一つをしっかり読み込んでいく。


「代金は現物をいただく際、ジゼル様ご本人に現金にてお支払いいたします。初めの三ヶ月は各種二百個ほど販売していただき、販売数を元にそれ以降の取引分を決めさせていただければと思っております」

「瓶はいくつほどご用意すれば」

「種類ごとに分けていただき、大瓶三つを二セット。空になった方をお持ちして、次回分を詰めてもらうことを想定しております」

「ならデザインは同じで、ボトルのカラーは変えた方がいいですね」

「助かります」

「種類ごとの売れ行きは私の方でも確認させていただけるのでしょうか?」

「はい。受け取りとお支払いの際にお持ちする予定です。こちらの条件でいかがでしょうか?」


 なるほど。ジゼルにとっても悪い話ではない。

 それに月に各種二百個ほどなら宿屋のお手伝いはもちろん、他の仕事が見つかった後でも続けられそうだ。


「分かりました。宿屋ギルドさんの方でお世話になろうと思います」

 ぺこりと頭を下げる。するとヴァネッサの顔がずいっと寄せられた。


「それで、今月分はいつ頃もらえるんだい!?」

「え、えっと今日明日は釜を休ませるので、最短で四日後のご用意になるかと」

「なら七日後に取りに来させる」

「ではこちらが初回分のお支払いになります」


 ヴァネッサの指示に合わせて、お付きの女性は革袋を机の上に置いた。

 革袋の質がいいのはもちろんのこと、中身がぎっしりと詰まっているのは外からでもよく分かる。


「使い勝手を考慮して金貨と銀貨、混ぜて用意した。確認しておくれ」

「で、ですがさっきは現物との引き換えになると」

「始めたばかりで色々入り用だろうからね、今回だけ早めに払わせてもらう。それには前回もらった分とあたし個人の注文分の支払い、それから祝い金も付けてある。今後来た時はあたしの分も用意しておいてくれ」

「祝い金制度があるんですか!?」


 そんな話聞いたことがない。

 だが宿屋ギルドといえば、冒険者ギルドと並ぶ国営ギルドである。錬金ギルドや商業ギルドのように誰でも立ち上げることができる訳ではない。


 ギルドマスターは宿屋ギルド内はもちろんのこと、他業種からの推薦も必要とする。最終的には国王陛下の承認を得なければならない。


 やや特殊なギルドであり、規模もかなり大きい。

 新規で宿を開く人数は冒険者よりもはるかに少ないため、そういう制度があってもおかしくはない。


 だがジゼルは新規で宿を開く訳ではなく、宿屋の従業員と同じ扱いになるのであって……。


 ぐるぐると考え込むジゼルに、目の前の二人は微笑ましいような目を向ける。


「あたし個人からのものさ。本当に辛くてねぇ……夜にぐっすり眠れたのはいつぶりだったか。遠慮なくもらってくれ」

「ではありがたくちょうだいさせていただきます。代わり、とは少し違うのですが、すでに個人での注文分は作ってありますので、よろしければお持ち帰りになりますか?」

「いいのかい!?」

「は、はい。確か腰痛の飴が二瓶と肩こりの飴が一瓶でしたよね」

「ああ」


 飴はジゼルの部屋にある。

 取ってきますと一声かけ、立ち上がる。するとお付きの女性がスッと手を挙げた。


「数に余裕があるのであれば、私も欲しいです。案内を見たときから気になっていて」

「少数であれば大丈夫ですよ。どれにしましょうか」

「疲労回復の飴を一瓶お願いします。お代は確か銀貨五枚でしたよね」

「ありがとうございます。今お持ちしますので、少々お待ちください」


 今度こそぺこりと頭を下げて部屋を出る。そのまま真っ直ぐ自室に向かった。



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― 新着の感想 ―
200個だと飴200粒なのか200瓶なのか 簡単に用意できるってことは粒なのかな?でも10粒入り200瓶月産なのかも?と悩ましい
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