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4.アクシデント

「お土産はこれだけ買えば十分だろ」

「結構買ったね~」

「このくらいないと騒ぐから。ジゼルとたーちゃんは他に買いたいものとか食べたいものはあるか?」

「たーちゃんもうおなかいっぱい」

「私も大丈夫。ホットパウダーも三つも買えちゃったし」

「まさか一人一個だとは思わなかったな~。たーちゃんに至っては所属確認なかったし」

「おやじさんよろこぶね」

「ね~」


 ホットパウダーを確保した三人はとにかく食べたいものを食べて回った。

 その度にドラゴンへのお土産を確保し、ドランもジゼルも両手はいっぱい。たーちゃんのバッグに入れられるものは入れてもらった。


 少し動きづらそうだが、あと少しの我慢。ドラゴンにお土産を渡したら宿に帰るだけだ。


「宿行く前にあいつのとこ寄ってもいい?」

「いいよ~」

「お腹空かせて待ってるだろうから、早く行こう」

「天気も怪しくなってきたしな」


 ドランは空を見上げ、呟く。

 ジゼルも釣られて上を見るが、空いっぱいに星が広がっている。


 人が多いので上を見ながら歩くことはできないが、少し開けた場所なら星見酒に浸っている人がいてもおかしくない。


「こんなに晴れてるのに?」

「少し前から風の流れが変わった。この天気もあと半刻と持たないはずだ」

「全然気付かなかった……」

「おへやとっててよかったねぇ」


 話しながら歩いていると、ポツポツと店じまいを始める店が目に付いた。ドラン同様、天候の変化を感じ取ってのことだろう。


 やはり地元の人や祭りに店を出している人は慣れている。


 人混みを抜け、配達ギルドへと向かう。

 先ほどはギルド前で見送ったが、今度は龍舎まで行っておやすみを告げよう。そう決めていたのだが、ギルドに近づくにつれて異変を感じ始めた。


「ねぇドラン。なんで飛鳥族も走鳥族もこんなに外にいるんだろう」

「ここはかなりの数の収容ができるはずだ。溢れるはずがない。けど人が多い日は鳥たちの負担も考えてすぐに中に入れるはず。考えられるのは……」

「いっぱいきちゃった」

「だな。祭り中もやけに飛んでるなくらいにしか思わなかった……」

「大丈夫なの!?」


 ただでさえこの土地はかなり冷える。吹雪くとなれば鳥たちの負担もかなりのものになるはずだ。


 縮こまってしまっている子もおり、すぐにでも屋根のある場所で温めてあげなければならないことは、素人のジゼルからも一目瞭然だった。


「いざという時は人間が寝泊まりする部屋に連れて行く」

「そっか。よかった……」

「問題は人間の寝床だな……。宿なんてどこも満室だぞ」


 ドランはブツブツと呟き、何かを考え込む。小さく聞こえてくる言葉を拾うと、彼は自分の部屋に鳥たちを運び入れようとしているようだ。


 俺はドラゴンの寝床で……と聞こえた辺りで、ギルド内から一人の男性が飛び出した。そしてドランを見つけるや否や、手をブンブンと振りながらこちらへと駆け寄ってきた。


「ドランさん! やっと帰ってきた」

「あのここにいる鳥達を」


 自分の部屋に運び込んでほしい。

 そう続けようとしたが、男はドランの言葉を最後まで聞くことはなかった。


「部屋がいっぱいになってしまったので、彼女さんのところに泊めてもらってください。ドラゴンさんの許可は取ってあるので」


 代わりに衝撃的な言葉を投げつけた。

 ドランが固まってしまうほどの剛速球だ。正直、ジゼルも一度では正確に飲み込むことができなかった。


「もう一度言ってもらっていいですか?」

「ドラゴンさんの許可は頂いているので、ドランさんは彼女さんが取った宿の方に泊まってください、と」

「はぁ!?」

「いやぁありがたい申し出でしたよ~。ドランさんの部屋には小型の鳥を、龍舎の方にも大型の飛鳥族とその相棒を入れていただけることになりまして。これでなんとか凍えずに済みます。あ、お土産は受け取るから帰ってきたら通すようにとの言付けも預かっております」

「いや、俺も龍舎の方で」

「ドランも宿に行こう!」


 ドランは早朝からドラゴンと共に飛び、祭りを見て回ったのだ。明日にはまた国に戻らなければならない。乗せてもらっているだけのジゼルよりもずっと疲れているはずなのだ。龍舎ではゆっくりと休めない。


 部屋がないならどうしようもないが、幸いにもドランがジゼルとたーちゃんに取ってくれた部屋はかなり広い。一人受け入れるくらい余裕だ。


 恋人と伝えたのはドラゴンだろう。多分、他の職員が気負わないようにと配慮した結果だ。ならばジゼルも彼の思いを汲むべきだ。


「俺は反対だ。若い女性が恋人でもない男と一緒の部屋に泊まるなんて……。親父さんと女将さんだってきっと反対する」

「知らない人ならともかくドランだから何の問題もないよ。さぁ早く渡しに行こう。ドラゴンさん待ってるし、吹雪く前に飛鳥族には龍舎に入ってもらわなきゃ」


 早く早くと急かしながら配達ギルドの中へと入っていく。

 龍舎の場所は笑顔の職員さん達が「どうぞどうぞ」「こちらです」と案内してくれた。ドランは複雑そうな顔をしながらも、ジゼルの後に続いてくれた。


「お前達、遅いぞ」

「ごめんなさい。代わりにいっぱい買ってきたので!」

「どれもおいしいよぉ~」

「おおそうか。やはり娘達が一緒だと違うな」

「お前、後で覚えてろよ」

「感謝の品ならいくらでも受け取ろう」


 ドランは声にならない声を出しつつも、テキパキとご飯の準備を始めている。ジゼルも手持ちのご飯を開き、たーちゃんのバッグからもいくつか取り出していく。


 たーちゃんはお土産を紹介する係だ。トトトと端っこまで行く。


「これはねぇ、ぴりっとからっとなの~」

「ふむ。鳥を揚げたものか。これはさっさと食ってしまおう」

「とりちゃんくるもんね」

「あ、こっちも鶏肉なので」

「おお、羊もあるではないか」

「それ、私のオススメです」


 鶏肉を食べ終わったのを見計らって、ドランが窓を開ける。長時間窓を開けると室内が冷えてしまうのだが、揚げ鶏の匂いが充満していてはさすがに申し訳ない。


 ドラゴンは「寒い」と言いつつもパクパクとお土産を平らげていく。匂いが抜けたら、龍舎の外で待機している職員達に声をかける。


 鳥達はすでにギルド内に入っていたようで、続々と大きな鳥達がやってくる。鳥も相棒の人間も、かなりドラゴンに怯えているようだ。龍舎の端っこで丸まっている。


 少し不憫だが、凍えるよりはいいだろう。

 明日以降、ゆっくりと眠ってほしい。



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