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5.たーちゃんの機嫌

 馬車が見えなくなってようやく頭をあげる。

 宿屋に戻り、大きなため息を吐く。この短時間でドッと疲れた。両手を伸ばし、カウンターに顔をべったりと付ける。


「帰ってくれてよかった」

「もおおおおおお」

「たーちゃん、ごめんね。助かったよ」

「たーちゃん、じぜるをこまらせるひときらぁい」

「守ってくれてありがとう」


 ジゼル一人では対応できていたか怪しいものだ。

 流されてランプを作って、泣きを見ていたかもしれない。


 宿屋ギルドに所属しているとはいえ、こういう対応をするのはジゼルである。

 この先も錬金飴の販売を続けていくのであれば、しっかりと断れるようにならなければ……。


 汗が浮かんだ額を撫でながら自分のふがいなさを反省する。


「……うん。あとでどらんにもいいつける」

「ドランが心配するから。内緒にしといて?」

「ええ~」


 自分がいない間にそんなことがあったと知れば、ドランは自分を責めてしまう。


 ドランには何一つとして悪いことはなくても、だ。

 定期的に宿に様子を見に来ると言いかねない。


 これはジゼルの問題だ。次があった場合、今度こそしっかりと自分の力で対処しなければならない。


 ジゼルとしては他の錬金術師やランプ職人に依頼してくれるのがベストなのだが、あの様子では簡単に諦めてくれるとも思えなかった。何か対策を考えねばなるまい。


「私の分のおやつ、半分あげるから。ね?」

「じぜるがそういうなら……。あめもつく?」

「大サービスで二つずつ付けちゃう。今食べる?」

「たべるぅ」


 おやつ用に避けてある瓶の中から飴を取り出す。たーちゃんはそれを両手で受け取り、へへっと笑いながら早速食べ始めた。


 機嫌が直ってくれてよかった。

 大活躍してくれたたーちゃんをいいこいいこと撫でるのだった。




 すっかりと落ち着き、遠方のお客さんから届いた手紙の返事を書く。

 すると女将さんが二人分のお茶を持ってやってきた。いつの間にか交代の時間になったらしい。ペンを置き、手紙をレターケースにしまう。


「ジゼル、たーちゃん。さっき誰か来てたみたいだけど何かあったのかい?」


 手が離せなくて悪かったね、と言いながら、女将さんはお茶を差し出してくれる。

 ありがたく受け取り、心配をかけない程度にざっくりと話す。


「ちょっと変わったお客さんが来まして。でももうお帰りになられたので大丈夫です」

「錬金飴のお客さんかい?」

「ランプの製作依頼に来たようなのでお断りしました」

「ランプの……。どんな人だったんだい?」

「身なりが整っていたので初めは貴族かと思ったのですが、どうも新聞社関係の方のようで。兄妹とお付きの方が一人。お兄さんの方が私よりも年上で、妹さんとはかなり年が離れているようでした」

「新聞社か。ならよかった」


 あからさまにホッとする女将さん。

 なぜそんなことを聞くのだろうか。こてんと首を傾げる。


「他にランプの依頼に来た人がいたんですか?」

「いや、なんでもない。今回のことに限らず、ジゼルは嫌なことは嫌だと言っていいんだからね」

「はい。あ、でも女将さんと親父さんが欲しかったら言ってくださいね。作りますから!」

「ジゼル、あたしはあんたのそういうところが心配だよ……」


 女将さんは困ったようにため息を吐く。

 だがジゼルだってちゃんと人を見て言っているのだ。女将さんも親父さんも無理を言わないし、なによりジゼルは日頃の感謝を伝えられる機会を日々窺っている。


 ちなみに一番ちょうどいいイベントが、二ヶ月後に迫った二人の結婚記念日である。


 何かプレゼントがしたいのだが、去年までに贈ったものと被らないようにと色々考えてしまい、何をプレゼントするか未だに決まっていない。


「たーちゃんのは?」

「たーちゃん、ランプ欲しいの?」

「ううん。なかまはずれはいやだからきいただけ~」

「そっか。欲しかったら言ってね。作るから」

「たーちゃんはねぇ、このらんぷがすき」


 言いながら、たーちゃんはポンッとランプに変身した。

 先ほどと同じくらいの大きさでどちらもジゼルが作ったものだが、今回はウサギが描かれたランプである。


 赤ちゃんが近くにいても使いやすいものを、とのオーダーを受けて作ったもので、明るさの調整にも苦労したものだ。そこまでしっかりと再現されている。


「変身するって聞いてはいたけど、本物とほとんど違いがないんじゃないの?」

「えへへ~。ほかのもできるよぉ」


 女将さんに褒められてすっかり気分がよくなったたーちゃんは、ポンポンといろんな姿に変身してみせる。


 大きな錬金飴やキャンディボトル、宿に飾ってあるお花にフルーツサンドまで。大きさの変化や細かい部分までお手の物だ。


 ジゼルも女将さんと一緒になって手を叩いてはしゃいでしまう。

 先ほどまでの疲労感なんていつの間にか吹っ飛んでいた。



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