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【閑話】王宮錬金術師採用試験会場にて(中編)

「ジゼルは来ない」

「なんでそう思うの?」

「ん」


 リュカと呼ばれた少年が取り出したのは飴玉だった。包み紙には緑の葉っぱが描かれている。ビビアンはつい最近、似たような飴を見たような気がする。どこだったか全く思い出せないが。ビビアンが記憶を探っている間も二人の会話は続いていく。


「何これ、飴玉? いつも持ち歩いてんの? なんだ、子どもらしい一面もあるんじゃん」

「いいから一つ食べてみるといい」

「わたし、甘い物って苦手なのよね」

「いいから食べろ。食べれば分かる」

「ええ仕方ないなぁ……。美味しいし、身体がすうっとするような? 薬?」

「包み紙をよく見てみるといい。それこそ、僕がジゼルは来ないと思う理由だ」

「ふうん。これどこのギルドの?」

「宿屋ギルドに所属しているけど、販売は個人で行っているみたいだよ」


 ああ、そうだ。思い出した。祖父宛に宿屋から送られてきた手紙についていたのだ。すぐに祖父が部屋に持ち帰ったから忘れていたけれど、こういうデザインのものがあったはずだ。


 あれは宿屋で売っていたものなのか。引っかかっていたものが取れてスッキリした。


 そうだ、兄に買ってもらうものはあの飴にしよう。祖父が一つも分けてくれないくらいだから、すっごく美味しいに決まっている。


 ビビアンは一人でウンウンと頷く。


「宿屋ねぇ。そういえばギルドに来たばかりの頃に宿屋に下宿してるって言ってたっけ。なんだ、上手くやってるのね」

「心配していたのか?」

「まさか。あの子に足りないのは技術力でも自信でもなく、自己主張よ。『精霊の釜』みたいに我が強いやつばっかり揃ってる場所以外ならやっていけるでしょ」

「同感」

「それで、この飴ってもうないの?」

「甘い物は苦手なんじゃなかったのか」

「甘い物は苦手だけど美味しいものは好きなのよ」

「今はもう持ってないけど、屋敷に帰れば母上のストックがある」

「私にも譲ってよ」

「自分で買いなよ」

「上手くやってるのに私が顔出したら邪魔になるでしょ。一年以上話してなかったし、辞めたって知ったのも数日後だったし……正直気まずい。というかなんでリュカちゃん、教えてくれなかったのよ」

「指名依頼が入って忙しかったんだ。ランプ作りの応援を頼まれてようやく知った。本当に、いつの間にあんなバカが増えたんだか」

「前からいたわよ? それをオーレル様が上手く回していただけ。……新しいギルドマスターがやらかさなくても、遅かれ早かれあのギルドは終わってた」

「ふうん」

「ということで、今度これと同じの持ってきてね! 待ってるから」

「受かること前提なのか」

「当然でしょ? それに私とリュカちゃん以外にも見知った顔のメンバーが揃うだろうし、むしろ精鋭がまとまる分、前よりも過ごしやすくなるんじゃないかしら」

「濃い連中ばっかりだがな」

「それに関してはリュカちゃんも人のこと言えないでしょ……」


 目の前の二人が王宮錬金術師の話をする中、ビビアンの頭の中には葉っぱのイラストが書かれた飴がたくさん浮かんでいた。


 どんな味がするのか。どのくらい買ってくれるか。


 初めから王宮錬金術師になれるとは思っていないビビアンにとって、兄が買ってくれる飴の方が何十倍も大切だった。


 この場に家族がいれば真面目に取り組めと叱責が飛んでくるのだろうが、ここには知り合いなど一人もいない。ほわほわと笑う彼を止める者はいなかった。


「お~、お前らも来てたのか」

「うるさいのが来た」

「あんたが残るなんて意外だわ」

「なんだと!?」

「だってポーション作り、大の苦手だったじゃない」

「あー、嫁に扱かれた」

「あんたのところの奥さんって冒険者ギルドの受付じゃなかったっけ?」

「ああ。超エリートの冒険者ギルド受付で、可愛いだけじゃなくとにかく数字に強い最高の嫁だ」

「いきなり何よ」

「最高に優秀な嫁は家事と育児の時間と錬金アイテムの売り上げと製作時間の全てを計算し、より利益率の高いものをたたき出した。結果、一番効率のいいアイテムが中級ポーションだった。生産予想個数とそれにかかる時間を掲げられ、俺は毎日息子を背中におぶりながらポーションを作っては出荷し、作っては出荷しを繰り返し。まぁ嫌でも上手くなるよな」

「そういえば個人で商業ギルドに卸している錬金術師の友達がそんなこと言ってたような? でもあんた、オーレルさんにいくら頼まれても頑として頷かなかったじゃない」

「オーレルさんには育ててもらった恩がある。だから他で補うことで貢献してきた。だがな、一人目を背中に、二人目を腹の中に抱えた嫁には提案する隙がない。……文句を言う暇があったら長男背負ってポーション作れと睨まれた」

「苦手が克服できた上、ここまで残れたのだからよかったじゃないか」

「いい奥さんをもらったのね」

「まぁな。リュカ、お前もうちの嫁みたいなしっかりした子、捕まえるんだぞ」

「僕は錬金術師以外に投資とかいろいろしてるから。将来の家族に心配をかけるようなことはしない」

「うわっ、可愛くねぇ」

「あ、ちょっと呼ばれてるわよ。さっさと通過して奥さん安心させるんでしょ」

「おうよ! ってか坊主、お前も呼ばれてね?」

「え、僕?」


 前にいた大男からいきなり声をかけられ、ハッとする。

 飴のことで頭がいっぱいだったビビアンは目の前の席に人が増えていたことに全く気付かなかった。そして自分の番号を呼ばれていることも。


「そう、七十二番」

 男に言われ、職員が掲げる大きなプレートを確認する。

 そこにはビビアンの番号札と同じ数字が書かれていた。


「本当だ! ありがとうございます」

「一緒に頑張ろうぜ」


 男はニッと笑い、次の会場に一緒に移動してくれた。


 そこからは個室に別れ、三次試験の内容が発表された。ランプである。二次試験同様、具体的な使用方法や明確な形は決まっていない。好きなものを作るようにとのことだった。


 中級ポーションに石けん、ランプだなんておかしなお題ばかりだ。

 そうは思いつつも、ビビアンは真面目にお題に取り組んだ。


「かなり荒いな」

「経験の浅さがそのまま反映されてしまっている」

「筋はいいが、こればかりは練習の問題だな」

「ああ、真っ直ぐさが伝わるデザインだ」

「ありがとうございます」


 結果は不合格。

 けれど試験官はビビアンのいいところも見つけて伝えてくれる。


 はしゃぐビビアンに、彼らは「君はきっといい錬金術師になる」との声までかけてくれた。


 嬉しくて嬉しくて。

 その勢いで聞こうか悩んでいたことが口から出た。


「あの! 初めの会場の錬金アイテム! 帰る前に見ていっていいですか?」

「ああ、もちろん」

「好きなだけ見ていくといい」

「やった! あ、でも外で兄ちゃんが待ってるんだった……」

「ならお兄さんを呼んでくればいい」

「いいの? じゃなかった。いいんですか?」

「ああ。いろんなものを見て、どんどん勉強するといい」

「はい!」


 試験官は騎士を呼び、ビビアンと兄を案内するように伝えてくれた。ビビアンは荷物を抱えて駆け出した。


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