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【閑話】王宮錬金術師採用試験会場にて(前編)

「ここが王都! 建物でっけえ」

「上ばっか見てないで、前見ろ。ぶつかるぞ。ほら、こっち」

「引っ張るなよぉ、兄ちゃん」


 初めての王都にはしゃぐビビアンは兄に引きずられていく。

 兄は自国の王都に何度も行ったことがあるから少しだけ余裕がある。


 けれどここは隣国。祖父から話を聞いているとはいえ、兄も来るのは初めて。少しだけソワソワとしているようだ。それでも大人らしく澄ましてみせる。


「遊びに来たんじゃないんだから、ちゃんと歩け」

「はぁい」


 そう、今日は兄弟で隣国まで遊びに来たのではない。ビビアンは王宮錬金術師採用試験を受けに来たのだ。


 といっても錬金術を始めてから一年経ったばかりで、ビビアンも自分が受かるとは思っていない。


 ただ募集要項に『年齢・勤続年数・出身国不問。ギルドに所属していない人でも可』と記されており、祖父に勧められたので、じゃあ受けてみようと。いわゆる記念受験というやつだ。


 兄はビビアンの付き添い。それから祖父が可愛がっていた『ジゼル』という錬金術師と、彼女を預かっている宿屋の夫婦に挨拶に行くことになっている。手紙と手土産を預かっていた。


 少し過保護すぎないか。兄もそう思ったらしく、詳しく話を聞いてみた。

 すると祖父が去った後、ジゼルは半ば強引にギルドを辞めさせられたという。宿屋の夫婦はジゼルが錬金術を止めないよう、新たな道を示してくれたのだとか。


 祖父は腰を押さえながら「私が行けたら……」と床を這っていた。風邪を拗らせた時にぐきっといった腰がまだ痛むらしい。


 年には勝てないと涙ぐんでいた。それだけ特別な相手なのだろう。


「ほら、あそこ旗が立ってる。みんな入ってるし。行ってこい。兄ちゃんも挨拶行ってくるから」

「終わったら迎えに来る?」

「ああ。どうせそんなにかかんないだろ。早く終わってもあの旗のあたりで待ってるんだぞ?」

「うん。分かった」


 バイバイと手を振ると、兄は早くいけとばかりに手の甲を見せながらひらひらとさせた。


 他の人達についていくように試験会場に入る。

 思ったより人が多く、自分と同じくらいの年の子もいる。


 それより気になるのは周りに飾られた錬金アイテムである。何に使うか分からないものもずらりと並んでいる。近くで見てもいいのか分からずにきょろきょろしていると、壇上に若い男の人がやってきた。


 彼が王宮錬金術師長らしい。挨拶から始まり、今回の趣旨や試験についての説明が長々と語られる。


 まだ幼いビビアンには細かいところはよく分からなかったが、配られた番号札を見える位置に貼り付けることと、会場で発表されたお題をクリアすると先に進めるーーということだけは分かった。


 一つ目のお題は中級ポーション。評価ポイントには瓶も含まれる。


 初歩よりも一歩先に進んだお題だ。

 王宮錬金術師試験としては少し優しすぎるが、その分厳しく見られるのだろう。


 だが作り方が分からずにリタイアということはない。運がよければ二次試験までいけるかもと希望が持てる。


「それでは各自生産を始めてください」


 王宮錬金術師長のかけ声で、錬金術師達は釜の前へと移動する。


 釜置きは様々な型が用意されていたが、ビビアンは完全に出遅れてしまった。残っていたのはカセットタイプだけ。


 普段大きな釜で錬金術を使っている錬金術師達には使いづらいのだろうが、ビビアンは毎日これと同じものを使っている。錬金術師の母が譲ってくれたのだ。使い慣れているものが使えてラッキー! と上機嫌で釜をセットする。


 魔力水を半分よりも少し上くらいまで入れてから材料を取りに行く。バッグの中からすり鉢とすり棒を取り出し、薬草をすりつぶしていく。


 周りがピリピリしている中、ビビアンは落ち着いていた。

 というのも、錬金術は母から習っただけで周りに母以外の比較対象がいないのだ。錬金術歴数十年の母と比べたら劣るのは当たり前。祖父は筋がいいと褒めてくれたが、自分の実力がよく分かっていないのだ。


 他の参加者達が次々とポーションを提出している姿を見ても全く焦らず、マイペースに釜をかき混ぜる。


 煮込み終わったらザルで濾し、冷ます。その間に釜を変えて魔力水を入れ、瓶作りに入る。


「よし、できた」

 ポーションに蓋をしてから、空いている試験官の元に向かう。笑顔で「お願いします」とポーションを差し出す。


「君は全く動じないんだな」

「ポーションを飲むのは怪我をしていたり、体力が落ちていたりする人だから、ゆっくりでも質を保ったものを作れって母ちゃんにいつも言われてるんです」

「いいお母様だな。……ポーションも瓶も問題なし。綺麗なものだ。これを持って、そっちの部屋に入るように」

「ありがとうございます」


 まさかの一次試験突破に頬が緩んだ。


 二次試験に進めたら、兄が好きなものを買ってくれると約束してくれたのだ。どんなに高いものでもいいという。ケーキでもアイスでもパフェでも。食べたいものがポンポンと頭に浮かぶ。


 何にしようかなと思いながら、次の部屋へと向かう。

 すると途中で試験官にくってかかる人達が目についた。


「ふざけるなよ! 俺達はあの『精霊の釜』所属だぞ」

「こんなところで落ちるはずがない。今すぐ審査しなおせ」

「私のポーションのどこが悪いっていうのよ!?」

「上を出せ! 下っ端じゃ話にならん」

「はぁ!? お前達の目、腐ってんじゃねぇか?」


『精霊の釜』とはビビアンの祖父、オーレルがいたギルドだ。次のマスターはジゼルを辞めさせた人で、彼が原因で現在は運営休止になっているらしい。


 所属していた錬金術師達は悪くないはずなのに、ここにいる人達は怖い。ビビアンは身体を小さくさせながら次の部屋へと移る。


 ドアをくぐると、冷ややかな目をした錬金術師達が迎えてくれた。彼らが軽蔑しているのはかなり遅れて入ってきたビビアンではない。ドアの外で騒ぐ大人達だ。


 ビビアンで最後だったらしく、すぐに第二試験のお題が発表された。


 今度は石けん。これまたビビアンでも作れるものだ。

 石けんなら何でもいいらしいので、洗濯石けんを作った。ビビアンの洗濯石けんは近所のマダム達にも評判がいいのだ。


 今度は時間制限が設けられていたものの、作り慣れていることもあり、難なくクリア。

 今回はかなり早く、三番抜けだった。次の会場に移動し、石けんの実演の際に使ったハンカチを乾かす。


 ビビアンが風魔法の出力調整に苦戦しているうちに、次々と通過者達が会場入りしてきた。


 椅子に腰掛けるや否や寝始める人、女性の錬金術師を口説き始める人、使った道具の手入れをする人。時間の過ごし方は様々だ。


 ハンカチが完全に乾いた頃、背の高い女性と少年が話しながら入ってきた。少年はおそらくビビアンと同じくらいの年。二人はビビアンの真ん前の席に並んで腰掛ける。


 聞こえてくる話では二人は知り合いで、たまたま第二試験会場で出会ったようだ。


 聞き耳を立てるのはよくないと思いつつも、自然と会話が耳に入ってきてしまう。


「でもリュカちゃんはこういうの嫌いだと思ってた」

「リュカちゃんと呼ぶなと言っているだろう。お前の頭には鉛でも詰まっているのか」

「そのトゲトゲしさも懐かし~」

「僕も来るつもりはなかったが、母上が王宮錬金術師以外許してくれないのだから仕方ないだろう。これでようやく母上の小言から解放される」

「元々オーレル様がいるからってオッケーでたみたいなものだもんね。そういえばジゼル見てない? あの子ならあれくらい突破できると思うんだけど、全然見つからなくてさ」


 オーレル、と聞いて、ビビアンはハッとする。祖父の名前だ。ジゼルは兄が挨拶に行った宿にいる錬金術師で間違いないだろう。


 どうやらこの二人も『精霊の釜』の所属錬金術師のようだ。先ほどの人達みたいな怖さはなく、安心して近くに座っていられる。


 係の人が配り歩くお茶を飲みながら、一息吐く余裕さえある。



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