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5.パンケーキを切り分ける

「じゃあ早速取り分けちゃうね」

「ああ、頼む」

「たーちゃんこれがいい」


 フルーツサンドをそれぞれの皿に盛ってから、ナイフとフォークを取ってもらう。

 パンケーキはまずたーちゃんの分を少し小さめにカットする。さらにそこから一口大に切り、マロンのクリームと刻まれたマロングラッセをいくつか載せる。


 ドランとジゼルは残った分をちょうど半分こ。

 一緒に食べに行くと二種類のものを分けることも多いので、すっかり慣れっこだ。ジゼルも王都に来たばかりの頃よりカットするのが上手くなった。


 ドランは気にしないと言ってくれるけれど、綺麗に切れた方がいいに決まっている。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 二つのお皿を見て、盛り付けが綺麗な方をドランに渡す。

 すでにたーちゃんは食べ始めていた。口がパンパンになるほど詰め込んで「おいひいねぇ」と幸せそうだ。


「ドラン、今日は誘ってくれてありがとう」

「ああ」


 軽く返事をしながらパンケーキをもぐもぐと食べ進めていくドラン。彼も気に入ったようだ。


 ジゼルはフルーツサンドを頬張る。

 甘さ控えめの生クリームとぶどうの相性がちょうどいい。パンはふわっとしており、全体的に軽めだからこそ、時間をおかずに二個目にも手が伸びてしまう。


 ドランが選んでくれたあっさりめの紅茶との相性も抜群だ。

 パンケーキもマロンクリームが絶品で気付いたら口の中で溶けている。


「おいひいね」


 つい、たーちゃんのセリフと同じ言葉が口から出てしまう。

 ドランはクスッと笑うが、彼だって同じように幸せに満ちた顔をしている。


 二人と一匹でお皿を綺麗にした後、机の横に避けていたメニューにドランの手が伸びる。


「もう一個頼もう」

 彼もまだまだ食べ足りないようだ。


「賛成」

「たーちゃんもたべる~」


 満場一致で追加注文が決まり、頼んだのはフルーツサンド。

 もう一度食べてしっかりと味を覚えてから、親父さんに作ってもらおうという話になった。揃ってここで終わりにするつもりはない。


 食い意地が張っているとは思うが、みんながそうなら楽しめる。

 運ばれてくる間もどんなフルーツを挟んだら楽しいかという話で盛り上がったのだった。



「じゃあ帰るか」

 すっかりと満たされたお腹を撫でる。ここまで食べれば満足だ。


 追加のフルーツサンドと一緒にお土産用のフルーツサンドも届いている。お会計に行くのはいい。だがドランが伝票を持つことには賛成できない。


「ドラン、それ渡して」

「今日は俺が払う。お土産も大量に買ったし、行きにたくさん錬金飴もらっただろう?」

「ダメ。あれは今日の連れてきてもらうからって用意した分。たーちゃんがやってきた日のお礼させて?」

「そんなの気にしなくていいのに……俺はジゼルが頼ってくれて嬉しかったし」


 しょんぼりと肩を落とし「次にまた一緒に出かけてくれればいい」と言い出すが、その手には乗らない。ドランと一緒に出かけたいのはジゼルも同じなのだ。お礼がなくなる理由にはならない。


「だーめ。今日は私が払うの」

「分かった。でもせめてお土産代だけでも払わせてくれ」

「そう言って会計を済ませた過去があるので認められません」


 胸の前で大きなバツを作る。

 ドランが困っているうちに彼の手から伝票をひったくる。


「たーちゃん見ててね」

 そう言い残して、ささっと会計を済ませてしまう。


 ドランはよく「ジゼルが思っているより稼いでいる」と言うが、今のジゼルも似たような状態になっている。腹巻きなんてなくても懐はぽかぽかなのだ。


 こういう時に奢らせてもらわないと、この先、流され続けてしまうから。

 店員さんに笑顔を向けながら、財布から金貨を数枚取り出す。


 戻ってきたジゼルに向けられるのは、ドランの物言いたげな視線だった。ジゼルも似たような視線を向けたことがある。だから全く気にならない。


 たーちゃんをソファに下ろし、敷き布をバッグにしまう。


「ほら、お土産持って。帰ろう」

「……ああ」


 まだ納得いかないようだが、ジゼルが手を引けば重い腰をあげた。


 もちろんジゼルだって、ずっと今のままの売り上げが続くなんて思っていない。今は物珍しいから広まっているだけ。


 一年もすればお客さんは本当に必要としている人のみになる。お小遣い程度の売り上げになるかもしれない。


 でもそれでいいのだ。

 お金に困るようになったらまた違う仕事を探せばいいだけ。


 錬金飴を売り出したことで、錬金術を使って働くにしても錬金ギルドに限定する必要がないと気付いた。


 だからお礼の意味もあるけれど、余裕があるうちにこうして美味しいものや楽しいことに使ってしまいたかった。



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