15.たーちゃん
「これで契約っていうのは終わったのか?」
「うむ。問題ないぞ」
「じゃあジゼル、たーちゃん。帰ろうか。それからドラン、フルーツティーってやつを作ったから仕事が終わったら飲みに来るといい」
「ご馳走になります」
たーちゃんの籠を受け取り、親父さんと三人で宿へと戻る。
配達ギルドを出る際、ギルド内の大時計をチラリと見る。宿を出てからかなりの時間が経っていた。
急いで出てきたため、ろくな説明もしなかった。
親父さんが心配で奥を覗くのも納得である。帰ったら女将さんに謝らなければ。その後でたーちゃんのことも話して……。
「ジゼル? どうかした?」
「ううん、なんでもないよ。帰ったら女将さんに挨拶しようね」
「おかみさん、しってる!」
「え、知ってるの?」
「ずっとみてた。おやじさんとなかよしで、ジゼルにやさしくしてくれるひと」
「そうそう」
見てた、か。きっと今は姿を見せるようにしているだけで、今までは隠れていたのだろう。そういうセリフを聞くと、精霊なのだと改めて実感する。
帰ってからすぐに女将さんの元へ足を運び、たーちゃんを紹介したのだが……。
「この子なら前からうちにいるわよ」
「え」
「そうなのか!?」
女将さんの言葉に、ジゼルと親父さんは目を丸くする。
顔は全く似ていないのに、表情はよく似ている。女将さんはそれがおかしかったのか、ふふっと小さく笑いを溢した。そしてたーちゃんを見かけた時のことを教えてくれる。
「外でお腹出して寝てるんだよ。前にボスとお話しているところを見かけたからそのままにしていたけれど、まさか精霊だったとはねぇ」
「初耳です……」
ボスとはこの一帯の動物のトップに立つ猫である。
人の言葉が分かるようで、ご飯と寝床を用意してもらう代わりに怪しい人間を見つけた際には教えてくれるのだ。
不遜な相手には容赦ないが、子どもには優しく、面倒を見てくれることも。
地元の人達のボスへの信頼度は非常に高く、王都に店を構える人達は『ボスの目が光っているうちは動物は悪さしない』と断言するほど。
女将さんがたーちゃんを放置していたのにも納得だ。
ちなみにボスはジゼルが王都に来るよりもずっと前からおり、もう五十年は生きているのでは? と話す人もいる。
知らない間に似たような猫がボスに成り代わっているのだろうと思っていたが、もしかしたらボスもまた精霊なのかもしれない。
「中で寝るならベッドが必要よね」
「俺が昼休憩の時に作っておく」
「いいんですか?」
「ああ。その籠にフィットするようにでいいか?」
「うん。たーちゃん、ベッドはじめて。たのしみ~」
「そうかそうか」
犬好きの親父さんはすっかりたーちゃんを気に入ったようだ。よしよしと頭を撫でてからキッチンへと入っていった。
「じゃあ、私も働かないと!」
「たーちゃんもがんばる!」
「そうだ。ジゼル、手紙が届いてるよ」
「ありがとうございます」
手紙を受け取り、部屋へと戻る。
そして手紙の中を確認してから、いつものように錬金飴作りを開始した。
「ぽんぽこぽんぽこ。あめちゃんげんきにそだってね~」
釜をかき混ぜている間、たーちゃんは何やら不思議な声かけとダンスをしながら応援してくれる。
これがたーちゃん流のお手伝いらしい。
釣られてジゼルも釜の中の飴に声をかける。
「元気に育ってね~」
「ぽんぽこぽんぽこ。いっぱいいっぱいできますように~」
「いっぱいできますように~。ってあれ?」
釜をかき混ぜていると、昨日よりもたくさんの飴が浮いてくる。穴あきお玉で掬ってもどんどん湧き出てくる。
一回分を全て掬ってみると、昨日よりも二十個近く多い。それに形は綺麗なものばかり。
他の釜の分も同じだ。
これがたーちゃんの応援パワー?
「たーちゃんって凄いね!」
「うん。たーちゃんはすごい。すごい、おなかへったぁ……」
コテンとお尻を付き、お腹を摩り始める。
踊り疲れてしまったようだ。でき上がっている飴をいくつかあげると一つを残して籠に隠してしまう。そして残りの一個は器用に包み紙を剥がしてから頬張った。
飴を入れていた籠は完全にたーちゃん専用籠になってしまった。
瓶に入りきらなかったものや不揃い品を入れていたとはいえ、なければないで不便だ。
だが気に入っているものを取り上げるのも可哀想なので、今度材料の買い出しに行くときにでも新しい籠を買ってくることにしよう。
「おいひい」
「それはよかった」
たーちゃんは一回の調合が終わるごとに一個ずつ食べるようだ。今日は六個。
それに加えて、親父さんがベッドと一緒に持ってきてくれた果物と野菜の盛り合わせをペロリと完食。
膨れたお腹を軽く叩きながら早々にふかふかベッドで眠り始めた。
可愛らしく、適応力の高い精霊だ。
むにゃむにゃと幸せそうに眠るたーちゃんに和みながら、手紙の返事と案内をしたためるのだった。




