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4.ドラゴンの匂い

「ようやく見つけた! リドリー。お前、ここで何してるんだよ」

「よぉドラン。案外早かったな」


 リドリーは片手を挙げ、ドランに軽く返事をする。

 まるでドランが来ることを想定していたかのよう。


「お前もアイス食うか? 奢るぞ?」

「いや、遠慮しとく。そんなことよりなんでジゼル達と一緒にいるんだ? 海のドラゴン使いが縄張りを離れてこっちに向かってるって連絡が来たから、慌てて駆けつけたってのに……。お前に限ってありえないとは思うが、ジゼルに一目惚れしたなんてことは……」


 ドランはワナワナと震え始める。

 一方、リドリーはハンッと軽く一蹴する。そしてアイス山盛りスプーンを口に運んだ。


「あれだけ牽制しといてそりゃあねぇだろ。そこのたぬきだって、俺様がそんな目で見てたらこうして同じ席に着くことを許しちゃくれねぇだろ。なぁ?」

「たーちゃん、ジゼルまもるよぉ〜」

「つまりたーちゃんはコイツを大丈夫だと判断したってことか?」

「うん! おじちゃんとおんなじにおいした!」


 元気よくお返事したたーちゃん。ぴょんぴょんと跳ねてご機嫌である。

 まさか匂いで判断していたとは思わなかった。言われたリドリーも意外そうな表情を浮かべている。


 だが警戒していたジゼルとは違い、たーちゃんが初めから安心していたのも納得である。


「ドラゴン特有の匂いってことか? 四六時中一緒にいるから匂いが移っちまってるのかもな。まぁ今後も俺様が嬢ちゃんに手を出すことはねぇから安心してくれや」

「いじめない?」

「だから馬鹿にしたわけじゃねぇんだって」

「ジゼルに何を言ったんだ」


 ドランはリドリーにじっとりした目を向ける。


「おいおい、そんな目で見るなって。俺様はただクイーンを知らなかったから少し驚いただけだ」

「? なんで初対面でいきなりクイーンの話になるんだよ」

「最近、うちの港から少し離れたところで見つけたんだ。お前、前にジゼルに食べさせたい〜とか何とか言ってただろ?」

「確かに言ったが……。もしかしてそれを伝えるために港を離れたのか!? お前が!?」


 ドランにとっては珍しい魚よりも、目の前の彼の行動に驚いているようだ。嘘だろ……と目を丸くしている。


「いや、今日はお嬢の誕生日会に参加してもらえないか頼みに来た。クイーンは参加してもらえた時の対価だ」

「なるほどな。だがロアちゃんとジゼルってどこかで会ったことあるのか?」

「ない。錬金飴を作った錬金術師と、たーちゃんのレモネードってやつに興味があるみたいでな。サプライズで招待したら喜ぶだろ?」

「サプライズってお前……。招待される側の都合も考えろ。先月会った時、一言言ってくれれば俺だってジゼルに伝えるくらいのことは」

「しないだろ」


 リドリーは即答する。

 しばらく考える様子を見せたドランだったが「……しないな」と答えを出した。


「ジゼルの仕事を邪魔するわけにはいかないからな」

「ならやっぱり俺様が直々に来るのが正解だってわけだ。実際、嬢ちゃんは迷っているようだが、たぬきの方は興味津々だ。それだけで来た甲斐があったってもんだ」

「は?」


 リドリーは「ほら」とたーちゃんを指差す。


「おやじさんとおかみさんにおいしいのあげるのっ!」

「たーちゃん、モノで釣られるなよ……。魚くらい、俺が美味いのをいくらでも取ってきてやるからさ」


 ドランは呆れた表情だ。いくらドラゴンさんと同じ匂いがしたとはいえ、初対面の相手にそこまで気を許すなとでも言いたげである。


 だがたーちゃんはかなり乗り気だ。

 ドランの言葉はまるで心に響いていない。


「めずらしいおさかななんだって! おかみさん、おさかなだいすきだからよろこんでくれるかなぁ〜」


 両手を頬に当てながら、えへへ〜と頬を緩めている。すでに頭の中で喜ぶ女将さんの姿がバッチリ想像できているのだろう。


 たーちゃんとの様子に、ドランの方が考えを変え始める。


「確かに二人とも、クイーンが食べられるって知ったら大喜びだろうな……。いつもお世話になっているし、美味しい物を食べさせたい。だがまだ巣も完成していないのにここを離れるなんて……。ドワーフの里は例外だと思えても港まで行くのはなぁ」


 悩むドラン。世界樹に続く穴に祝福を授かりに行く際も迷っていた。その時背中を押したドラゴンさんはこの場にはいない。


 代わりにリドリーが答えた。


「日帰りならセーフだろ。嬢ちゃんも仕事の関係で、あんまり留守にしたくないだろうし。その辺りは迷惑をかけないよう、ちゃんと考えてある!」

「日帰りならまぁ……。って、普通に話してるが、なんでお前がジゼルのスケジュールを把握してるんだ!? いや、知ってたとして、お前がこの時期に港を離れるなんてやっぱり変だろ……。何かあったのか?」

「俺様も気を遣ったってことだ」


 リドリーはふふんと鼻を鳴らしながら、残りのアイスをかき集める。

 そして四種類のアイスが混ざったスプーンを口に運んだ。「やっぱアイスは最後のが一番美味いよな〜」とご満悦である。


 彼が港を離れた云々はジゼルには分からない。

 だがジゼルのスケジュールに関しては、錬金飴がレヴィ海運に届いたタイミングから何となく察してくれただけだろう。


 ジゼルも手元のカップにたくさん入ったままのアイスを一掬いする。


「気を使えるやつは、初対面の相手に二日後の予定を持ちかけたりしない」

「そうだ、ドラン。なんで俺様のこと話してないんだよ! お前のせいで嬢ちゃんを驚かせちまったじゃねぇか」

「来るって知ってたら先に話しておいたんだが!?」

「そんなわけで、明後日ウチに来てくれよな! たーちゃんのレモネードってやつもよろしく頼んだっ!」


 俺のせいにするな! と突っ込むドラン。リドリーはどこ吹く風。

 空になったカップとスプーンを持ち、逆の手を大きく振る。「じゃあな!」とまるで嵐のように去っていったのだった。



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