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3.リドリー

「遠慮すんなって。一つに選べないなら、俺様と同じで全部選べばいい」

「ジゼル、あいすすきじゃない?」


 ガハハと豪快に笑う男と、しょんぼりするたーちゃん。

 マイペースな二人にジゼルは困ってしまう。


「アイスは好きだけど、知らない人に奢ってもらうのは気が引けるというか……」

「ん? あんた、俺様のこと知らねえのか?」


 男は山盛りのアイスを受け取りながら、表情を歪める。

 有名人だったのかもしれない。気を悪くしてしまったようだ。


「私、あまり国外のこと知らなくて……」

「あー、嬢ちゃんは悪くねぇよ。突然知らねえ男から話しかけられて怖かったろ。嬢ちゃんも俺様のことを知ってるもんだと思ってよぉ。ドランのやつ、ちゃんと紹介しとけってんだよなぁ〜」

「ドランの知り合いなんですか?」

「おう! レヴィ海運のドラゴン使い・リドリーったぁ俺様のことよっ!」


 男はドンっと胸を叩く。

 リドリー本人のことは知らないジゼルだったが、レヴィ海運という名前には聞き覚えがあった。錬金飴の販売契約を結んだギルドの一つだ。


「もしかして錬金飴の配送の件でしょうか? それなら宿屋ギルドさんの方にお任せしておりまして」


 レヴィ海運はギルド職員のみが使用するという契約であり、ひとまず『疲労回復効果のある錬金飴』のみを購入希望と聞いている。急ぎではないとのことだったが、職員に渡したのはもう半月以上も前のこと。


 すでに到着していると思っていたのだが、配送は宿屋ギルドに任せきり。

 聞かれても答えられない。手間をかけさせて申し訳ないと頭を下げる。


「ん? ああ、飴の方は問題ない。一日一個って制限があんのが気になるけど、結構美味いのな。ポーションみたいなもんだと思ってたけど、うちのお嬢もすっげぇ喜んでた。あんがとな」


 男はニカっと笑う。

 そしてたーちゃんとジゼルの分のアイスを注文した。


「ほら。落とすなよ」

「ありがとぉ〜」


 ジゼルの分はリドリーと同じ全種盛りになっていた。それも大量購入した客へのサービスなのか、先に渡された分よりも明らかに多い。


「嬢ちゃんのは大きいから、あっちまで運んでやるよ」

「あ、ありがとうございます」


 二人と一匹で近くにあるパラソル付きのテーブルに移動する。ジゼルはたーちゃんを抱き上げ、椅子に腰掛ける。


 気付けば、たーちゃんの手元のアイスは半分以下になっていた。

 ちらちらとジゼルのカップを見ている。他の味も気になるようだ。食べすぎにはなってしまうが、ジゼルはこれを一人で食べきれる自信がない。手伝ってもらえるととても嬉しい。


「たーちゃんのカップに入れてあげる。どの味がいい?」

「ぜんぶ!」

「お前さんのも全種盛にすればよかったな」

「いえ、二人で食べるくらいでちょうどいいので」

「そうか? ならいいけどよ」


 リドリーは店から渡された物とは別の、木製スプーンでアイスを口に運んでいく。

 普段からマイスプーンを持ち歩いているのだろうか。かなり使い込まれている。


「ねぇねぇ、ドランとおじちゃんにどんなごようじぃ?」


 アイスをスプーンに山盛り掬って食べ進めていたリドリーだったが、ピタリと手を止める。

 そして真っ直ぐにジゼル達を見た。


「今日は嬢ちゃんとたぬきに相談というか、お願いがあってきた」

「私達にですか?」

「明後日開催するお嬢の誕生日会に参加してもらえねぇか? もちろん、タダでとは言わねぇ。半月前、近くの海域で『クイーン』が見つかったんだ。参加してもらえるなら身の部分以外の素材をあんたらに譲る。身だって夕食として振る舞うつもりだ。な? 悪い条件じゃねぇだろ?」

「クイーンって魔物、ですか?」


 話しぶりから察するに貴重な生物なのだろう。

 だがどのような生き物なのかがまるで想像できない。


「なんだ、嬢ちゃん。クイーンを知らねぇのか」

「ジゼルをいじめないで!」

「結構有名だぜ? クイーンを食わずして美食家は名乗れずって言われてるくれぇだ」

「おいしいのぉ?」

「美味い。それもクイーンは特殊な魚でな、捕獲難易度が高いのはもちろん、クイーン個体自体の発生率は低いんだ。五年に一度、どこかの海で生まれるかどうかってところだな。しかも今回見つけた個体はかなりの大きさだ。俺は錬金術のことはよく分かんねぇけど、使える素材もあるんじゃねぇかと思う。まぁなくても、売れば結構いい額になるはずだ」


 かなり珍しい魚のようだ。

 だがそこまでして、なぜ誕生日会に参加して欲しいのかが分からない。


 ジゼルがレヴィ海運の名前を知ったのは、錬金飴の販売契約の話を聞いた時だ。リドリーはもちろん、かのギルドの人達と会ったことはないはず。いや、誕生日会に招待してくれるくらいだ。お嬢と呼ばれる女性にどこかで会っているのだろうか。


 親しい相手となると思い浮かばない。

 だが錬金ギルドに所属していた頃に仕事を頼まれたことがある相手まで含めると、かなりの人数がいる。会えば思い出せる相手ならいいのだが……。


「たーちゃん、たべられるのがいい」

「誕生日会に来てくれるなら土産まで用意するぜ。宿屋に下宿してるんだろ? そこの人らにも食わせてやるといい」

「やったぁ~。おやじさんとおかみさんよろこぶねっ!」


 たーちゃんは早くも乗り気だ。ジゼルの顔を見上げ、満面の笑みをうかべている。

 ドランの知り合いということもあり、信頼しているのだろう。美味しい魚を宿屋夫婦に食べさせたい気持ちも強いのかもしれない。


 だが明後日はドラン達と過ごす予定。今はそのための買い出し途中だった。リドリーには申し訳ないが、急な誘いということもあり、断っていいものかと思案する。


 その時だった。


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