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1.一段落

「これが今日の分です。宿屋ギルドさんの分は赤いリボンを付けた瓶の中に、他はいつも通り種類ごとに三百個ずつ入れてあります」


 ジゼルは錬金飴が詰まった大瓶を男性に渡す。

 彼は宿屋のお客さんではなく、宿屋ギルドから派遣された職員である。


 ドワーフの里から帰還して早二ヶ月。

 ジゼルブランド化へ向けて本格的に動き出していた。これらの錬金飴は全て新たに契約するギルドに販売する分。追加分も含め、すでに同じ量を十二回納品している。


 順番や量は完全に宿屋ギルド任せ。

 その他の細々とした雑事も宿屋ギルド側が引き受けてくれた。おかげで錬金飴の生産に集中できる。


 それでも一般販売分の生産もあり、たーちゃんもジゼルも忙しい日々を送っていた。だがそれも今日で一区切り。


「追加分のご対応までありがとうございます。ギルドに戻り次第、確認させていただきます」


 男性はペコリと頭を下げる。隣で控えていた職員と共に錬金飴入りの瓶をせっせと馬車に積み込む。五日に一度行われるこのやりとりも慣れたものだ。


 宿の前でのお見送りも済ませ、ふぅっと息を吐く。

 カウンターまで戻ると、客間のドアからたーちゃんが顔を出した。


「ジゼルぅ、あめわたしたぁ〜?」


 たーちゃんの目はまだトロンとしている。眠そうだ。

 錬金飴の生産頻度が増えたことで、たーちゃんもお手伝いを張り切ってくれた。その分、やはり疲れやすくなってしまい、生産以外の時間はお昼寝していることが多くなった。


 今日も客間で作業しているジゼルの隣で熟睡していた。巣を持ち込み、中で丸くなるように寝ていたので声をかけなかったのだが、ジゼル達の話し声で目を覚ましたのだろう。ふわぁと大きなあくびを漏らしている。


「今運んでもらったところ。ひとまずはこれでギルドからの注文分は終わり。お手伝いありがとうね」

「うん。たーちゃんすっごくがんばったよ〜」


 ほめてぇ〜とジゼルの足元までやってくるたーちゃん。ジゼルはたーちゃんを抱き上げ、頭を撫でる。目を細めて嬉しそうだ。


 たーちゃんを抱っこした状態で、ジゼルは客間に戻る。

 つい先程まで発送する分の錬金飴を詰めていたのだ。箱詰めして手紙を入れたら、配達ギルドに持っていかなければ……。


 残りの予定を頭の中で組み立てていく。


「たーちゃんもてつだったあげるねぇ〜」

「でも午前中もいっぱいお手伝いしてもらったし……。これくらいなら私一人でも大丈夫だから、たーちゃんは寝てて?」

「もうねむくないからだいじょぶ! ジゼルのおてつだいしながらドランまつ! もうかえってくるかなぁ〜」

「うーん、今日はちょっと遠くまで出かけるって言ってたから遅くなるかも。その代わりに明後日はお休み取ってくれたんだって。久々にみんなで一緒に過ごせるよ」

「たのしみだねぇ」


 ジゼルとたーちゃんが忙しくしている間、ドランとドラゴンさんも巣作りを頑張ってくれていた。世界樹に続く穴に誓いを立ててから、ますます力が入っている様子。


 ドラン曰く、あと少しで巣が完成するとのこと。

 ただ納得のいく色味のレンガがなかなか見つからないようで、今はレンガの素材探しに奔走している。だが「あと少しなんだ」と教えてくれたドランの目は輝いていた。


 巣作りに関しては二人に任せきりで申し訳なくもあるが、楽しそうなドランの顔を見ていると嬉しくなる。思い出したら自然と頬が緩んだ。


「あ、そうだ。お片付けとお手伝い終わったら、荷物の発送を頼みがてら一緒に市場を見て回ろうか」

「なにかうのぉ?」

「明後日みんなで食べるお菓子の材料。時間もあるし、簡単な物にはなっちゃうけど、キッチンを借りて私がお菓子を作ろうかな~って思ってるんだ」


 巣作りを頑張ってくれているお礼、にはならないかもしれないが、せっかくの休日なのだ。久々にお手製のお菓子を振る舞いたい。


「ジゼルのおやつ! なにつくるのぉ!?」

「クッキーかマフィン、パイあたりかな〜」


 キッチンのオーブンを使う許可は事前にもらっている。

 ジゼルが使える時間はピークタイムと仕込みの時間以外。片付けが終わった夜か、朝の仕込みが始まる前の時間が無難だろう。そうなると作るのは時間が経っても美味しい物。加えてジゼルが失敗せずに作れるおやつとなると限られてくる。


 自然と浮かぶのは毎回同じものばかりだった。

 いっそ錬金飴のように、食べられる物を錬金術で作ってみるのもいいかもしれない。そんな考えが一瞬頭によぎる。だがすぐに「親父さんが作ったお菓子には勝てない」と否定する。


 ジゼルは毎日親父さんの愛情がこもった料理を食べていることもあり、食事とお菓子のハードルは非常に上がっていた。錬金飴も美味しく食べてもらえるよう、味にはこだわっている。だがお菓子ではない。


 ジゼルが錬金釜で作るお菓子は、ドランとドラゴンさん用に作っている『ただの飴』だけなのだ。


「ぱい、あっぷるぱいとおんなじ?」


 たーちゃんはパイが気になったらしい。

 最近おやつに作ってもらったアップルパイを思い出しながら、首を傾げる。


「アップルパイ以外にも色々あるよ。ベリーパイやパンプキンパイ、チェリーパイ、レモンパイ、プラムパイとか。あ、あとお菓子じゃないけど、ミートパイとかグラタンのパイも美味しいんだよ」


 ジゼルは幼い頃に食べた数々のパイを思い出す。

 母はパイを焼くのが得意で、旬の果物や野菜を使ったパイをよく焼いてくれた。


「いっぱいおいしそうだねぇ」

 たーちゃんはじゅるりと涎を垂らす。ジゼルも話していたら久々に食べたくなってきた。二人ともすっかりパイな気分になっていた。



新章開始しました!


現在発売中の書籍1~3巻&コミック1巻もよろしくお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ

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