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10.いざ世界樹に続く穴へ

「こっちだよぉ~。こっちこっち」

「はしゃぎすぎて転ぶなよ」

「だいじょおぶ!」


 夜になり、ランプを手に森に向かう。

 先頭を歩くのはたーちゃんだ。今の時間は冷えるため、女将さんと親父さんが作ってくれたお洋服を着ている。


「きれ~だねぇ。おはな、おじちゃんもみれたらよかったのに」

「夜光花、とは違うのかな。こんなに強く光る苔も初めて見た……」


 入り口から少し歩いた場所に光る泉があった。正確には光っているのは泉そのものではなく、中に生えている苔と水面に浮かんでいる花。それにより泉とその背後にたたずむ大樹は幻想的な雰囲気を醸し出している。


 これほど明るければランプを持ってこなくても大丈夫だったかもしれない。


「あなあった!」

「あ、本当だ。思ったより大きいね」

「ん? どこだ?」

「樹の根元。ちょうど真ん中くらいかな。私達が通れるくらいの穴がある」

「はやくいこ!」


 たーちゃんは興奮しながらジゼルの手を引く。少し距離があるが、泉の周りをぐるりと半周すれば迷うことはないだろう。道も綺麗に整備されており、木も等間隔に植えられている。


 ドワーフ達は特別な時以外はこの森に出入りしないと聞いていたが、誰かが常に管理しているのかと思うほどだ。


「焦らなくて大丈夫だよ。苔で滑ったら大変だからゆっくり行こう?」

「苔で滑る?」

「苔はそんなに強く張り付いているわけじゃないから、走った時の摩擦で剥がれるとこう、ツルッといって」

「苔がこの辺りの石に生えてるのか?」

「泉の周りに生えているのもそうだよ?」


 ドランの質問の意図が分からず、首を傾げる。するとたーちゃんはその場にしゃがみ、泉の周りの苔を指す。


「これだよぉ」

「ごめん。さっきからジゼル達が話している『泉』が俺には見えてないんだ。森に入ったばかりのところから風景も全く変わってなくて、たーちゃんが指している場所もただの土にしか見えない」

「え? でも嘘じゃなくて、本当に私にはここに泉があるように見えてて……」

「ああ、それは分かってる。俺はジゼルの言葉を信じてる」


 困惑するジゼルの肩に手を置き「俺がジゼルを疑うわけないだろ?」と笑う。ドランの心からの信頼が胸に染みる。


「ドラン……」

 彼は確認のため、泉のある方向を指す。


「こっち側に泉と穴があるんだよな?」

「うん! おっきなきのしたのところ!」

「俺がおやっさんに聞いた話によると、世界樹に続く穴は森の入り口から道なりに進んだところにあるらしい。石で囲まれた小さな水たまりがあって、その後ろに生えている木にリスの巣くらいの小さな穴があるから、そこに祈るのだと。泉の話は出てこなかったし、実家でも聞いたことがない。だからジゼル達に見えているのはおそらく、見つけられる人が限られた特別なものなんだと思う」

「あれはちがうあな?」

「どうだろうな。ちょうど道も少し進んだ場所でカーブしてるから、同じ場所に到着するかもしれないし、別の場所に到着するかもしれない」

「そっかぁ。ちがうのだったらたいへんだね」

「そうだね。それにたまたま見えただけで、ここはドワーフさん達の特別な場所。私達が踏み荒らしたらいけないよね。ドランに見えている道の方に行こう」


 ジゼルは来訪者だ。この森を守ってきた精霊とドワーフに立ち入りを許してもらっている身である以上、彼らの行動に準じるのが筋というもの。


 ドランとたーちゃんもジゼルの意見に納得してくれた。コクリと頷いて先ほどの道まで戻る。


 その時だった。

 背後からキュキューと動物の鳴き声が聞こえてくる。それも最近聞いたような声。どこかで仲間を呼んでいるのだろうか。別の方角からも似たような声が聞こえてくる。


 一体どれほどの動物がいるのか。ジゼルはきょろきょろと辺りを見渡す。

 するとたーちゃんが先ほどの樹の根元を指した。


「しまさんだ!」

 声に合わせて、シマさんが穴からひょっこりと顔を出す。そしてそのまま泉の上を颯爽と歩く。歩いた後で水の波紋ができて、次の輪と混ざり合う。そのまま真っ直ぐ進み、ジゼル達の前に立った。


 ドランには突然目の前に現れたように見えたらしい。ランプを持つ手と逆の手でジゼルを自分の背に隠す。


「キュキュッキュキュッキュ~」

「ジゼルとドランはちかいをたてにきたんだぁ。おじちゃんがだいじなことっていってた!」

「キュッキュ!」

「いっしょにいかない。ばいばぁ~い」


 たーちゃんがバイバイする。

 シマさんはしばらく粘っていたが、たーちゃんは首を横に振って拒否を続ける。どうしたものか。たーちゃんにシマさんの言葉が聞ける状況ではなく、精霊の言葉を理解できるドラゴンさんもガーネットもいない。


 ジゼルもドランも困ってしまう。するとその場に聞きなれない声が混ざった。


「いつまでやってんだ。それ以上話したところでそこの精霊の意思は変わんねぇんだから、諦めろ」


 ジゼルとドランが同時に振り返る。そこにはドワーフが立っていた。

 長い髭を金色の輪っかでまとめている。両耳を覆うイヤーマフも特徴的だ。服装はクオッツ達、里のドワーフとあまり変わりない。防寒のためではなく、防音用のアイテムだろうか。それにしては普通に会話が聞こえているようにも見えるが……。


 男はジゼル達の警戒の視線など気にすることなく、シマさんを抱き上げる。


「ほら、帰るぞ」

「キュッキュ!? キューキュッキュッキュキュキュウウウウ!」

 シマさんが泣き叫ぶ。ドラゴンさんを恐れていた時とは違う。怒っているようだ。


「強引に連れてったところで喜ぶような奴らじゃねぇだろ」

「あなたは」

「ん? ああ、俺はそこの里出身のドワーフだ」

「嘘だ」


 ドランが即答する。同時に警戒の色が強まった。ジゼルは手招きをして、たーちゃんを抱き寄せる。危ない人であれば、すぐに逃げなければ……。



HJノベルス様10月刊行作品のちょこっと立ち読みが公開されました!

ジゼルの錬金飴③は冒頭40ページほどお読みいただけます(/・ω・)/下記のリンクから是非!

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詳しくは活動報告またはHJノベルス様のHPをご確認ください。

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― 新着の感想 ―
里出身だけど普段は精霊さん達の里で暮らしているドワーフでしょうか? ドランが里に来るようになった時には既に精霊の里暮らしでドランは知らなかったとかですかね? たーちゃんとジゼルが見えてる光景はカラー…
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