第九話 発酵
1882年 (明治15年) 6月
帰国した市太郎は、すぐに乳酸の製造方法を研究した。そして…
「さっぱりわからん。何度、殺菌していない牛乳を発酵させても酸味が生まれるだけで甘く無い。…うーん、どうしたらいいんだ…」
「頭を抱えてどうした?市太郎。」
不思議そうに市兵衛が市太郎に尋ねた。
「親父…カルピスが作れないんだ…」
「カルピスって、あーお前が言っていた新しい飲み物か。…まあ、何事もそうゆうもんだろ。最初から上手くいくわけない。…何が上手くいかないんだ?」
「牛乳が甘くならないんだよ…」
「うーん、なら最後に砂糖を入れればいいだろ。」
「親父は馬鹿か?砂糖を入れただけで、あのカルピスの味になると思っているのか?」
「いや、儂はカルピスを飲んだ事ない。」
「あー、それとだ。一か月後の7月19日に、お前に会わせたい人がいる。とても大切な人だ。…だから絶対来い。これはお前の為でもあるんだぞ。」
市兵衛がいつになく真剣にそして、念入りに言った。だが、市太郎はカルピスを作る事で頭がいっぱいで空返事をした。
「あー、分かった分かった(分かってない)。…砂糖か…。うーん…分からん。もう頭が回らん、一回寝よう。」
次の日
「そう言えば、牛乳を一次発酵させた後に、砂糖を入れた状態で二次発酵させた事ないな。…やってみよう。」
出来て飲んでみると…
「うーん、惜しい。惜しいんだけどなんか違うんだよなぁ。口当たりとか。」
「牛乳がダメなのか?…生乳の脂肪分を抜いた脱脂乳でやってみよう。」
そう言って、会社のデスクから出て行った。
「副社長、中国から帰って来て、独り言がかなり増えましたよね…。」
「私もそう思う。…もともと変な人だと思っていたが、より変人化が進んでいるな…」
そう言う会話が、本居部長と三宅部長の間であったとかなかったとか。
脱脂乳で一次発酵させた後に、砂糖を入れた状態で二次発酵させた物が出来上がり、市太郎は恐る恐る口にする。これでも上手くいかなかったら、もうお手上げだからだ。
「カルピスに極めて近い!…後は少し味を整えれば、完全にカルピスの完成だ!」
そう言いながら市太郎は、カルピスが出来た事の嬉しさの余り踊り狂っていた。
因みにだが、本家のカルピスはカルピス菌と言う菌を発酵させて作っているのだが、コイツはたまたま使っていた菌はそのカルピス菌に極めて近い物であった。
そのまま市太郎は、カルピスに極めて近い物を作り上げた。そして、それにカルピノとつけた。最初はカルピスと付けようとしたが、カルピスのピスは英語で尿を表す為、それを避けた為である。
こうして、後にカルピノを始めとした多くの飲料水を発売し、日本最大手の飲料水メーカーとなる大阪飲料が誕生した。
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