第六話 人生の墓場
1881年 (明治14年) 8月
市兵衛が北海道から帰って来て直ぐに、新しく創設される関西貿易会社の準備に追われている中、市太郎は新聞を読みながらアイスクリンを食べていた。
「優雅にアイスクリンを食べやがって。…いい御身分だな、市太郎。」
市兵衛がジト目を向けながら行った。
「親父、褒めても何も出ないぜw」
「はあー、…お前は43になった父親を労わろうとは思わんのか。」
市太郎は親父なら百歳まで余裕で生きるだろと言いかけたが、口に出る寸前でその言葉を飲み込んだ。市太郎は成長する男なのである。
「親父、頭や体を動かすのはボケ防止に繋がるらしいぞ!丁度、良いじゃないか!」
ドン
市太郎の頬に拳が飛んできた。
「痛って、何しやがる!」
「はあー、お前って奴は。…そう言えば、お前いくつだ?」
「ふっ、息子の歳も分からんのかw」
「早く答えんか!」
「今年で20だよ。」
「…」
「…黙り込んでどうした親父?」
「市太郎、そろそろ結婚しろ。」
「あー、それは無理だ。俺はまだ、人生の墓場に行くには早い。」
「愛人でも居るのか?」
「…」
「市太郎、知ってるか?俺の嫌いな言葉は"無理"、"出来ない"、"面倒臭い"だ。…お前もいい加減、身を固めやがれ!」
「…あっ…急に仕事を思い出した。…また後で!」
そう言って、市太郎は凄まじい速さで会社に向かって行った。
「おはよございます、副社長。…今日はおやすみだったのでは?」
事務の人が挨拶して来た。
「ああ、おはよう。…急に用事を思い出してね。」
おはようって、11:59まで言っていいよね?…今の時刻は11:15だが。
「副社長、大和川鉄道について報告したいのですが、お時間ございますか?」
井内部長が話しかけて来た。
「時間ならあるぞ。」
「では、ご確認下さい。」
そう言って、報告書を出して来た。
その報告書の内容は、少しずつ路線を伸ばして行ったため、現在難波〜尾崎間まで路線が伸びて行った事が書かれていた。総路線距離は43キロだ。
「ふむ、そろそろ本格的に貨物を運び始めるか。」
「はい、既存の列車に乗せる余裕は余りないので、専用の列車を用意した方が宜しいかと思います。」
「ああ、貨物列車を用意しよう。…海からの荷物を迅速に下ろすための大きな港が欲しいな。…神戸に港を作るぞ。」
「分かりました。」
この港、後の神戸港が大和川鉄道を大きく成長させる要因になる。
読んでくださり有難うございます!
評価やブックマークをして頂けると投稿ペースを上がるかもしれないのでつけて頂けると幸いです。
評価は⭐︎マークからできます。
感想やレビューを頂けると嬉しいです。
最後に今後も応援した貰えると助かります!